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05.ピンチには関係無い


 念話を使ってあたしはソフィエンタに相談している。


 あたしとジェイクに呪いをかけた神官が徹底的に揉めたとする。


 その時、ソフィエンタと魔神さまは空気が悪くなったりしないんだろうか。


「大丈夫なの?」


「気にしすぎだと思うわよ。本人に訊いてみてもいいけれど、アレスマギカはその子の師匠ではあっても親では無いもの」


 そういうことなら気にしなくていいんだろうか。


「念のため、魔神さまに訊いてみて欲しいわ」


「あら、その言葉でウィンは、態度を変えることもあるのかしら? それにあなたは、問題の逃げた神官の子を見つけたと思っているの?」


 魔神さまに何か言われたとしても、態度は変わらない気がするんだよな。


 われながら強情だな。


 見つけたかどうかについては、あたし的には半信半疑ではある。


「ええと、ただの予感だけれど、ザックとかいう研究員じゃないかしら? フィル先生が見つけたっていう人よ」


「その根拠は予感だけ? まさかウィンの予感が働いたからって、当人に言うのかしら?」


 それは――


「そう言われたらそうなんだけど。言いがかり扱いになるかしら?」


「あたしが応えなくても、自分で分かってるわよね?」


 もちろん分かっている。


 スキルの予感が反応したからというだけで、逃げた神官と同じ奴だというのは色々と調査をすっ飛ばしてしまっている。


「分かってる。見付けた気になっていただけなのもね。――でも、魔神さまの弟子っていうのを気にしたのは本当よ」


「そこを分かってるならいいわ。どうしても気になるみたいだし、アレスマギカに訊いてみます。あと、デイブくんも逃げた神官の子に訊きたいことが出来たって言ったわよね?」


「そうね。自称の『竜担当』っていう言葉とかが気になったみたいよね」


「ウィンは気にならないの?」


 それは好奇心っていう意味だろうか。


 それとも竜へとけしかけられるような状況を、避けるという意味だろうか。


「うーん……」


「あら、珍しく即答しないのね?」


 いや、だってディンラント王国で竜に関することって、考え始めると色んな面倒ごとがありそうじゃないか。


「あたしが気になるのは、面倒ごとっていう側面と好奇心って側面なんですけど?」


 ソフィエンタにはそう伝えると、なにやら細く息を吐いている気がする。


 念話なのに器用だな。


「そうね。そういうことなら、いちどそこも含めて、アレスマギカと話す機会を作ってもいいかも知れないわね」


「ごめんね、突然ヘンなことで連絡して」


 思いっきりあたしの私情だもんなあ。


 ジェイクの件でモヤモヤするからといって、本体とはいえソフィエンタの助力を得ていいんだろうか。


「別にいいわよ。ダメなことならダメっていうし、応えられないならノーコメントだし」


「そういえばソフィエンタって、ノーコメントって言うわよね」


「まあね。――他には話しておくことはあるかしら?」


 あると言えばあるのだけれど、これはディアーナに相談して魔神さまに訊いた方がいいんだろうか。


「ソフィエンタに訊くのは違うかも知れないんだけどさ」


「ええ、どうしたの?」


「例の神官が『竜担当』って自称したみたいじゃない。組織名も『精霊同盟』とか言っていたけれど、そこは魔神さまに相談するとして、神官は竜をどうしたかったのかしら? 魔神さまが人間だった時に、何か計画していたの?」


「そうねえ……」


 なにやら即答を避けているってことは、こんどはソフィエンタとしても即答できない何かがある訳か。


「ソフィエンタが例の神官を押さえるように言ってこないってことは、邪神群とかこの星のピンチには関係無いのよね?」


「今のところはそう判断しているわ」


 そうなのか。


 ソフィエンタが判断できるということは、そのための材料があると思うんですけど。


「理由を教えてはくれないの、ソフィエンタ?」


「そうねえ……、その辺りも含めてアレスマギカに確認しておくわ。他には何かあるかしら?」


 今のところは基本的に、気になるのは例の神官がらみの話だけだ。


 あたしはソフィエンタにそれを伝え、礼を言って念話を終えた。


 念話を終えた後はいつも通りに日課のトレーニングを行い、それが終わったら読書をして寝た。




 一夜明けて二月第二週の闇曜日になった。


 休みということもあり、今日は特に午前中は予定が入っていなかった。


 いつもよりもゆっくり目に起き出して、身支度を整え朝食を済ませる。


 何も予定が入っていない休日をどう過ごしたらいいものか。


 少し考えて、あたしは『本場仕込みの生ハムの揚げピザ』の屋台のことを思いだす。


「確かにアレ、美味しかったのよねぇ」


 思わず呟きながら寮の中を歩く。


 寮の朝食に不満は無いし食べた直後ではあるけれど、思いだしてしまったものは仕方がないんですよ、うん。


 確かジューンが魔道具研究会の先輩から聞いてきた話だ。


 件の屋台は、『附属病院の入院患者が脱走して買いに行く屋台のひとつ』になっているとのことだった。


 午後は教皇さまの家を訪ねる予定があるけれど、それまでは時間がある。


 たまにはそういう噂を検証しに繰り出すのも、いいかもしれないな。


 そう思ってあたしは自室に戻り、動きやすい服装にスカートとレギンスを合わせてブーツを履く。


 そこにコートを羽織って寮の玄関に向かった。


 外出の手続きを済ませると、ちょうどニナがその場に現れる。


「おはようなのじゃウィン」


「おはようニナ。あなたもどこかに出かけるの?」


 ニナは外出用の黒のゴスロリドレスをビシッと着込んで立っているけれど、買い物にでも行くのだろうか。


「そうじゃな。特に予定も無いし、ちと商業地区にでも行こうと思っておったのじゃ」


「そうなんだ。――ねえ、そういうことならこの前食べた『生ハムの揚げピザ』の屋台を探しに行かない?」


 あたしがそう告げるとニナは苦笑する。


「確かにあの屋台のパンツェロッティは、良いものだったのじゃ。もういちど味わうのはやぶさかでは無いのじゃ。しかしのう、妾は先ほど朝食を食べたばかりなのじゃ」


「大丈夫、あたしも食べたばかりなのよ」


「それは……、何が大丈夫なのじゃ?」


 ニナには呆れられてしまったけれど、ジューンから聞いた『入院患者が脱走して買いに行く屋台』を探しに行く話をしたら笑われた。


「フフフ、そういう事じゃったら、行きでその屋台を探しに行くのじゃ。そして商業地区で買い物を済ませたら、再度二人で屋台に行くというのはどうなのじゃ?」


「べつにニナの買い物に付き合うのは構わないわよ? 午後はちょっと人に会う約束があるけれど」


「人に会うとな?」


「うん。ゴッドフリーお爺ちゃんの友達ね」


 ウソは言っていない。


 まあニナはあたしが『薬神の巫女』なのは知っているし、教皇さまに会う予定を話してもいいのだけれども。


 その辺はまた後で考えよう。


 手続きを済ませたあたし達は寮を離れ、附属病院の方にある学院の出口に向かった。




 学院を出て、あたしはニナと大通りを歩く。


 相変わらず魔神さまの『聖地』を目指した巡礼客らしい人たちが多い。


「どの辺だと思う?」


「そうじゃな。ジューンが聞いた噂通りじゃったら、そこまで遠くないと思うのじゃ」


 入院患者が脱走して行く屋台だもんなあ。


 遠い場所にあったら、色々と附属病院で問題になって取り締まりがきつくなるだろうし。


「そうよね。十五分くらい歩いて見付からなかったら、附属病院前の門に戻りましょうか」


「それでいいのじゃ」


 ニナがのんびりとした口調で頷くので、あたし達は休日らしく散歩の感覚で大通りを歩いた。



挿絵(By みてみん)

ジェイク イメージ画 (aipictors使用)




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