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04.挑戦してこればいいわけで


 レベッカとの話を終えて、あたしはいつも通りにアルラ姉さん達と夕食を食べた。


 デイブとサイモン様にご馳走になってしまったので、食べる量を控えめにした。


「どうしたんですのウィン?」


「ん? 何の話?」


「あなたにしては食べる量が少なすぎますわ。もしやどこかで秘かに買い食いを始めた……、ということはウィンはありませんわね」


「そうね。今日はデイブに呼び出されて、気になる話を聞いてきたのよ。その時におよばれしたの」


 三人はあたしの言葉に納得したものの、アルラ姉さんから『気になる話』について訊かれた。


「うーん……」


「もしかして月輪旅団絡みの話なのウィン?」


「いや、そういうワケじゃあ無いんだけどね。ちょっとナイショ話かなって思ってたのよ」


 あたしとアルラ姉さんのやり取りを見ていたロレッタ様が告げる。


「話す気があるなら防音にするわよウィン?」


「うーん……。お願いしますロレッタ様」


「分かったわ」


 ロレッタ様はそう言って【風操作(ウインドアート)】を使い、あたし達の周りに見えない防音壁を作った。


 無詠唱を使わないのは、寮の食堂にいるほかの子たちへのアピールなんだろうか。


 ともあれ、あたしはサイモン様から聞いた話を伝えた。


 サイモン様は魔神さまが人間だったころの弟子で、『政治』を学んだ。


 ほかに商人をしている人は、『商売』について学んだ。


 そしてジェイクに呪いをかけて逃げ、失踪した神官も弟子だった。


 その神官は『精霊と魔法』を学んでいた。


「――そういう話を教えてもらったんです。弟子同士の横のつながりはあったようですが、行動を同じくするわけでは無かったそうですね」


『…………』


 あたしの説明に姉さん達は考え込んでいる。


 確かに魔神さまの弟子とか言われたら、どういう内容だったのかとか気になるだろうな。


 いちおうあたしは三人に釘をさす。


「ええと、ここまで話しておいて何ですけれど、サイモン様が好意で教えてくれた話なんです」


「分かっておりますわウィン。他の者には秘密といたしますの」


「そうね。必要に駆られなければ私も秘密にするわ


「私もそうするわ」


 キャリルとロレッタ様とアルラ姉さんが順にそう応えてくれた。


 その後は魔神さまから教わった『精霊と魔法』という内容を姉さんとロレッタ様が想像して、二人で盛り上がっていた。


 それを横目にキャリルが告げる。


「どうせウィンはその逃げた神官を捕まえて、ジェイク先輩の件でケジメを付けさせることを考えていたのでしょう?」


 ヤバい、バレてるぞ。


「分かるわよね?」


「無論ですの。あなたのマブダチを舐めてはいけませんわ」


 そう言ってキャリルは得意げに微笑む。


 あたしとしてはデイブから聞いた決闘の話をキャリルにするべきか迷った挙句、いま決闘について説明するのは保留することにした。


 単純に『わたくしも混ぜなさい』といわれるのが怖かったんです。


 そのあとロレッタ様が、ティルグレース伯爵家の用事でキャリルと共に明日邸宅(タウンハウス)に行くことを聞いた。


 シンディ様も何やら忙しいみたいだけれど、困ったときはいつでも相談するように言っていたそうだ。


 あたしはロレッタ様とキャリルに感謝を述べ、シンディ様に宜しく伝えるようお願いした。




 夕食の後は宿題をやっつけて一息つく。


 そしてあたしは勉強机に向かいつつ、ボンヤリと竜のことに付いて考えていた。


 竜の話といえば、アシマーヴィア様から教わった秘密の話がある。


 ノーラの相談に乗ったときに、ノーラの本体であるアシマーヴィア様がゴキゲンになって色々とヤバそうな話を教えてくれたのだ。


 『竜とお姫様』という伝承が事実であること。


 竜が精霊の試練を受けると『神性龍(ディバインドラゴン)』になること。


 神性龍はこの星の大精霊と交感して、星をめぐる環境魔力を調整していること。


 それは神々が神性龍に託した役目であること。


 神性龍になることに失敗した竜は魔力暴走を起こし、討伐されること。


 ディンラント王国は建国以来その討伐を請け負って来たこと。


 その役目は『神殺し』と非難されるリスクがあること。


 その辺りのことを思いだしていたら、何ともなしに陛下の言葉が頭に過ぎる。


「この前の『勉強会』の騒動の後に、『神より定められた責務』とか言ってたんだよな」


 果たして竜の討伐の真相は、ディンラント王家が何らかの神格に頼まれたからなんだろうか。


 それをあたしが聞いたら、色々な面倒ごとに巻き込まれることが確定なんだろうか。


 例えば竜と戦わされるとか。


「ああ――、(竜と)戦いたくない」


 思わずあたしは呟いて、椅子に座る姿勢をだらしないものに変えた。


 巻き込まれたら、あたしも連行(ドナドナ)されて竜にけしかけられるんじゃないだろうか。


「そういえば……、竜っていえば……」


 失踪した神官は、サイモン様の話では『竜担当』を自称していたそうだ。


 竜担当って、竜のなにを担当するんだろう。


「竜殺し? いや、違うわよね……?」


 もしそうなら王都の王立国教会本部で神官なんかせずに、とっとと竜種の生息域に旅をして挑戦してこればいいわけで。


「竜殺しをして、そいつは満足するのかしら……」


 なにかが違う気がする。


 サイモン様の話では、その神官は『精霊と魔法』について学んでいた。


 アシマーヴィア様の話では、大精霊と交感して星レベルの環境魔力の調整を行うのが神性龍とのことだった。


「神性龍が担っている、その状況を変える? ……だとしてもどういう方向にかしら?」


 まさかとは思うけれど、神性龍がやっていることを人間が直接できるようになりたいのだろうか。


 大精霊って、星に満ちる自然の力そのものだとおもう。


 それってヒトの力で、どうにかできるものなんだろうか。


 できるというなら、竜は神性龍を目指す必要は無さそうだ。


 それはつまり人間には難しそうなんじゃないのか。


「壮大というか、それ以前にバカげた妄想で終わりそうな話よね――」


 『竜担当』を自称した者が、『精霊同盟』の名づけを行った魔神さまの弟子でなければ。


「うーん……、魔神さま的には、どう考えているんだろう」


 そう言えば魔神騒乱の直前には、人間だった時に何やら陛下に直訴していたんじゃなかったか。


「ソフィエンタに相談しようか……。でも正直、魔神さまにも訊きたいんだけれど……。あたしの行動で、ソフィエンタと魔神さまが揉めたりとかもイヤなんだよな……」


 あたしはそう呟いて、重く息を吐いた。




 椅子をローズマリーの鉢植えに向けてから座り直し、あたしは胸の前で指を組んで目を閉じた。


「ソフィエンタ。竜のことというか、ジェイクに呪いをかけて逃げた神官のことで相談したいんだけれど、いいかしら?」


 あたしが口に出して問うと、ソフィエンタからは念話で返事があるので、そのまま念話でやり取りをする。


「どうしたの? 大体想像はつくけれども」


「うん。今日デイブに誘われて、サイモン様とデイブが話し込んでいるところに行って来たのよ」


「それは知ってるわよ、見ていたもの」


「なら話が早いわ。例の神官は魔神さまの弟子だったみたいなの。あたしとしては、今後もし本人が見つかったらブッ飛ばしたいんだけど、大丈夫かしら?」


「あなたねえ、そんなことをあたしに相談するの? 好きにすればいいじゃない」


 そう言ってソフィエンタは念話ごしに笑う。


「でもさ、魔神さまの弟子なのよね? 魔神さま的には弟子を標的にされたら怒ったりしないかしら? そうなったらソフィエンタも顔を合わせづらいわよね?」


「ふふ、全く、何を言うかと思えば、そんなどうでもいいことを気にしてたの?」


 どうでもいいことなんだろうか。


 ソフィエンタの反応が意外だったので、あたしとしては言葉に詰まってしまった。



挿絵(By みてみん)

アルラ イメージ画 (aipictors使用)




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