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09.素人では無いでしょう


 風紀員会の週次の打合せに参加している。


 使い魔のトレーニング関連の騒ぎはあったけれど、あたしの尾行騒動以外は平和な週だったみたいだ。


 そしてあたしの報告の番になる。


「まずは皆さん、大変お騒がせしました。ご存じの通りあたしが学院内で尾行されまして、その尾行した不審者が学院の部外者でした」


 そう言いながらみんなの顔を伺うけれど、尾行されていることは全員が把握してそうだな。


「リー先生、エルヴィス先輩、対処して頂きありがとうございました」


 リー先生は頷き、エルヴィスは微笑んでくれた。


「ウィンさんが襲撃などをされずに何よりでした。部外者の侵入は学院の不手際ですが、直接的にあなたに何も被害が無かったことは幸いでした――」


 そう言ってリー先生は、エルヴィスが尾行者を捕まえてからのことを説明してくれた。


 高等部の職員室の隣に会議室があるそうだけれど、まずそこに尾行者は連れていかれた。


 そこで【真贋(オーセンティシティ)】の魔法を使いながら事情を確認し、冒険者ということが判明する。


 直ぐに冒険者ギルドに事実関係を確認しつつ、陽動などの可能性も考慮して学院構内をパトロールした。


「なお、パトロールには筋肉競争部の皆さんが、笑顔と筋肉で全面的に協力してくれました!」


『おおー……』


 カールは目をつぶって腕組みして頷いていて、ニッキーとエルヴィスとジェイクは曖昧にニコニコと笑っている。


 アイリスとエリーは固まったような笑顔を浮かべ、キャリルはとくに力まずに笑顔で頷いている。


 あたしとしてはリー先生のその説明に、どう反応してもヤバい気がした。


 仕方がないので黙って頷いていたけれども。


 リー先生によるとパトロールで特に不審者が見つからなかった。


 先生はあたしに連絡し、冒険者ギルドに今回の尾行の調査を要求した。


 同時に王宮に事例の報告をして、とりあえずの対処を済ませたという。


「リー先生、改めて対応に感謝します。ありがとうございました」


 あたしが座っていた椅子から立ち上がって一礼すると、リー先生は優しく微笑む。


「学院としては当然の対応です。本来は先生たちや警備の人員の仕事ですが、皆さんも警戒心をもって過ごしてください」


『はい (ですの)(にゃ)』


 そうして風紀委員会の週次の打合せは終わった。




 打合せの後にみんなで少し話したのだけれど、今回の尾行者のような部外者が生徒の格好をして学院で何か仕出かすことはたまにあるらしい。


「僕が知る限り、年に一度あるかないかくらいですよね?」


「そうですね。ブライアーズ学園などに比べて、我が校は制服があります。それを揃えて潜り込むのは面倒でしょう」


 カールが問うと、リー先生が苦笑して応える。


「ということは、制服を用意して入り込むのはけっこう危ない人なんですかね?」


「そうね。物理的に制服を用意するならその準備でお金を使っているし、認識を変えるような魔法を使う侵入者は素人では無いでしょう」


 アイリスの言葉にニッキーが応えるけれど、その内容にみんなは表情を曇らせる。


 ただしキャリルは笑顔を浮かべているけれども。


「わたくしとしては、そのような使い手と遭遇したときには、ぜひとも戦ってみたいですわ」


「キャリルさんは勇ましいなあ。ぼくなら気が付いた段階で直ぐに撤退して、先生に連絡すると思う」


 ジェイクが苦笑いしているけれど、リー先生は「それが正解ですよ」とジェイクに告げる。


「ただし、どうしても逃げられないときは、迷わず近くの筋肉競争部の子に頼ってくださいね?」


『…………』


「いや、ええと、先生。そう都合よく筋肉競争部員がいるとは限りませんよ」


「そうにゃー。それに不審者を相手にするのは危険にゃ」


 エルヴィスとエリーが応じるけれど、リー先生は自信ありげな表情を浮かべているぞ。


「大丈夫です。彼らは不穏な気配を感じると、そちらに向かうように訓練していますので。元々、卒業後に騎士を志す子が多いですし」


 騎士志望なら、たしかに戦いの気配に敏感な方が将来助けにはなるとは思う。


「そうは言っても、ヤバい侵入者には不安では無いですか?」


「ウィンさんは心配してくれるのですね、部員たちも喜びます!」


 そう言われたらあたしは曖昧に笑うしかなかったのだけれど。


 先生によれば筋肉競争部の人たちは、ウェイトトレーニングなどのために地魔法の練習が必須らしい。


 加えて、地魔法の上級魔法を覚えている生徒が多いのだそうだ。


『ふーん……』


「ですので万一の場合は、筋肉の鎧を躍動させつつ、地魔法の上級魔法で防御盾を構築しながら殿(しんがり)をつとめて撤退してみせるでしょう」


『おー……』


 誇らしげにそう力説するリー先生に感心 (?)の声を上げつつ、あたし達はその場を解散 (撤退)することにしたのだった。




 あたしはキャリルとアイリスと共に部活棟まで移動し、キャリルとは玄関で別れて美術部の部室に向かった。


 今日はニナとアンの姿があるので、彼女たちの傍らで木炭画を描き始めた。


 三人で商業地区の街並みの話とか、建設中の新しい街並みのことをお喋りしつつ、あたしは何となく風景画を描いていく。


 しばらく穏やかな時間を過ごしていたのだけれど、突然魔法でデイブから連絡が入った。


「ようお嬢、こんにちは。いま大丈夫か? ちょっとおもしれー話が聞けたんだけどよ」


「こんにちはデイブ。何よ突然?」


 ただの面白ネタの共有というだけで、魔法を使ってデイブがわざわざ連絡して来たことは今まであっただろうか。


 たぶん直ぐに伝えるべきだと判断しての話だと思うのだけれど、あたしとしては微妙に面倒ごとの予感がし始めた。


 それでも、あたし的にはデイブから話を聞かなければいけない気がする。


「これからこっちに来れねえか? 直接話したいことがあるんだ」


「また急ね。……けっこう大事な話なのかしら?」


「さてね。ただお嬢は前に気にしてた話だと思うぜ」


 どの話だろうか。


 デイブの口調はユルい感じだけれど、なぜか無視できない気がする。


 そもそも放課後のこの時間に呼びつけるということが気がかりだ。


「分かったわ。どこに行けばいいかしら?」


 あたしはデイブがいる場所を聞き出したけれど、デイブの店からほど近い酒場に居るようだ。


 直ぐに向かうことを伝えて、あたしは連絡を終えた。


「ウィンちゃん、どこかにでかけるの?」


「うん。ちょっとデイブに呼び出されちゃったのよ。何か情報があるみたい」


「気を付けてのう」


「うん、行ってきます」


 あたしはアンとニナにそう告げて、画材を仕舞って寮に向かった。


 自室で着替えて寮の受付で外出の手続きを済ませ、寮の外に出る。


 そのまま内在魔力を循環させてチャクラを開き、身体強化と気配遮断を行って目的地に向かった。




 待ち合わせの酒場に着くと、気配を抑えたデイブのすぐそばにサイモン様の気配がした。


 二人で何か話していたんだろうか。


 そう思いつつデイブ達の傍らに立ち声を掛けた。


「こんにちは、お話があるということで伺いました」


「ようお嬢、わざわざ済まねえな」


「こんにちはウィン。いつもプリシラが世話になっているね、ありがとう。……近くに来るまで全く気が付かなかったよ」


 彼らのテーブルの上を見ると、どうやら二人で酒を飲んでいたようだ。


 一体どういう状況なんだろうと思いつつ、口を開く。


「気配の扱いには慣れていますからね。それよりプリシラ様にはこちらこそ、いつも良くして頂いています」


 あたしはそう告げて一礼すると、サイモン様は嬉しそうに微笑み、デイブはニヤケ顔を浮かべた。


「な、言った通りだろ? あれって外面(そとづら)なんだぜ?」


「いや、私にはプリシラへの本音が感じられるから嬉しいよ」


 二人はそう言って笑っているけれど、あたしはテーブルの傍らに立ち尽くして頭の中に疑問符を浮かべていた。



挿絵(By みてみん)

エリー イメージ画 (aipictors使用)




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