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08.割って入ろうというもの


 キュロスカーメン侯爵家は、自家の手勢でウィンの尾行騒動の黒幕まで辿り着いていた。


 それゆえサイモンは、デイブと話しながら内心安どしている。


「先ほども言ったが、君たちには恩がある。それに、受けた恩に報いるのは、君らの流儀に適うだろう。違うだろうか?」


 サイモンの言葉に笑みを浮かべつつ、デイブは口を開く。


「うちは今朝の段階で巨芯流(ギガントコア)までは追えていたんですが、問題の人物はこれからというところでした」


 デイブに頷きながら、サイモンが告げる。


「もたもたしていたら君たちが片付けただろう。黒幕の身柄は我が家の本邸(カントリーハウス)で押さえている。使いを寄こしてくれれば君らに引き渡すが?」


 デイブはサイモンの提案に首を横に振る。


「そこまで伺えたら大丈夫ですよサイモン様。――もともと北部貴族派閥に属する家をどうにかしようとした人間なら、派閥の中で処理した方が納得する者も多いでしょう」


「そう言ってくれると助かる。問題の人物の処遇に具体的な動きがあったら、また連絡する」


「分かりました。……それにしてもその黒幕、ウィンを尾行させてどうするつもりだったんでしょうね?」


「それなんだが、どうにかして懐柔して月輪旅団への都合の良い窓口にしようと考えていたようだ」


「それはまた色々と無茶な奴もいたものです」


 デイブとしては早々にウィンが怒り心頭に発する未来が想像できた。


「本当にその通りだ」


 一方サイモンは、デイブ達が問題の人物を秘密裏に始末している光景を想起していた。


「問題の人間はキュロスカーメン侯爵閣下――父が裁くだろうが、北部貴族派閥の貴族家のことがある。恐らく罪人として鉱山送りだろう」


「分かりました。そこまでが連絡の一つ目ですね」


 サイモンは頷き、遠距離通信の魔道具越しにヒメーシュから告げられた話を想起する。


「そうなんだ――。二つ目は我が家の他に、ドゥラガンクローガ公爵家とクリーオフォン男爵家も関係する話だ」


 貴族家の名が二つ加わったことで、デイブは警戒心が増す。


 だが直ぐにその家名がブルーとオリバーのものだと気が付き、内心何かを察して表情が緩みそうになった。


 それでも表情を崩さずにデイブは告げる。


「伺いましょう」


「ああ。といっても、私個人としてはどうかとは思うのだが……」


 サイモンはヒメーシュとオリバーとブルーが、ブルーの発案により紳士協定を結んだことを告げた。


「――そしてその内容だがウィンの縁談に関連する話だ。将軍閣下とわが父とクリーオフォン男爵閣下が、納得できる縁談以外には割って入ろうというものなのだ」


「…………」


 その言葉を聞いてから、デイブは最大限の集中力を発揮した。


 その上で完全に自らの身体の制御を意志の力で抑え込み、その場で腹を抱えて笑い転げる衝動を抑えきることに成功する。


 もっともデイブは頭の中で全力で大笑いしていたのだが。


「デイブ殿?」


「……ああ、失礼しました。ウィンはお三方に気にかけて頂き、幸せ者だなと考えていただけです」


「……本当にそう思いましたか?」


「ええ、事実ですよ」


 ただしデイブは、やはり脳内で大笑いしていたが。


「もっとも……、ハハハ……、ウィンの場合は、自分で婿を選びたがる気もしますがね」


「私はそれでいいと思っています。彼女はあれだけ聡明な子だ。自らの伴侶を自分で選び、未来を決めることが出来る子ではないだろうか」


「……ありがとうございます」


 デイブはサイモンの言葉に息をつき、満足そうな笑みを浮かべた。




 場の雰囲気が和らいだところで、デイブがサイモンに問う。


「それで、二つ目のお話は紳士協定の話だったのですね?」


「ええ。残りの一つは、私からの個人的なお願いです」


「お願いですか。何ですか?」


 デイブが問うとサイモンは席から立ち、デイブに歩み寄る。


 そして握手を求めるように右手をおもむろに差し出した。


「ここまでのやり取りを含め、私は確信したのだ。デイブ殿、突然済まないが私と友人になってはくれまいか?」


「…………」


 サイモンのいきなりの申し出に、さすがのデイブも少々表情が固まっていた。


 だが直ぐに頭をリセットすると席に着いたまま口を開く。


「真正面からですね。あなたは貴族家の方ですし、思索や分析が得意というあなたの評判からは意外です」


「私は魔神さまの弟子の一人として、君たち月輪旅団のあり方を尊敬する」


 デイブは思わず「魔神さまの……」と呟き、次の言葉を探してしまった。


「共和国の自由さや、それを超えた本来あるべき個人のあり方も、私は知るのだ」


「…………」


「君らの立場は、ただの個人主義でも氏族主義でもない。ゆえに尊敬するし、その王都での元締めたるデイブ殿に、友人になってほしいと思う。これは変だろうか?」


 サイモンはそう言ってデイブに視線を向け続けるが、その間も差し出した手を下げることはしなかった。


 デイブは困ったように微笑みながら椅子から立ち、サイモンの右手を取る。


「そこまで言われたら断る理由は無いですよ、サイモン殿。ですが友人というなら、口調は王都の下町の流儀になりますが、よろしいので?」


「感謝する。口調は気にしないさ。私もボーハーブレアで色んな友人を作ったのでね。普段通りに話して欲しい。サイモンと呼び捨ててくれていい」


「分かった、――これからよろしくサイモン。おれもデイブと呼んでくれればいい」


「こちらこそよろしく頼むデイブ」


 そう言って二人は握手を交わした。


 握手を解いたあとに、サイモンが機嫌良さそうに告げる。


「君に無事に連絡できて肩の荷が下りた。父からの伝言だけならまだしも、ブルー様や将軍閣下まで絡む話でね」


「そいつはまた面倒だったな」


「そうなんだ、何ならこの後食事でもどうだい? 私に話が降りて来るまでの経緯を説明するが? 特に北部貴族の武闘派が大パニックになってね」


「面白そうだが、せっかく友人になったんなら、どうせなら飲みに行こうぜ」


「それもそうだ」


 そう言って二人は笑い合い、ブリタニーに出かけることを告げに行った。


 飲みに行くことをデイブが「一杯だけ」と説明すると、ブリタニーは笑顔で土産を要求して送り出していた。




 午後の授業を受け放課後になった。


 あたしはキャリルと二人で風紀委員会の週次の打合せに向かうけれど、委員会室には他のみんながすでに揃っている。


「「こんにちはー (ですの)」」


『こんにちは』


 何やらあたしの顔を見てホッとしたような表情を浮かべているけれど、尾行の件で色々と心配かけてしまっただろうか。


 少しばかり申し訳ない気持ちになりながら、あたしは席に着いた。


 リー先生が週次の打合せを始めることを告げ、最初に共通の連絡事項の話を始める。


「まず今週ですが、皆さんも知っての通り、使い魔に関する特別講義が開かれました。その結果多くの生徒がトレーニングを始めていますが、トラブルなども起きています」


 あたし達が知るだけで、ニッキーから連絡があった非公認サークル同士での揉め事の件がある。


 『封じられた右目を開放する会』と『肉体に秘された封印が輝くのを目指す会』が、相手の使い魔を勝手に想像して言い合いに発展したとか。


 リー先生が問題のサークルの話を持ち出した時、口には出さなかったけれど勝手にやらせておけばいいのではと思ったのは秘密です。


 揉め事に関しては風紀委員会のいつものスタンスで、初動対応から先生たちへの連絡と引き継ぎをお願いしますとのことだった。


 それはいいのだけれど、揉め事ではないトラブルも起きているという。


「中には使い魔のトレーニングに疲れ、やる気をなくしたものの使い魔をあきらめきれないという生徒も出てきているようです」


「それは――、使い魔に限らず魔法関連のトレーニングに一般的に起こることでは無いですか?」


 先生の言葉にニッキーが口を開くけれど、あたし達も同意見だったりする。


 それに対してリー先生は笑顔を浮かべる。


「その通りなのですが、今回は学院全体で一斉にトレーニングが始まりました。上級生はそのようなトレーニングに慣れていますが、下級生はそうとも言えません」


「たしかに初等部の子たちは、高等部の先輩たちと同じことが出来る訳じゃないにゃー」


 エリーの言葉にみんなも頷く。


「今のところ各クラスの担任を通して、クラス委員長に注意喚起を出しています」


 リー先生の説明では、使い魔のトレーニングで困っている生徒は、クラス担任に報告するようになっているようだ。


「それでも場合によってはトラブルになることもあるかも知れません。皆さんはそのような話を聞いたり相談されたときは対応してあげてください」


 そしていつでもリー先生に連絡して欲しいとのことだった。


 あたし達が頷くと、個別の連絡事項に話が移った。



挿絵(By みてみん)

ニッキー イメージ画 (aipictors使用)




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