02.調査のことで話をしよう
史跡研究会の部室を訪ねると、ライゾウ以外にも生徒の姿がある。
コウとマクスとパトリックだった。
「こんにちわー」
『こんにちは』
「おーす」
マクスめ、てきとうな挨拶を返しやがって。
でもそれはいいとしよう。
あたし的には、記憶が確かなうちに形にしてしまいたい。
「どうしたんだいウィン?」
コウがあたしの表情で何かを察して声を掛けてくる。
「ああうん――、遺跡調査のことで話をしようと思ってたんだけど、ここに来るまでに妙な人を見かけたのよ」
あたしはそう言いながら開いている椅子に座る。
「ウィンが妙な人っていうんだから、そりゃもう凄そうな奴だと思うんだぜ」
どういう意味だよマクスよ。
あたしが視線を向けると、反射的にマクスはニヤニヤしながらサッとあさっての方向に顔を向けていた。
まあいい、マクスのことは後にしよう。
あたしは前に風紀委員会のみんなと練習した手順で【土操作】を使い、先ほど見かけた男子のミニチュア像を作り上げた。
「まあ――こんなもんでしょう」
「それが問題の『妙な人』かい?」
パトリックがそう言って、あたしが机上に置いたミニチュア像を観察する。
コウとマクスも少しマジメな表情を浮かべ、観察し始めた。
「妙な人って、なにかトラブルでも起こしていたのかウィン?」
「そういうわけじゃあ無いですけれど、尾行をされたんですよ」
『尾行?!』
ライゾウに訊かれたので応えると、みんなが揃って反応した。
反応した声には、史跡研究会の部室に丁度入ってきたエルヴィスとディアーナも含まれている。
あたしが二人に視線を向けると、軽く手を上げつつあたしのところに来た。
「ちょっとそれ、見せてもらっていいかいウィンちゃん?」
「あ、はい。心当たりはありますか?」
エルヴィス先輩にミニチュア像を手渡すと、じっと観察して彼は告げる。
「心当たりはないかなあ。……どこで尾行されたんだい?」
「ええと、狩猟部の練習で部活用の屋外訓練場に居たんですけれど、引き上げるときに視線に気づきました。そのあとヘタクソな尾行で部室までついてきてましたね」
その説明でその場のみんなの表情が硬くなる。
「それで、そいつはどうしやがったんだぜ?」
「どうって、狩猟部の部室で気配を消して尾行を撒いてきたわ。つけられなかったし、まだいるかも知れないわね」
「それならそのウィンの陰気な新しいお友達はとっ捕まえて、必要ならゲンコツくれてでもヒーヒーぶっこ抜いてくるんだぜ?」
ちょっと待てよチンピラ。
「待ちなさいよマクス。――っていうか、みんななんで一緒に行こうとしてるのよ?!」
『え……?』
「え、じゃないでしょ?! これは後で報告すればいいじゃない。明日には風紀委員会の週次の打合せもあるんだし」
あたしがとっさにそう告げると、エルヴィスが目が笑っていない状態で笑顔を浮かべた。
「今日は何かの下見かもしれないじゃないか。ウィンちゃんの実力を測ってから、もっと面倒な人が出てきたらどうするんだい?」
「当然逃げますけど?」
当り前じゃないですか。
誰かが絡まれているならいざ知らず、わざわざ面倒な相手をどうこうする時間がもったいないわけで。
『…………』
「確かにウィンは逃げ切れるだろうけどな」
「正直、ウィンのお友達だとしても、イヌ獣人よろしく不躾に尾行するなんざ問題だぜ?」
「さすがにそれは獣人への偏見だと思うよマクス?」
「確かにウィンがピンチになる状況は想像できないかな」
ライゾウとマクスとパトリックとコウが順にそう告げて、互いに頷いている。
納得してくれたのならいいのだけれども、微妙に釈然としないのはなぜだろうか。
特にマクス。
「そうは言っても不審者だったら問題だし、ボクが見てくるよ」
エルヴィスがそう言ってくれるけれど、直ぐにディアーナが付いて行こうとする。
だが彼はそれを制する。
「ディアーナはみんなと話していてくれないかい?」
「でも兄さん……」
「大丈夫、ボクの友達にはそれこそ獣人の子たちもいるからさ、追跡を手伝ってもらってくるよ」
エルヴィスの言葉にディアーナはしぶしぶといった様子で頷いた。
「エルヴィス先輩、済みません」
「いいんだ。たまには風紀委員の先輩らしいことをさせて欲しい」
そう言ってエルヴィスはイケメンスマイルを浮かべてウインクしてみせた。
あたしには特に通用しなかったけれども。
エルヴィスは直ぐに部室を離れ、部活棟の廊下を駆けて行った。
尾行者のことというよりは、エルヴィスをまき込んでしまったことが微妙に気になってしまう。
それでもディアーナが笑顔であたしに告げる。
「あやしい人の調査は兄さんがやりますよ。それよりもウィンさんはどうしたんですか?」
まあ、エルヴィスの腕っぷしなら、危ない目に遭うことは考えづらいか。
友達がって言っていたし、一人で動かないなら大丈夫だろう。
「あ、うん。そうね、エルヴィス先輩に任せれば大丈夫よね。さっきもちょっと言ったけれど、今日はもともと遺跡調査のことで話をしようと思ってたのよ」
「あ、そうだったんですね」
あたしとディアーナのやり取りに、ライゾウが視線をこちらに向ける。
「レノからウィンやキャリルも参加してくれると聞いている。恩に着る」
そう言って笑顔を浮かべながらライゾウは椅子から立ち上がり、その場であたしにお辞儀をした。
「ちょっと先輩?! 改まって大げさじゃないですかそれ? 参加自体はあたしも興味があるからなんです。そんなに他人行儀にしないでくださいよ」
「そうだぜライゾウ先輩。ウィンなんざ大体、焼き菓子でも渡しとけばご機嫌なんだぜ?」
「…………あ゛?!」
マクスがまた禄でも無いことを言い始めたのであたしは殺気を向けるが、奴は受け流すかのようにサッと視線を逸らしてニヤニヤしていた。
焼き菓子うんぬんは微妙に真実を含んでいる気がするけれど、あたし的には気になる物言いなんです。
「まあまあ。――それでウィンが話したいことって、当日の流れとかかい?」
コウがイケメンスマイルを浮かべつつあたしに問う。
そのスマイルはエルヴィスのそれと同様に、あたしには特に何の効果も無かったけれど。
「当日の流れも気になるけど――あ、ライゾウ先輩、座ってください」
「分かった。他にも気になることがあるのか?」
「ええ、結局のところ、今回の調査がいきなりアタリを引いたときに、スタンピードとかって起こるんですか?」
『…………』
あたしの質問に、みんなはそれぞれ腕組みしたりして考え始めた。
最初に口を開いたのはマクスだ。
「安全のことを最初に考えるのはいい視点だぜ。その上で俺様としては、何かのスイッチを押さない限りはいきなりスタンピードとはならねえんじゃないかって思うんだぜ」
「ええと、その根拠は?」
あたしの問いにマクスが優等生モードの顔をして応える。
こいつの口調は粗野だけれど、魔法や魔道具まわりの話になると結構真剣な表情を浮かべることは多い。
たぶん何かマクスの中で基準があるんだろうけれど、あるいはドワーフ族の血みたいなものなんだろうか。
「あくまでも可能性なんだぜ? 調査の内容は聞いているが、対象のレリーフに魔力を流し込んで、何らかの魔道具的な機構の発動を確かめる予定なんだぜ?」
「ああ。その辺りの細かい話はまた説明するが、調査でやりたいことは要するにそれだな」
マクスの言葉にライゾウが頷くと、マクスもまた真面目な顔をして頷いた。
エルヴィス イメージ画 (aipictors使用)
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