12.達成感が倍増しに
あたしが目の前に風属性魔力で織り上げたハンカチを虚空に維持して観察していると、すこし離れた位置でディアーナが声を上げた。
「できました! 風のハンカチです! やったー!」
あたしたちが視線を向けると、ディアーナが彼女の目のまえの虚空に風属性魔力のハンカチを浮かべているのが見えた。
彼女が『夢の世界』に来たのは、あたし達の中では最後だった。
それでもディアーナは『魔神の加護』の強さが、加護が無い人と比べて十二倍だ。
加えて『魔神の巫女』だし、魔法の上達とかにも魔神さまから補助があるのかも知れないな。
でも本人が努力しない限り、補助があっても上達はしないだろう。
『魔神の加護』の性質を考えるに、魔神さまの方針が何となく想像できる。
「おめでとう、ディアーナ」
他のみんなに混じって、あたしも彼女が成功したのを喜んだ。
それはいいのだけれど、あたしが成功したのも気づかれた。
「ありがとうございま……す? ウィンさん、もしかして成功しました?」
「たぶん課題クリアかなって思うわ」
そう言ってあたしは自分の風属性魔力のハンカチを空中に維持しつつ、サムズアップした。
『おめでとう!』
「わたくしもディアーナとウィンに負けていられませんわ!」
「同感なのじゃ!」
「みんながんばりましょう!!」
みんなが喜んでくれたあと、キャリルとニナとロレッタ様が叫ぶ。
『えいえいおー!!』
そしてなぜかあたしとディアーナ以外はテンションを上げている。
目の前で課題クリアを見て、自分たちの達成も近いと思ったんだろうか。
魔法のトレーニングって結構孤独な作業だけれど、全員で課題クリアになるなら達成感が倍増しになる気がする。
そうなればあたし的には嬉しいだろうか。
みんなはやる気をみなぎらせて、属性魔力の操作系魔法のトレーニングを再開していった。
その後、あたし達は休憩を挟みながらトレーニングを続けた。
ちなみにあたしとディアーナは相談して、風属性魔力のハンカチサイズを大きく出来ないかを試した。
結果だけいえば、時間を掛ければいけそうな感じはする。
「でも問題は……、かかる時間よね」
「そうですね。いまのところ、ハンカチサイズをちょっと大きくなるだけで、糸を伸ばすのにすごく時間が掛かるようになったんですよね」
「「うーん……」」
休憩のときにみんなでおやつとお茶を頂きながら、あたしはディアーナとそんな話をした。
ニナによれば、魔法の制御の限界だろうという話だった。
「あくまでも、いまの時点での限界と思うのじゃ」
「ハンカチサイズで限界かー。“単一式理論”って、『最強の魔法』の練習だよねー? ハンカチサイズでも強いのかなー?」
ニナの言葉にホリーが首を傾げる。
それに対してニナはのんびりした口調で告げる。
「現時点でもディアーナとウィンは、かなりえげつないことが出来ると思うのじゃ」
『えげつない (ですの)?』
「うむ。ハンカチといっても、妾たちが挑んでおるのは普段は目に見えない魔力を糸にして織る方法なのじゃ――」
魔力は砂粒よりも小さいもので、それを集めて圧縮して糸にしてハンカチサイズにまでコントロールしている。
ニナはそれを指摘した。
「まわりの魔素を集めて圧縮して制御しているということですね」
「そうじゃ。個人差や周囲の魔素の量なども違うゆえ一定はせぬが、そうじゃな――商家にある特大サイズの木箱を思い浮かべるのじゃ」
ニナが言っているのは、地球でいえばコンテナサイズの木箱だろう。
「たとえば【土操作】や【水操作】を鍛えれば、その木箱サイズの土の塊や水の塊で敵を潰せるのじゃ」
「それって上級魔法の【石壁】や【水壁】が初級魔法で出せるいう話なん?」
「そうなのじゃ」
『…………』
具体的な話をしっかり確認すると、割ととんでもないことが判明した。
「ええと、ウィンとディアーナちゃんは【風操作】よね? 風の塊ってことかしら?」
アルラ姉さんが首を傾げながらニナに問う。
「そうじゃのう。そういう使い方もできるじゃろうが、――もっとシンプルに特大木箱サイズの空気を、ハンカチサイズまで圧縮できるわけなのじゃ」
『…………』
みんなはドン引きした表情を浮かべ、何人かはゴクリと唾を飲んだ。
「それってどうなるのニナ?」
あたしが問うと、彼女はのんびりした口調で応える。
「うむ。魔力や魔法で抵抗が出来ぬ相手なら、ぺちゃんこになると思うのじゃ」
『うわぁ……』
かなりとんでもない話だった。
あたしたちがドン引きしていると、ニナは溜息をつく。
「別に“単一式理論”を使わずとも、魔法はそういう使い方もできるのじゃ。しかし、風魔法なら突風で吹き飛ばしたり、風の刃で切り刻む方が多いのじゃ」
そう言いながら木工所で風魔法が良く利用されている話をしてくれた。
ニナに言われるまでもなく、たしかにミスティモントでもそうだったんだよな。
『…………』
ニナの説明であたし達は色々と考え込んでしまった。
「それならば、私は“単一式理論”で、そのような強さを得るのでしょうかと確認します」
プリシラが真っ直ぐな視線をニナに向けると、ニナは微笑む。
「プリシラならば、より洗練された使い方も思いつくやも知れぬのじゃ」
「私はそのような強さを得たいと確信しています」
そう言って彼女は頷き、他のみんなもそれぞれに頑張ると告げていた。
みんながテンションを上げ気味に属性魔力の操作系魔法を練習しつつ、あたしとディアーナはできあがった風属性魔力のハンカチを色々といじっていた。
遊んでいるようにも見えたかもしれないけれど、現時点で何か利用方法が無いかと思って試していたのだ。
なんとなくハンカチ状態でも何かに使えそうな予感がしたのだけれど、具体的なアイディアまでは思い浮かばなかった。
休憩のときにそんな話をした。
「なかなかいきなり新しい使い方を思いつくってワケにはいかないのね」
「それでも真剣に練習をしていれば、今日の武術研究会での『晴天の雷』のようなことが起きるかも知れませんわ」
あたしの言葉にキャリルがそう応じた。
『晴天の雷』とは、日本語の『瓢箪から駒』のニュアンスをもつディンラント王国での言い回しだ。
「武術研? なんか事件でもあったん?」
「ううん、ちょっと『必殺技を覚えたい』って言いだした子がいてね――」
あたしは放課後のルナやジェマとのやり取りの話をした。
そしてルナの必殺技として開発した車輪撃が、マイルズさんの必殺技である転然陣と被ったのを説明した。
「そんなことがあるんだねー。うちの流派だと、ちょっと思いつかないかなー」
「ホリーの場合は蒼蜴流ですし、必殺技、すなわち固有奥義の選択肢が広すぎるのではと推察します」
ホリーとプリシラが必殺技の話をしている。
たしかにあたしも月転流の体捌きで自分専用の固有奥義を開発しろと言われても、プリシラが指摘した理由で困ってしまうと思う。
そんなことを考えていると、ニナが何やら考え込んでいる表情を浮かべていた。
「どうしたのニナ?」
「ふむ、少々気になる話を聞いてしまっただけなのじゃ」
「ふーん?」
ニナのことだから、魔法に関する何かを思いついたのかも知れないと、このときは考えていた。
その後も休憩を挟みながら、あたし達は操作系魔法のトレーニングを続けた。
あたしとディアーナにしても新しい使い方は直ぐに思いつかなかったので、結局いままでのトレーニングを続けておこうということになった。
ジェマ イメージ画 (aipictors使用)
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