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06.目標としている効果


 明日の闇曜日の休日に、ブライアーズ学園のフィル先生を訪ね、魔法を習おうと思いついた。


 前回一緒に訪ねたニナの部屋に向かうと、グライフに連絡を入れた合間にニナから妙な話をされてしまった。


 あたし達のパーティー『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』は、魔力暴走への対処方法を研究する手伝いに参加した。


 パーティーへの指名依頼という形だったけれど、その指名依頼はもう完了している。


 ニナやマクスが引き続き研究に参加することは知っていた。


 そのニナが、単純な魔力暴走だけではなく、『魔獣毒』を『竜種』に使うための準備も進めているのではとあたしに相談してきた。


 何であたしなのかは確認するけれども。


「あ、ちょっと待ってね、グライフさんから折り返し連絡があったわ。――はい、ウィンです」


「確認が出来たぞウィン。フィルの奴は明日も研究室にいるようだ。例の論文化も目途が立っているし、魔法を教えるのも問題無いとのことだ」


「分かりました、確認ありがとうございます!」


 あたしはその後、明日の朝にブライアーズ学園の正門前で待ち合わせることを話してグライフとの連絡を終えた。


 ニナにそれを伝えたあと、彼女は頷く。


「うむ。それは承知したのじゃ。話の続きをするゆえ防音にするのじゃ」


 そう言ってニナは無詠唱で風魔法を使い、周囲に見えない防音壁を作り出した。


「それでじゃ。いま言った通り魔力暴走の汎用的な対処の研究のはずが、魔獣毒の扱いに妙なバリエーションを想定しているのじゃ」


「それが『竜種』なの?」


「うむ。――魔獣の睡眠毒は、魔法薬と違い量を誤れば使った相手は死ぬのじゃ。これは良いかの?」


「パーシー先生から前にそういう話を聞いた気がするわ」


 あたしの返事にニナは頷く。


「うむ。ゆえに睡眠の魔獣毒は、薄めても効果があるかを調べるべきなのじゃ。人間を相手にするならのう」


「それが違うのね?」


「そうじゃ。王国が兵器転用を見据えて魔獣毒を研究しようとしていることも考えたのじゃが――」


 ニナの話によれば、魔獣の毒を兵器として使う場合は、品質の管理の手間が増えるのだそうだ。


 管理の手間というのは、魔獣の毒はナマものなので、時間が経てば腐るらしい。


 それよりは魔石を使った魔法薬で、目的の効果のものを開発した方が軍事転用しやすいという。




「そう言われたらヘンな話ね」


「そこで思い当たったのが、魔法薬よりも瞬間的な効果の高い魔獣薬を開発しようとしていることなのじゃ」


「瞬間的な効果、か」


「魔法薬は、結局は魔素の集中で効果の高さが決まるのじゃ。しかし、ある一定限度を超えると、魔法薬内部の魔石が再結晶化をおこしてしまうのじゃ」


「魔石の塊に戻るのね?」


「魔法理論上はそのように説明がつくのじゃ。しかし、魔獣毒は必ずしも魔素とは関係が無いようなのじゃ」


 確かに生き物の毒としての成分なら、睡眠毒は魔素とかは関係無いのかも知れないけれども。


 その後もニナから説明されたけれども、目標としている効果が人間の致死量を軽く超えた睡眠毒らしく、資料の中に『竜種』という単語をついに見かけたらしい。


「話は分かったけれど、それをコッソリあたしに教えてくれたのは、どういうことかしら?」


「うむ。『竜種』というのがただの研究の指標で、使う予定が無いというなら問題は無いのじゃ。しかし共和国の一部、具体的にはトカゲ獣人やヘビ獣人の一族には、竜種の上位種を土地神のように崇める者たちがおるのじゃ」


 信仰が絡む話なのか。


 それはかなり厄介そうな気がする。


「場合によっては共和国が怒り出す話になるのね」


「否定は出来ぬのう。妾は共和国に不利益がある内容は、研究の守秘義務があっても伝えねばならんのじゃ。しかし今回の話はそこまでのものと即断は出来んのじゃ。ゆえに客観的な対応を月輪旅団に頼みたいのじゃ」


 そういう話なら、月輪旅団が手を出すかどうか、デイブに相談してもいいだろうか。


 でもニナが参加していて、共和国の事情をマーヴィン先生が見落とすとも考えづらい。


 ニナがキーワードを見かけたとしても問題無い研究の気がする。


 それでも、あたしが結論を出す話じゃあ無いよね。


「ええと、それってつまり月輪旅団で検討した方がいいっていう意味かしら?」


「少なくとも、妾がデイブに頼んだ話ということなら、無碍にはされぬと思うのじゃ。妾からデイブに直接相談しても良かったのじゃが、ウィンも場合によっては巻き込まれると思うのじゃ」


 巻き込まれるというのは不穏な言葉だけれども、否定はできないか。


「そうね、分かったわ。まずはデイブに相談してみるわね。明日の帰りでいいかしら?」


「よろしく頼むのじゃ」


 ニナはそう言ってホッとした表情を浮かべていた。


 自室に戻った後は宿題と日課のトレーニングを片付け、読書をしてから寝た。




 一夜明けて闇曜日になった。


 自室の扉をノックする音で、扉の向こうにニナが立っていることに気づく。


 あたしはがんばってベッドから起き出して、何とか扉を開けた。


「おはようなのじゃウィン」


「おはよう……ニナ……(スピー)」


 どうにも眠い。


 平日のあさは大丈夫なのはどうしてなんだろう。


 たくさん寮生がおき出して、その気配を察知して何となく起きてしまうからだろうか。


 寮生がおき出すのって、たくさんいっかしょに作られた鳥の巣から、朝になって鳥たちいっせいに起き出すのににている気がする。


 鳥ってかわいいよね。


 あたしはすきなんだけど、にがてなこもいるなあ。


 あれ、なんだっけ。


「…………」


「ウィンよ、授業のある日よりは遅い時間なのじゃ。そろそろ起きて朝食を食べに行くのじゃ」


「ちょうしょく……たべようか……」


「もうこの時間なら、いつもの朝食のようにパンとスープの他に卵料理なども付くと思うのじゃ。ヨーグルトなどもあるかも知れぬのう」


「よーぐると……、たまご……料理は、食べなきゃだめでしょう……。うん、着替えて食堂に行くわ」


 あたしは何とか意識を起動させた。


 その後ニナと二人で朝食を済ませ、ブライアーズ学園の正門に向かった。


 待ち合わせの時間には丁度くらいに到着したけれど、すでにグライフの姿がある。


「おはようお前たち」


「おはようございます (なのじゃ)」


 結構待ったのかを訊いてみると、本当に少し前に到着したそうだ。


 時間に正確な人との待ち合わせだと助かるなあ。


 そう思いつつ、あたし達は正門わきの受付で入構の手続きをした。


 学院へ赤の深淵(アビッソロッソ)の連中が入り込んできてから、ブライアーズ学園でも以前よりはチェックが厳しくなっているようだ。


 それでもグライフが身分証として冒険者登録証を提示すると、対応した警備のお兄さんたちが感激した様子で彼に握手を求めていた。


 グライフは高ランク冒険者なんだよなと再認識した。


 受付を済ませたあたし達は、場所も分かっているのでそのまま附属研究所に向かう。


 入り口の受付には話が通っていて、そのまま中に入りフィル先生の研究室に辿り着いた。


 前回訪ねた時と同様に、『魔法交通工学研究室』のプレートが掛かったドアの中からは、モーターの駆動音のような騒々しい音が響いていた。


「闇曜日なのに、ここの人たちは研究熱心なんですね」


「研究熱心と言えば聞こえはいいがのう、恐らく彼らには研究が趣味とか遊びの延長なのじゃ」


「吾輩も同感だな。頑張るというよりは、楽しんでいるだけだろう。それはそれでいい事だな」


 あたし達はそんなことを話しながら部屋の中に上がり込んだ。


「「失礼しまーす」なのじゃ」


 前回と同様に勝手に入り込むと、相変わらずの魔導馬車整備場という感じの室内だった。


 前回と違うのは、整備スペースで見かけた魔導馬車よりも、小型な乗り物のようなものが並んでいることか。


「あ、またあの子たちだ」


「あー、早くから部室に来たのはラッキーだったぜ」


「今回こそ、このチャンスを活かさないとダメだろ」


「カワイイよな、特にゴスロリ服の子はどこかのお嬢さまだろ、あの子」


 だから、何にそんなにテンションを上げているんだ彼らは。


 チャンスはピンチになることを、教えてやってもいいんだが。


 あたしがそんなことを思いつつ呆れていると、グライフが声を上げる。


「おはよう諸君!!」


『おはようございまーす』


 グライフの大声で全員が手を止めて一斉にこちらを見た。


 そしてその中には、作業机で何やら魔道具のようなものを組み立てていたフィル先生がいる。


「うむ、来たか貴様ら」


 そう告げるフィル先生の顔は機嫌が良さそうだった。



挿絵(By みてみん)

マクス イメージ画 (aipictors使用)




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