表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
738/911

02.利に聡いのかも知れない


 いつものようにアルラ姉さん達と夕食と取った後、自室に戻って宿題をやっつけた。


 そのあとは王立国教会本部でブルー様と戦ったこともあったし、日課のトレーニングは軽めに済ませて一息つく。


 共用の給湯室でハーブティーを淹れて自室で飲みながら、ふと思いついたことがあった。


「あー……、教皇さまと話す件はどうしよう……」


 基本的な方針としては、ソフィエンタからお告げがあったことにして教皇さまだけにバラして協力者になってもらうというものだ。


「方針はそれで行くとして、どこから切り出そうかしら」


 思わずそう呟いてから、スウィッシュと相談することを思い付いて呼び出す。


 勉強机の上でスウィッシュはあたしを見上げて首を傾げている。


 こうやって見ると、やっぱり使い魔って人間臭いよなって思う。


 見た目はチョウゲンボウだけれど。


「切り出し方の相談っていっても、ウィンはもうあるていど決めてるんじゃないの?」


「まあね。ソフィエンタの話だと巫女だっていうのは何となく気付いてるって話じゃない?」


「うん。だから『モフの巫女カッコ仮』の件で相談に行くことにして、向こうが切り出す前にウィンから話すんだよね?」


「それなんだけど、どうしようかしら? 教皇さまに指摘されてから『じつは』って切り出したほうがいいのかな?」


「そうだなあ……。ぼくとしては、ソフィエンタのお告げで動いてるなら、いきなり切り出したほうがいいんじゃないかなっておもうけど」


 たしかに、教皇さまから問い詰められたから説明するのだと、しぶしぶ感が出そうだよね。


 スウィッシュとはそんな話をして過ごしてから、その夜は早めに寝た。


 そして一夜明けて光曜日になった。




 いつものように一日を過ごして放課後になる。


 あたしとキャリルはクラスのみんなと別れて風紀委員会室に向かった。


 今日はリー先生がまだ来ていないけれど、他のみんなが揃ったところでカールが口を開く。


「それじゃあ、週次の打合せを始めよう。リー先生は急な来客があったそうで、今日は打合せに間に合わないかも知れないそうだ――」


 共通の連絡事項については、カールが事前にリー先生から聞いていたという話を説明してくれた。


「学院内では大きな問題は起きていないが、今週から『聖地案内人』が始まった。その件で我が校の生徒では無いけれど、幾つか問題が報告されている――」


 カールからの話では、姉さんから聞いたボーハーブレア学園生徒の『脱走』未遂の件が出た。


 しかもどうやら似たような件が、『聖地案内人』が始まってからほぼ毎日起きているという。


「それは全部ボーハーブレアの生徒なの?」


「どうやらそうらしい」


「懲りないというか学ばないというか、先生たちは注意しないんですかね?」


 ニッキーが訊くとカールが応え、ジェイクも質問した。


 カールによればボーハーブレアの先生たちは、生徒の脱走未遂を伝える方がリスクと考えているそうだ。


 その手があったか的な感じで、脱走犯が続出する心配があるそうな。


「それはどうなんだろう」


「ちょっと学園側も生徒を信用してない感じがしますね」


 エルヴィスとアイリスがそう言って苦笑する。


「でも学校が違うし、アタシたちがどうこう言える話でも無いにゃー」


『たしかに』


「ボーハーブレア学園生徒の傾向は分かりましたが、その他の学校の皆さんは大丈夫そうなのですの?」


 エリーの指摘にあたし達が同意したあと、キャリルがカールに訊いた。


 他の学校となると、学院以外はブライアーズ学園とセデスルシス学園だ。


 カールの説明によれば、この二校は問題は無さそうとのことだった。


 ブライアーズ学園の生徒はレポートのネタ集めに熱心で、セデスルシス学園の生徒は巡礼客の案内に熱心なのだという。


「レポートはともかく、巡礼客の案内に熱心というのはすごいですね?」


 あたしが指摘すると、カールは頷く。


「ああ、僕も同感だった。なのでリー先生に訊いてみたら、セデスルシス学園の場合は活動実績のアピールのためらしい」


「活動実績ですか?」


「うん。あの学校は王立国教会が運営する神学科の学校じゃないか。だから卒業後は国教会に入る生徒が多い」


「あ、そうか。その時に希望する国教会の支部に入れるように、色々とアピールしたいのかな?」


「どうやらそうみたいだ」


 エルヴィスが確認すると、カールは頷いた。


 みんなもその話で色々と考えている様子だった。


 神学科の生徒にしては利に聡いのかも知れないけれど、自分の進路の材料になるなら一生懸命になるんだろうな。


 カールからの話の後は個別の報告になったけれど、そのタイミングでリー先生が間に合った。


 基本的には平和な週だったのだけれど、エルヴィスが (自分のファンの女の子の)情報網から仕入れて対応した出来事があった。


「じつは非公認サークルに『早メシを極める会』ってあるんだけれど、今週はウィンさんがフードファイトイベントに参加したよね?」


「あ、はい」


 なにか問題があったのだろうか。


 クギを刺されたりするようだと、今後あたしが不意にフードファイトイベントに誘われたときに参加しづらくなるじゃないか。


 あるといいなあフードファイト。


 ふと視線を感じてキャリルの方を見ると、なにやらあたしをじとっと見ていた。


 我がマブダチは何を心配しているのだろう。


「ウィンさんのせいって訳じゃあ無いから気にしないで欲しいんだけど、『早メシを極める会』の生徒たちが大食いイベントを計画中らしいんだ」


「きょうみぶかいおはなしです」


「確かにね」


 半ば震えつつ脊髄反射的にあたしが漏らした言葉に、エルヴィスが同意してくれた。


 エルヴィスによれば当人たちに聞き取りをしたところ、あたしが参加したフードファイトイベントを見て羨ましくなったらしい。


 たしかにタダメシが食べられて優勝賞品があるならロマンがあるよね。


「ウィン、何を頷いているんですの?」


「え、別に何でもないわよ?」


「まさかまた参加するつもりでは無いですわよね?」


「別にそんなつもりは無いわよ。今週のはたまたまよ」


 でも料理研究会が関わって『何でも作る券』が商品になるのなら、あたしは参加してしまうかも知れないな。


 そうなる前にシルビアから得た情報を元に、新メニュー開発を依頼しに料理研を訪ねに行くべきなんだろうか。


 でも今日は風紀委員会の打合せが終わったら、キャリルとクラウディアと一緒に鉱物スライムの仕分けを手伝いに行く約束をしてるんだよな。


 期せずして食い意地で考え込みながらみんなの報告を聞いていたけれど、直ぐにあたしの番になった。


 司会をしていたエリーが特に言及していなかったので、あたしからフードファイトのことを話す。


「さっきエルヴィス先輩が少し話しましたけれど、今週あたしはフードファイトイベントに参加しました。主催者側が手配してくれたみたいで生徒会が監督したようですし、問題はなかったと思います」


 他には特に連絡がないことを伝えると、週次の打合せは終了した。


 解散したのであたしはキャリルと移動しようとすると、リー先生に話しかけられる。


「ウィンさん、じつは昨日ウィンさんが参加した『勉強会』の話を伺いました」


「あ、はい」


「非常に興味深い指摘だったと思います。もしも、その時の話を発展させたかったら、いつでもわたしに相談してくださいね」


 王国で議会を運営する話か。


「その時はお願いしますという答えになりますが、あたしとしては伝統医療の方がいまは関心が強いんです」


「ええ。それで大丈夫ですよ」


 リー先生はそう言って微笑んだ後、カールと来週の校内の動きの話をすると言っていた。


 あたしとキャリルは改めて、先生と委員会室に残っている先輩たちに挨拶して部屋を出た。


 クラウディアと待ち合わせしている学院の附属研究所に向かう。


「リー先生は政治学が専門だし、早くも相談に来た貴族が居たのかしらね」


「そうかも知れませんし、王宮の文官が話を持ってきた可能性もありますわね」


 道すがら、リー先生の言葉を思い出してキャリルに話題を振ってみた。


「あたしが昨日の『勉強会』で話したこと自体は後悔はしていないけれど、その内容でトラブルになるとこはあり得るかしら?」


「どうなのでしょう。以前わたくしたちの『茶会』にて、貴族は『権限を増す方向でしか納得しないのでは』という話をしましたわね」


「ああ、派閥問題を解消するには『引き算』は上手くいかないって話よね」


 あのとき話したのは、派閥の対立は利害の対立の問題ということだ。


 対立する利害は地方総督が調整しているから、それを国に散らばる地方総督全員で連携させればいい。


 あとは連携した内容を陛下が承認し監査も入れる、そういう話だった。


 そしてキャリルはこう言ったか。


「『制度に説得力があれば、それを有利に使おうとする』のが貴族なのよね」


「今回も同じですわ。王国が陛下と臣民の国である限り、大きくは変わらないと思いますの」


「確かにそうよね」


 あたしとキャリルは頷きつつ、構内の道を歩いて行った。



挿絵(By みてみん)

リー イメージ画 (aipictors使用)





お読みいただきありがとうございます。




おもしろいと感じてくださいましたら、ブックマークと、


下の評価をおねがいいたします。




読者の皆様の応援が、筆者の力になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ