12.魔道具の部品とか思ってそう
デイブの店でお茶を飲みながら今日のことを話していると、店の裏口に人の気配がした。
当人は気配を抑えているけれど、今日知り合った人じゃないだろうか。
「ねえ。カースティさんが来たみたいだけど?」
「そうみたいだな。何か用でもあるのか……」
そう呟いてデイブが出ようとすると、ブリタニーが自分が出ると言って裏口に向かった。
あたしはデイブに断わってから、【風操作】による防音を解いた。
「ねえデイブ、もしかしてカースティさんは知り合いなの?」
「ああ、そうだぜ。(冒険者ギルド副支部長の)レイチェルの娘だしな。あと、カースティ本人も賞金首狙いの冒険者だ。でも普段は共和国で仕事してるハズだけどな」
そう言って不思議そうな顔をする。
「ふーん。――ちなみにデイブって、ブルー様と知り合いなの?」
「ん? ああ。月輪旅団の仕事で顔を合わせたことはある。言ったことは無かったか?」
多分ないと思うなあ。
あたしがデイブと話していると、ブリタニーがカースティを連れてきた。
手にはなにやら包みを持っている。
「いいって言ったんだけどね、焼き菓子を貰っちまったよ」
「そうか。――カースティ、気遣いすまねえな。ありがとう」
「いいえー。挨拶が前後したうえにさっき殴り合ったばかりですが、お久しぶりですデイブさん」
カースティーは何やらにこやかな表情を浮かべている、
一方あたしはどういう挨拶なんだと思い、ひとりでこめかみを押さえていた。
「そんで、わざわざ訪ねてきたのは何か用でもあるのか?」
「用が無かったら、訪ねたらダメですかー?」
そう言ってカースティはニコニコ微笑む。
ただ、本人からは何か考えがありそうな雰囲気がするけれども。
「別に問題ねえが、店に来るのはだいたいレイチェルのパシリか、おれやブリタニーに相談がある時だろ?」
「ま、確かにそうですねー。ウィンさんが居るとは思わなかったけど」
そう言ってカースティはあたしに視線を向ける。
あたしは無関係って言うなら、席を外したほうがいいんだろうか。
陛下が言っていた『神より定められた責務を話す場』のことについても、デイブやブリタニーと相談しておきたかったんだけどな。
「あ、べつにウィンさんがジャマって言ってるわけじゃないですよー。あなた程の手練れなら、情報共有とかしておいた方がいいのかなって思うし」
「情報共有、ですか? べつに手練れでも無いですよ。ちょっとだけ人より鍛えてるだけで、普通の学生ですとも」
そう主張して胸を張ると、あたしに生暖かい視線を向けてみんなは微笑んだ。
「――それで、何かネタがあるのかい?」
「ネタというか、確認に近いかも知れないですねー。母さんから聞いたんですけど、デイブさんのところに『白の衝撃』の人が来たみたいじゃないですか?」
カースティのお母さんってことは、レイチェルからの話か。
まえにデイブがレイチェル経由で、王国に情報を流したって言ってたと思う。
「あいつを狩るのか? いちおう未だトラブルは起こして無いはずだぜ?」
「あ、いえ。母さんも念のため調べて、共和国から伝わってる『白の衝撃』の評判に比べて幾分マトモそうって判断してます。それよりもその人から聞いてるんじゃないですか?」
「どの話だ?」
「『三塔』の話ですよ。特に、誰が来てるのかが分かったらいいなーって、思ってたんですけどね」
デイブは「ああ、その話か」と言って、ブリタニーと共にあたしの方を見た。
あたしは先ず風魔法で周囲を防音にしてから話を始める。
まずは学院でウィクトル達が襲われて、そのとき撃退した奴と、逃亡を助けた魔族の話をした。
「――ということで、一般的な魔族で芳炎流らしき蹴り技を使う、超高速で移動する奴はいました」
「そっかー、ネズミ獣人と芳炎流の使い手かー……」
「どうしたんですか?」
「ううん。わたしが追ってるのは『女の三塔』なのよ」
デイブからは、カースティが賞金首狙いの冒険者と聞いたばかりだ。
「今回の帰郷は、王都が懐かしくなったって訳じゃねえんだな?」
「それもありますけどねー。単純にヤバいんですよ、その女魔族」
『ヤバい?』
「どうやら禁術が大好きで、人間を魔道具の部品とか思ってそうな奴なんですよー」
カースティはそう言いながら冷たい笑みを浮かべ、凍り付くような殺気を一瞬漏らした。
「あの、ひとついいですか?」
「んー? どうしたのウィンさん?」
「そいつを狩るとき、あたしともう二人ほど、噛ませてもらっていいですか?」
あたしの申し出にカースティはキョトンとした顔を浮かべる。
「ええと、ウィンさんは賞金首狙いで活動してるのかしら?」
「違いますよ。単純に知り合い (のノーラ)から話を聞いて、怒りが突き抜けて冷静になるくらいにキレただけです」
「あー、わかるわー。……もう二人ってウィンさんの仲間?」
「仲間っていうか、クラスメイトとその保護者ですね」
「へー?」
あたしの言葉にカースティは首を傾げる。
「クラスメイトは『魔神の巫女』で、保護者は『臓姫』って二つ名を持つ人です」
「それはまた濃いわねー……。『人狩り狩りのマルゴー』かー……」
カースティはそう言って絶句していたけれども。
「なにやら盛り上がってるところ済まんが、お嬢、その時はおれたちにも連絡を入れろよ?」
「え、デイブ達も手伝ってくれるの?」
「まあな。おれらの身内が巻き込まれそうなリスクは、とっとと潰した方が気楽だろ」
言葉は強めだけれど、あたしやカースティに比べたらデイブは冷静な感じだな。
デイブは、店先に投げ捨てられたゴミの話をするくらいの熱量で告げた。
身内が巻き込まれる、か。
以前デイブを経由してユリオからの話を知ったけど、禁術用の生贄のために私塾や学校に通う子どもを狙うと聞いた。
「確かにそうね」
「わたしも賞金狙いっていうよりは、気に入らないから追ってる方が近いかなー。王都はやっぱり故郷なのよね。何だか知らない間に聖地になったみたいだけど、それで治安が荒れるとか無いわー」
「全く同感だよカースティ」
カースティの言葉にブリタニーが頷いている。
あたしにしても、もしミスティモントが同じような目に遭ったなら、直ちに休学して故郷に戻るとおもう。
三人の苦笑交じりのやりとりを見ながら、あたしはミスティモントのことを思いだしていた。
せっかくカースティが顔を見せたので、あたしはブルー様が言っていた話を、念のため確認することにした。
だってかなり面倒くさそうな話じゃないですか。
「ところでカースティさん、ちょっと訊きたいことがあるんですけどいいですか?」
「あ、はいー。大丈夫よ? どうしたのウィンさん」
「実はさっき王立国教会本部から引き上げるときに――」
あたしはブルー様やキュロスカーメン侯爵様が、許嫁やら男子が云々言い始めたことを説明した。
カースティは苦笑して口を開く。
「ブルー伯父さんがごめんなさいね、ウィンさん」
「いえ。命令口調とかヘンな圧は無かったし、別にいいんですけど」
「お嬢の場合は気に入らなかったら、全力でシラを切りそうだよな」
「そうだね。ヘタをしたら仮病で逃げそうだよ」
さすがというかデイブとブリタニーは、あたしの選択肢を一瞬でシミュレートしたようだ。
カースティはデイブ達の冗談だと思ったのか、それを笑う。
「フフフ、ウィンさんはまだそんなに真剣に考えてないのねー」
「いや、単純に貴族家に嫁に行くのが面倒くさいだけなんです」
「カースティ、あんまりお嬢を普通の尺度で考えない方がいいよ。妙にこういう時は実利的に計算高いし」
「そうだぜ? さっきなんか無礼講って陛下が言ってたからだろうけどよ、王族やら将軍さまや侯爵さまの前で『貴族ってメンドクサイ』って平気で言ってたぜ。……おれでも言えねえよ」
ブリタニーとデイブはそう言ってあたしを見ながら嘆息する。
でも本音をアピールするのって大事じゃないでしょうか、うん。
「あー……、そうなんだー……。まあ、わたしもそれは分かるけどねー」
カースティーはあたしを見ながら、曖昧な笑みを浮かべていた。
カースティ イメージ画 (aipictors使用)
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