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10.あんまり本音がダダ漏れだと


 陛下が言い出した『勉強会』も、あたしの説明を聞いた後は奇妙な力みのようなものが抜けた気がする。


 正確には参加者の皆さんは考え込み、それぞれの立場で王制の今後の在り方について検討を始めたんじゃないだろうか。


 というのも、キュロスカーメン侯爵様や陛下が発言や意見などを促しても、皆さんは何やら考え込んだりメモを取っていたりしたのだ。


 その様子を見て侯爵様が告げる。


「陛下。どうやらこの場を借りた『勉強会』は、主だった者たちに宿題が出されたような雰囲気です」


「ハハハ、宿題か。なかなか面白いなそれは。『神より定められた責務』を疑うことも無く実行するよりは、面白そうな話に聞こえるぞ」


 陛下の言葉に教皇様が嘆息して告げる。


「陛下が王家の責務を重んじているのは存じておりますが、いまのお言葉は少々ご配慮を頂きたいですのう」


 その言葉に悪びれる様子もなく、陛下は告げる。


「ああ、気を付けるともフレデリック。それに良い機会だ――、今日集まった者たちに、日を改めて『神より定められた責務』の今後について話す場を設けようぞ」


『陛下?!』


 何やらあたしとデイブとブリタニー、そしてその場にいる大司教さま以外は困惑した表情を浮かべている。


 あたしとしてはその時点で面倒ごとの予感がする。


 というかたぶん、アシマーヴィア様から過去に聞いた竜殺しの話じゃあ無かろうか。


 でもそれをこの段階で口にしてもヤバい結果にしか繋がらないわけで。


「全員を招くかは検討するが、おれは有意義な機会になるとおもう。なに、この場に居る者たちなら秘密は守るだろう。それぞれの義やら矜持を持っていそうな連中だからな」


 そう告げて陛下は豪快に笑った。


 リンゼイ様とかブルー様が額に手を当てているような気がするけれど、あたしとしては気にしないふりを貫いた。


 絶対呼ぶと言われていない以上、まだ逃げられるかも知れないし。


 でももし決まったら「お腹痛い」とか言っても逃げられないだろうなあ、うん。


 その後は結局、この場の『勉強会』はお開きになった。


 サイモン様が経験したという白昼夢については、王立国教会が過去の文献などをあたって内容の分析を進めるそうだ。


 侯爵さまをブルー様が襲った件については、お開きの段になって何やら話をしていた。


「――キュロスカーメン侯爵閣下。貴殿の懸念や問題意識は、僕も把握いたしました。ただ、こちらの態度にもご配慮いただけましたら幸いです」


「無論だクリーオフォン男爵。王国西部の古語で『研ぎ澄ました剣』たる家名に恥じぬ態度だろう」


「そう言って頂けますと、大陸古語で『太陽の祈り』たる家名に拳を向けた覚悟が報われます」


「フ、儂としては今回のことで寿命が縮まった気もするが、儂らの『勉強会』は続くだろう。それは覚えておいて欲しい」


 そう言ってブルー様と侯爵様は、不敵に微笑み合っていた。


 侯爵さまがいま言った『勉強会』は、北部貴族たちの共和制に関する勉強会のことだろう。


 今後とも政治的な課題のために、色々と検討するんだろうな。


 あたしがそう考えていると視線に気づいたのか、ブルー様がこちらに歩いてきた。


 しまった、二人のやり取りを観察していて退出する(にげる)タイミングを逃してしまったか。


「やあウィン、君には感謝をすべきなのだろうね。僕は少々、今回は前のめりに過ぎたようだ」


「いえ、あたし――私は必死だっただけです。動機も少々独善的で、貴族家の立場ではありませんでした」


 クラスメイトの親に別の子の祖父を殺させたくないって動機なんだよな。


 でもあたしは後悔しないぞ。


「君たちの流儀は知って居るし、今回君が割って入ったときの言葉は、いま思えば妥当だった。感謝する」


「もったいないお言葉です」


 あたしの様子に微笑んで、微妙に何か企んでいるような目をしてから口を開いた。


「ところでウィン。君は許嫁などはいるのかい?」


「なんでそんな話になりますか?! ええと、許嫁、ですか?」


 あたしとしては想定外というか、心理的死角からの一撃を食らってしまった。




「恐れ入りますブルー様、それは月輪旅団への政治的影響力を増すための工作と判断して良いでしょうか?」


 スルスルとあたしの傍らに移動してデイブが声を掛けてくれた。


 たしかに月輪旅団の王都の取りまとめ役としては、明確にクギを刺しておきたいよね。


「そう思われたら残念だなと思ったが、単純に息子を持つ親としての言葉ではダメかいデイブ?」


「ダメかって言われたら、ブルー様の家ですか……。まあお嬢――ウィン次第ですね。本人が紹介された相手に惹かれるなら、ですかね」


 デイブとブルー様はそう話してあたしに視線を向けた。


「いや、ちょっと待って下さい。あたしは貴族家に嫁ぐつもりはありませんよ、大変そうですし?」


 あたしが告げると話し声が聞こえたのか、他の人たちが視線を向けてきた。


「お嬢? 無礼講って言ってもあんまり本音がダダ漏れだと、色々と誤解されると思うよ?」


「え、でも今回のこともそうじゃない? 別の視点から国のことを真剣に考えてるのに殴り合うとか、あたし的には超ムリなんですけど?」


 ブリタニーはその言葉で、信じられないものを見るような視線を向けてきた。


 でも事実だよね。


「はっはっは、いいじゃないか。月輪旅団の宗家の血はそういうものなのだろう。許す。もとよりこの場は無礼講だ」


 陛下の言葉に、デイブとブリタニーは何やら重いため息をついていた。


「ウィン、いまはそういう気分でも、いつでも態度を変えていいからね。君が娘になるなら歓迎だし、なんなら一族から好みの男子を見繕うよ?」


「待つのだクリーオフォン男爵。そういう話なら、儂の一族からも相談があれば男子を紹介できるからなウィン」


「いや、あたしにはホントに身に余る話ですから……、謙遜とかじゃなくてですね」


「なに、学院で学ぶうちに見識が変わることもあるだろう。その時は男爵よりも儂のことを先に思いだすのだぞ」


「いやいや、ホリーとかフェリックスとか、学院で会うよねウィン?」


 マジで勘弁してほしい。


 あたし的にはそう思っていたのだけれど、デイブやブリタニーに視線を移しても首を横に振るだけだった。解せぬ。


 何やら最後は予期しない心理的な攻撃を食らった気分だったけれど、半ば強引にあたし達は何とかその場を引き上げることになった。


 引き上げる前にあたしはデイブに断わって、教皇さまに声をかける。


「こんにちは教皇さま。今日はご挨拶が遅れて申し訳ございませんでした」


「おおウィンちゃん。こんにちは。まるでゴードのような立ち回りだったのう」


 そう言うってことは、魔道具か魔法で見ていたんだろうか。


 陛下が途中で割って入ってきたし、別室で監視していたのだろうな。


 というか、教皇さまはお爺ちゃんの戦闘を見たことがあるんだろうか、ナゾだな。


 まあ、それはいいんですよ。


「あたしはまだまだですよ。――それよりも、(モフの称号とかの件で)いちど相談に伺いたいのですが」


 あたしが部分的に小声でそう伝えると、教皇さまは一瞬固まった後に視線を逸らした。


 でもすぐにあたしの方に向き直る。


「構わぬよ。いつでも相談に来れば良いのじゃ」


「どちらに伺えばいいですか?」


「そうじゃのう…………」


 なにやら考え込んだ後、教皇さまは口を開く。


「先ずは吾輩に魔法で連絡をくれぬかの」


「承知しました。その時はお願いします」


 そうしてあたしは教皇さまと、【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で連絡を取れるようにした。




 王立国教会本部を離れたあたしは、デイブとブリタニーにくっ付いて彼らの店に向かった。


 幾つか訊きたいこともあったし。


 裏口から入り、ブリタニーがお茶を用意するというので手伝って、あたし達は一息ついた。


「それで、色々と気になることはあるんですけど、訊いてもいいかしらデイブ?」


「もちろん構わねえぜお嬢」


 そう言ってデイブはハーブティーを一口飲む。


 彼の表情には特に含むところもないし、あたしが訊けば正直に教えてくれそうだ。


「その前にちょっと防音にした方がいいかしら?」


「確かにそうだな」


 デイブが頷いたので、あたしは【風操作(ウインドアート)】で周囲を防音にした。


「まず一番気になってることだけれど、『密約』って何の話?」


 あたしの問いにデイブは「そうだよなあ」と呟いてから告げる。


「じつは結構古い話になるんだわ。月転流(ムーンフェイズ)初代の頃の話だからよ」


 そう言ってデイブは頭を掻きつつ、ぽつぽつと語り始めた。



挿絵(By みてみん)

アシマーヴィア イメージ画 (aipictors使用)




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