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09.巨大な家族主義


 王都の中心部に位置する王立国教会本部。


 その奥まった広い会議室に、国王陛下と教皇さまをはじめとした、濃ゆい面々が顔を揃えている。


 元々は先日、国教会で起きた騒動に関連してサイモン様が『尋問』に近い『面談』を受けた。


 その席に、サイモン様に同行する形でキュロスカーメン侯爵様が居た。


 当初はサイモン様への質問だったのだけれど、途中から質問する側にいたブルー様が侯爵様に攻撃を加えようとした。


 情報収集のためにデイブやブリタニーと忍び込んでいたあたしは割って入り、ブルー様からの攻撃を凌いだ。


 幸いというか殺意は無かったし、早い段階で時魔法の【加速(クイック)】と【純量制御(ヴァルスカラー)】で自分の移動速度を上昇させていたから何とかなった。


 ブルー様がタメ無しのゼロ距離で、魔法を連発し始めたときはどうしようかと思ったけれど、視線やら所作の気配を読んだら対応することはできた。


 難易度的にはキャリルの雷撃に、スパーリングで対応するのとどっこいどっこいくらいだっただろうか。


 あれが遠距離からの連発だったら、かなりヤバかったと思う。


 そしてブルー様との長期戦に入る前にこの会議室に、陛下がいらっしゃった。


 将軍さまとかリンゼイ様や教皇さまを連れていたけれど、陛下はその権威でブルー様を抑えてしまった。


 あとは侯爵様から話を聞こうということで、陛下が『勉強会』という名目で無礼講の打合せを始めることにした。


 戦闘で傷んだ会議室を修復するときにユリオを見かけた気がするけど、いまはいいだろう。


 その『勉強会』の中で、陛下にあたしから伝えたことを持ち出されてしまった。


 皆さんの視線が集まるのがこわいです、戦闘とは別のイミで。


 あたしは内心の重いため息を隠しつつ、陛下の言葉に応じる。


「――たしかに、そのようなことを申し上げた記憶があります、陛下」


「ああ、そうだったな。あれは『魔神騒乱』のあとに、レノのクラスメイト達がウィンの祖父の家でパーティーを行うと聞いて、乱入したときのことだった。お前たちの娘や孫も居たぞ、ブルーにヒメーシュよ。ハハハハハ」


「「…………」」


 陛下の言葉にブルー様や侯爵様もそうだけれど、将軍様なども困ったような表情を浮かべていた。


 サイモン様は空気になってるな。


 あのときはどういう話だったのか。


「恐れながら陛下。あの時は確か別室にて、あたし――私の両親とそこにいるデイブとブリタニーを交え、陛下とレノックス様と近衛騎士の方の前でお話をしましたね」


「そうだ。賛神節の折にヒトだった時の魔神さまが乱入し、ご意向を述べられた――」


 それをどう扱うかは課題だったが、魔神の巫女に確認し『自分たちで考えろ』という趣旨の神託を賜っている。


 その参考意見を、庶民や月輪旅団の視点から聞きたかった。


 陛下はこの場の皆さんにそう説明した。


「――陛下、経緯は承知しました。儂としてはプリシラも参加したパーティーに呼ばれなかったことも含めて遺憾ですが……、ウィン。お前の真意を改めて儂らに教えてくれぬか?」


 あの場に侯爵様が居たらさらにカオス度が増した気がするけれど、済んだ話は横に置くことにしてあたしは頭を動かす。


「はい……、真意、ですね」


 あのとき、あたしが言ったことは――


 現在の王国は『神々 (神)に定められた責務』を果たすために王制を維持している。


 ただ今後の長い歴史の中で、百年先や千年先には王国も他国のように議会を持っているかも知れない。


 それを考えた時、王制と議会制は同時に成り立つように感じた。


 議会制では、国を動かす法律を議会がつくる。


 最終的な採用不採用、あるいは決定権を国王陛下が保つことで、議会制と王制は矛盾なく同時に成り立つのでは。


「――そのようなことを申し上げました」


『…………』


 あたしの言葉に、『勉強会』の参加者の皆さんは考え込んだ。




 程なくブルー様があたしに告げる。


「言っている内容は理解できなくも無いよウィン。だが、君が同時に成り立つといった王制の中の議会制度だけれど、僕はどうしても共和制との違いが分からない」


 彼はそう告げて、スッと視線を侯爵様やサイモン様に向ける。


 侯爵様は軽く頷き、サイモン様は目を閉じて考え始める。


 あたしとしては告げるべきことは告げたんだけどな。


 そもそもの発想は、あたしの中にある地球の記憶によるだろう。


 英国などの地球にあった国のイメージを元に話しているだけだから、細かいことを確認されれば説得力なんか無いんじゃないだろうか。


 それでも説明できる言葉はあるので、それを使うことを頭の中で計算する。


「分かりづらい、と言われましたらそうなのでしょう…………」


 あたしが言葉を選んでいると、陛下が面白そうな顔をして口を開く。


「王制の専門家は、国王たるおれがいる」


 そう言って陛下はドヤ顔を浮かべ、あたし達を見渡す。


 いや、たしかにこの国で、ある意味あなた以上の実務上の専門家は居ないでしょうよ。


「共和制についてはヒメーシュや、魔神様の弟子たるサイモンがいるだろう」


 そう告げる陛下に、侯爵さまと目を開いたサイモン様が頷く。


「だからウィン、おまえは前提の無い自由な発想を述べればいい。それが“未来を切り拓く一撃”になるやも知れん。――ウィンは斬るのが得意だろう?」


 陛下はそう言って笑う。


 そういうことなら話してみようか。


「では遠慮なく――」


 あたしの中の理解では、この世界における政治の制度のポイントは、『家長』と『(おさ)』の扱いだとおもう。


「王制というのは国王陛下を家長とした、巨大な家族主義が本質です。そして共和制は、(おさ)が元締めをする多家族主義です」


 お隣の獣人たちの共和国は、まさに獅子獣人だとかキツネ獣人だとか、色んな家族的な氏族が集まった国だ。


 だからこの場の人たちには分かりやすいだろう。


「家族のことは家長が決めますが、王制では最後に国王陛下が全ての判断をします」


「そうなのだウィンよ。少しはおれの仕事を減らして欲しいのだが、このあいだも巡礼客の「陛下?」」


 陛下が謎のグチを挟もうとして、将軍さまがカットインして防がれた。


 グッジョブだ将軍さま。


 あたしは話を続ける。


「ええと……、多家族主義では家長同士の話し合いをして合意しますが、共和制では議員による議会が話し合います」


「その理解は妥当だと思います、ウィン」


 サイモン様が平明に告げるので、あたしは彼に頷く。


「いま王制の国では共和制は出来ないという話でした。ですが、長と多くの家長が集まった集団という視点ではどうでしょうか?」


「それは王国での話だね、お嬢?」


 あたしはブリタニーの念押しに頷く。


「家長たちが話し合って方針や戦略などをきめ、長がそれを採用することを決断する。古くから町や村の単位で行われてきた方法で、人類の歴史では王制よりも古いと思います」


「それが――かつての村や町の寄り合いで行われた仕組みが、王国でも出来るのではという話かい、ウィン?」


「私はそう思うのですブルー様」


「…………」


 あたしの言葉にブルー様は考え込む。


 王家至上主義のブルー様も、あたしの言葉にはヤバい気配を一度も浮かべていない。


 きっと真剣に考えてくれているのだとおもう。


「議会は話し合いが本来の目的では無いですか? 決定は、国家の(おさ)がすればいいのでは? 私はそのように考えておりました」


 あたしはそこまで告げてからその場の皆さまを見渡し、陛下に視線を向ける。


「私からの説明はこれでよろしいでしょうか、陛下?」


「ああ、良い説明だった。分かりやすかったし直截的な内容だった。これを納得するのはともかく、趣旨が理解できぬ者はこの場には居らんだろう」


 そう言って陛下は全員を見渡すけれど、誰からも異論は起きなかった。


 侯爵様があたしとデイブとブリタニーを順番に見てから告げる。


「なるほど、恐るべきは月輪旅団ですな。『密約』の価値を身をもって体験しました」


 ここでも『密約』か。


 何なのだろう、あとでデイブに確認しよう、うん。


「ああ。おれたちの生業になると、客観的な分析は金言になる場合もある。今回はこれが良い材料になっただろう」


 そう言ってから陛下はブルー様に声をかける。


「どうだブルー? おまえの懸念は少しは晴れたか?」


「いま聞いたばかりの話です。この『勉強会』の場で、すぐに良いも悪いも判断できませんよ陛下。ただそうですね。非常に興味深かったと思います」


「ああ――、ヒメーシュはどうだ?」


「儂もこの場では何とも。しかし、研究や分析の材料になり得る見識を得ました――」


 侯爵様はそう言ってあたしに視線を向けて告げる。


「ウィン、見事だ」


 そう言って柔らかく微笑む。


「もったいないお言葉です」


 あたしはそう応えて頭を下げる。


 その様子を見ていたブルー様は、なにやら苦笑いを浮かべていた。


 ブルー様の表情を観察する限りでは、侯爵様が暗殺されるような懸念は無くなったんじゃないだろうか。


 あたしはそんなことを考えていた。



挿絵(By みてみん)

ユリオ イメージ画 (aipictors使用)




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