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03.放課後になる時間は


 フードファイトのイベントはシルビアの優勝という結果で幕を閉じた。


 優勝賞品の『何でも作る券』をエリーから嬉しそうに受け取り、シルビアは野次馬たちに手を振った。


「いやー参ったね、アタシもそれなりに食べるのには自信があるけれど、シルビアは強かったね」


 あたしの傍らに立つレベッカがそう言って笑う。


「そういうレベッカさんも、噂に違わずいいペースで食べていたじゃないですか」


「そういうウィンもな」


 あたしとレベッカはそう言って笑い合った。


 ウェスリーが仕切ったイベントにしては満足できてしまったのだけれど、このイベントは本当にフードファイトが主目的だったんだろうか。


 思わずその疑問を口にすると、レベッカが不思議そうな顔をする。


「あれ? ウィンは何も聞いていないのかい?」


「ん? 何の話ですか?」


「ああ、なにも話して無いんだね。アイツらしいね、ハハ。――例の『ナイショ話を覗くヤツ』のことで、アタシが学院に顔を出しやすくするつもりがあったみたいだ」


「え、紹介ってことですか?」


「そうそう。アタシとしてはあんまり顔が売れるのは好まないけどさ、学院に顔を出しても違和感がないようにしてやるって言われたんだよ」


 そういうことだったのかウェスリーめ。


 それなら初めにそう言えばいいのに。


「それって初耳でしたよ。そもそもウェスリー先輩とは別の男子生徒に案内されたんです」


「なるほど。でもイベント自体は楽しんでいたみたいじゃないか」


「はい。学院の料理研究会はレベルが高いんですよ。その料理をお腹いっぱい食べられるのって贅沢だなって思ってましたけどね」


「何よりタダメシなのが素晴らしいよね」


「全くその通りですよレベッカさん」


 あたしはレベッカとそういい合いながら、何となくグータッチして互いの健闘をたたえ合った。


 二人で声を掛け合っているとイベントの終了がエリーから告げられ、あたし達にも拍手が送られた。


 それに応えているとシルビアがあたしとレベッカのところにやって来る。


「お二人とも今日はありがとうございましたっす」


「こちらこそだね」


「ありがとうございましたシルビア先輩」


 あたしとレベッカがたくさん料理を食べられて満足していることを伝えると、シルビアはホッとした表情を浮かべた。


 あたし達が彼女を褒めるとなにやら恐縮しつつ、優勝賞品の話をした。


「料理に関して『何でも作る券』ってのはロマンがあるねえ。なかなかセンスを感じるよ」


「そうですね。あたしが取れていたら新メニューを頼んだかもしれないですけど、ちょっと残念ですね」


 あたしがそう言って肩をすくめると、シルビアが首を傾げる。


「あれ? ウィンさんは知らないっす?」


「なにをです?」


「新メニューを外部の人がお願いしに来るのは、結構あるみたいっすよ?」


 それは素晴らしいっす。


 詳しく聞いてみると、レシピの再現などの相談も割とあるのだとシルビアは説明されたそうだ。


「なんだかウィンさんは嬉しそうっすね」


「ええ。ちょっと気になってる料理があるんです」


「「ふーん」」


 そんなことを話しつつ、フードファイトイベントは幕を閉じた。


 イベント後は実習班のみんなや、応援に来てくれた知り合いの子たちと一緒に寮に帰った。


 結果的に最下位になったけれど、キャリルを始めみんなは健闘を讃えてくれた。


 というか、『あれだけ食べて平然としているのが恐ろしい』とか言われた。


 そして『恐ろしい』と言われた時点でふと心配になる。


 あたしは入学後の様々な経験を思い出してステータスの情報を確認したけれど、順位などが影響したのか妙な称号は増えていなかった。


「ウィンちゃん何小躍りしとるん?」


「え、何でもないわ。今回のイベントはあたし的には成功だったなって思ってただけよ」


 みんなと一緒の帰り道でサラにそう応えて、あたしはくるくる回転するようなステップを踏みつつ、寮に歩いて行った。




 フードファイトイベントの熱気も収まった食堂で、『地上の女神を拝する会』の二大派閥の主要メンバーたちは話し込んでいた。


「俺たちの思惑は別にして、大食い対決はイベントとして興味深かったな」


「ああ。ウェスリーが持ち込んだ話だから心配していたが、なかなかどうして見ごたえのある展開だった」


「おれ、彼女たちに食事量で負けてる気がする」


「気にするな、男は食事量よりも何を食べるかだろう?」


『ホントか?!』


「ともあれだ、俺たちが当初考えていた『ウィンさんを陥れてそのファンを減らす計画』だが、どう判断すべきだろう?」


「即断できねえだろ」


「ああ。今日明日にどうこうという話じゃあ無いと思う。でも今回のイベントでシルビアさんがかわいかったよなあ」


「否定はせんが、そうだな、ウィン派閥の切り崩しは出来たんじゃないのか?」


「だから、それはこれからも要調査だろ。でも恐らくいい結果につながると思う」


『だよな』


 彼らは互いに頷き合い、フードファイトイベントの手ごたえを感じていた。


 そしてそれを観察する者がいた。


「レベッカの悪名も轟くだろうし、シルビアも注目を集めるはずだ。なかなか面白くなってきたな」


 彼らの様子を気配を消して観察するウェスリーは独り呟き、怪しく微笑んでからその場を後にした。


 後日彼らが確認したところでは、ウィン派の一部が新しく出来たシルビアを推す派閥に流れた。


 その意味ではウィン派閥の切り崩しは成功したが、自派閥からも流出した分があり、シャロン派とエレン派の生徒たちは自派閥の維持や拡大に頭を悩ませるのだった。




 あたし達は寮にもどると玄関で別れて自室で過ごした。


 夕食の時間にはアルラ姉さんが一応声を掛けてくれたけれど、さすがにフードファイトイベントの影響が残っている。


 あたしはお茶だけを頂きつつ同席し、姉さん達とお喋りして過ごした。


 自室に戻った後は宿題をやっつける。


 そこで一息ついていると、デイブから【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で連絡があった。


「こんばんはお嬢。今いいだろうか?」


「大丈夫よ。このタイミングでの連絡って、乗り込む件よね?」


「ああそうだ。そうなんだが、お嬢が放課後になる時間はいつくらいだ?」


 デイブに問われ、あたしはいつも部活棟に向かう時間を答える。


「そういうことなら放課後に合流しても間に合うな」


「どういうこと?」


「キュロスカーメン侯爵閣下はもう王都に入ってるんだが、『面談』は想定通り王立国教会本部で行われるのが確定した」


「うん」


「そんで万一の場合に、北部貴族派閥が私兵を投入するリスクを考えたらしい――」


 デイブが集めてきた情報では、王立国教会本部を侯爵閣下の『面談』に使うとして、王宮の文官は武力衝突が起こるリスクを心配しているそうだ。


 その場合に一般の参拝客が巻き込まれる事態は避けたいという話になった。


 そして国教会と王宮で話を詰めた結果、朝方や昼前後は外し、夕方くらいに行う方向で決定したという。


「――つうわけだ」


「言われてみたらその通りね。無いとは思いたいけど、派閥問題が揉めると大ごとになるのね」


「そうだな」


「でもデイブ、あたしとしてはいまの段階では、スキル面でいえば大規模な武力衝突が起きる予感は無いわよ?」


「まあなあ。月輪旅団(うち)が集めた情報でも、北部貴族派閥は大人しいもんだ」


 デイブはそう言って嘆息した。


 その後あたし達は、明日の夕方に現地集合する時間と場所を決めて連絡を終えた。


「予感という意味では、そこまでヤバそうな感じはしないんだけどな」


 あたしはそう呟いてから、日課のトレーニングを始めた。


 トレーニングを終えた後はスウィッシュとお喋りしながら読書をして過ごし、眠くなってから寝た。



挿絵(By みてみん)

ローリー (とレベッカ) イメージ画 (aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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