08.世界にとって意味を持った
冒険者ギルドに『敢然たる詩』のみんなで行ったあと、あたし達は王都の商業地区を散策中だ。
レノックス様が発案した『王都都市計画研究会』の活動が出来ないか試してみようとコウが言いだして、みんなで歩いている。
それぞれにメモを取りながら移動しているのだけれど、あたしは気付けば屋台メシのメモが出来上がっていた。
これはこれで有意義だと思うから後悔は無いのですよ (確信)。
するとキャリルがあたしが苦笑しているのに気づき、ステータスで新しい“役割”を覚えているかを訊いてきた。
【状態】の魔法を使って確認してみたのだけれど、どうやら本当に覚えていた。
「『都市栄養士補佐』? なんじゃこれ?」
ステータスの魔法で分かった情報は以下の通りだ。
【状態】
名前: ウィン・ヒースアイル
種族: ハーフエンシェントドワーフ(先祖返り)
年齢: 10
役割: 都市栄養士補佐
耐久: 100
魔力: 400
力 : 100
知恵: 340
器用: 370
敏捷: 410
運 : 60
称号:
八重睡蓮
斬撃の乙女
たまゆらのねかひ
諸人の剣 (仮)
撲殺君殺し(仮)
モフの巫女 (仮)
適当無双 (仮)
加護:
豊穣神の加護、薬神の加護、地神の加護、風神の加護、時神の加護、魔神の加護、
薬神の巫女、時神の使徒
スキル:
体術、短剣術、斧術、弓術、罠術、二刀流、分析、栄養指導、薬草選定、身体強化、反射速度強化、思考加速、影拍子、影縛居、影朔羅、淘機収斂、隠形、環境把握、魔力追駆、偽装、獣洞察、毒耐性、使徒叙任、環境魔力制御、周天、無我、練神、風水流転
戦闘技法:
月転流
白梟流
時輪脱力法
固有スキル:
計算、瞬間記憶、並列思考、予感
魔法:
生活魔法(水生成、洗浄、照明、収納、状態、複写)
創造魔法(魔力検知、鑑定、従僕召出)
火魔法(熱感知)
水魔法(解毒、治癒)
地魔法(土操作、土感知、石つぶて、分離、回復、情報固定)
風魔法(風操作、風感知、風の刃、風の盾、風のやまびこ、巻層の眼、振動圏)
時魔法(加速、減速、減衰、符号固定、符号演算、符号遡行、純量制御)
敏捷とかが相変わらずよく分からない伸び方をしている。
他にも各ステータス値が上がっているのはいいとして、“役割”は『都市栄養士補佐』を覚えたようだ。
「なになに、『社会集団の栄養状態を分析する者』か……」
スキル欄を確認すると『栄養指導』というものが増えていて、これに意識を集中すると『社会集団の栄養状態を直感的に把握出来る』という情報が得られた。
でも、どの程度まで把握できるものなんだろう。
この世界の栄養の概念がそこまで深まっていない以上、そんなに細かい把握は出来ない気がする。
「……あれ?」
そこまで考えてあたしはスキル欄で変化しているものがあることに気付く。
専心至斬というスキルが消えて、淘機収斂というスキルが出てきている。
「なんだこれ?」
「ウィン、大丈夫ですの?」
キャリルがなにやら怪訝そうな顔をしてあたしを見ている。
「ごめん、ちょっと待ってね……」
その後ステータスの情報を確認したところ、『経津』が選べなくなり、新しく『布瑠』という“役割”を選べるようになっている。
『布瑠』は『経つことで可能性を選択する者』という情報が読み取れた。
『淘機収斂』は『布瑠』のスキルらしい。
問題はスキルの説明だけれど、『経つことで可能性を生む』という情報が読み取れる。
「これって説明なのかしら……」
あたしが呻いていると、コウが心配そうに声を掛けてくれた。
「何かステータスに問題があるのかい?」
「あ、うん、ええとね……」
何て言ったらいいんだコレ。
恐らくこの『布瑠』って“役割”は、斬ることに関連するものだと思う。
そして最近斬ることに関連する何か大ごとはあったかといえば、教会での騒動で秘神セミヴォールの気配を斬ったばかりだ。
神の気配を斬ってるんだよなあ――
そこまで直ぐに思い至り、あたしは何を言ったらいいのかフリーズしてしまった。
「どうせウィンのことだし、大食いのスキルでも覚えたんじゃないのか?」
「なんでそうなるのよ?!」
あたしのフリーズは、カリオからの謂れのない非道な言いがかりによって、無事に解除された。
あたしは動揺を抑えて『都市栄養士補佐』という“役割”と、そのスキルの『栄養指導』を覚えたことをみんなに伝えた。
「そうなんだ、大食いでは無かったのか」
「カリオ、あんたねえ……」
あたしがどうやってカリオをしばこうか考え始めたところに、何やら考えを巡らせていたレノックス様が告げる。
「確かオレが記憶する限り、文官の仕事に有用なスキルだったと思う――」
レノックス様によれば、集団の食事の頻度や量、食材の種類や質などの分析を行うことが出来るという。
何の分析かといえば、街や組織などの特定の社会集団の分析で、直感的に数字や割合で栄養に関する情報を把握出来るそうだ。
「もともと食べることが普段から好きな者が覚えやすいらしいのだが、実際に覚える者は少ないそうだ。ある程度、食事に加えて医学の知識も必要だったと思う」
『へー……』
レノックス様からの説明で、あたしは重要な事に気が付いた。
「ねえレノ、その話からすれば、あたしは食べ歩きをすればするほど街の栄養状態の分析が出来るということかしら?」
「そうだな、詳しいことは文官に訊かねば分からんが、論理的にはその通りだとオレは思う」
「やったー!!」
あたしがもろ手を挙げて叫ぶと、通行人の皆さんから視線を浴びてしまった。
でも今はその視線さえも、あたしの喜びの証人になってくれていると錯覚しそうだ。
「おめでとうウィン。いい“役割”を覚えたね」
コウはそう言って微笑んでくれた。
「ありがとうコウ」
あたしはコウに礼を告げるが、納得のできない仲間もいたようだ。
「『火に油』でしょうか」
「むしろこれは『酒飲みにワイン樽』だと思うぞ」
そんなことを言いつつ、キャリルとカリオがじとっとした視線をこちらに向けていた。
「何にせよ、その“役割”は王都の散策に向くだろう。良かったなウィン」
「ありがとうレノ」
でもいまはあたしの食い意地が、世界にとって意味を持ったことを喜ぶことにした。
やったぞ。
あたしは個人的に歴史的快挙を達成した気分を味わいながら、みんなと商業地区を散策した。
さっそく覚えたばかりのスキルを使うように意識を集中してみる。
街の通りごとに確認してみるけれど、案の定というかこの世界で一般的な『肉』、『野菜』、『主食』の三種類の“栄養”について分かるようになっていた。
具体的な数字が視覚の中に表示されるわけでは無いけれど、多い少ないは感覚的に街の様子の観察で把握できている。
スキルを使い込めば、把握できる数字とか割合の精度も上がるかも知れない。
「もっとフィールドワークしないといけないわね!」
あたしが気合を入れ直していると、なぜかキャリルとカリオからじとっとした視線を向けられてしまった。
商業地区の散策中にあたし達は、『聖地案内人』の活動をしている学生の集団にも遭遇した。
何度か別の集団に遭遇したけれど、いまのところは特に問題無く活動できているようだった。
側に衛兵さんたちが控えているし、暗部の人たちの気配もある。
彼らの警護が及ぶ範囲なら、学生たちの安全は問題なさそうだとみんなで話していた。
キャリル イメージ画 (aipictors使用)
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※『神秘のカバラー(フォーチュン著・大沼忠弘訳)』を参考に、「アイン・ソフ・オウル」を「アイン・ソフ・アウル」に修正しました(2025/11/10)。
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