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06.興味の幅が広がるだろ


 あたし達は一度寮に戻ってから外出の手続きを済ませ、普段着に着替えてから学院の正門前に集まった。


 『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』に出ていた指名依頼が終わったので、今日はいつもよりも時間が余っている。


 レノックス様から提案があり、パーティーのみんなで冒険者ギルドに行くことになったのだ。


「そういえば、しばらく冒険者ギルドに顔を出していない気がするわ」


「わたくしもそうですわね」


 あたしとキャリルが話していると、すでに合流していたカリオが呆れた視線を向けてきた。


「二人とも冒険者のランクとかに興味が無いのか?」


 そう問われるものの、改めてあたしとしてはそこまでランクを上げることに興味がないことに気が付く。


 思わずキャリルの方に視線を向けるけれど、二人そろって首を傾げてしまった。


「「無い (わね)(ですわね)」」


 カリオはあたし達の言葉に苦笑する。


「いや、そこまで断言されると感心するけどさ。フツーは冒険者のランクって、ある種の資格みたいなものだし、できるだけ上のランクに上げようとするモノなんじゃ無いのか?」


 カリオの言っていることは分かる。


 学生だととくに衣食住が保証されているし、そういう余裕がある卒業までの間に冒険者のランクを少しでも上げようとするだろう。


「そういうカリオはどうなの?」


「そうだなあ……、前ほど関心が無くなってきてるって言うのが正直なところかな」


「それは武を捨てるということですの?」


 カリオの言葉でキャリルはじとっとした視線を向ける。


「あ、いや、べつに日々のトレーニングを無くすつもりはないぞ。ダンジョンにも行くし。ただ学院で過ごしてると、色々と興味の幅が広がるだろ? 料理とか面白いし、社会の成り立ちとかを考えるのも興味深いっていうか」


「「ふ~ん」」


「カリオにしては色々と考えてるのね」


「考えてるっていうか、――さっきも言ったけど興味の幅の話だぞ」


 そう言ってカリオは朗らかに笑う。


 でも彼が言っていることは分かる。


 学院の生活の中で授業とかだけじゃなくて、部活とか色んな知り合いとのやり取りの中で面白そうなことがふえる事ってあるし。


 あたし自身、入学前の状態でいえば狩猟部に入るのは想像できたとしても、美術部に顔を出すようになるとは思っていなかった。


 入学前は部活とか同好会について知らなかったけれども。


「そういうことなら納得しますが、もう少し武術研でカリオと戦いたい気がしますわ」


「それって張り合いがないってことか? 同学年だとパトリックやウィクトルも来るようになっただろ」


 キャリルの言葉にカリオが不思議そうな表情を浮かべる。


「そうですわね。ですが獲物を仕留めようとするイメージで、練習できる相手が減るのはやっぱり残念ですわ」


「「獲物ってなに?!」」


「ただのイメージですわ」


 キャリルはそう言ってニコニコと微笑む。


 あたしとカリオが衝撃を受けていると、コウとレノックス様が現れた。


「遅くなった、そろそろ行こう」


「ごめんね、待たせたかい?」


 あたしとカリオは二人にホッとした視線を向けると、なにやら不思議そうな顔をされてしまった。




 みんなで身体強化と気配遮断して王都を駆ける。


 程なく冒険者ギルドに着くけれど、一階のロビーでレノックス様が受付に視線を向けていると、職員の服装をしたお姉さんが声を掛けてきた。


 あたしは念のためいつでも割って入れるように立ち位置を変えるけれど、殺気もないしヘンな予感も無い。


 一階ロビーの端で何やら待機していたみたいだし、もしかしたらあたし達――というよりレノックス様を待っていたんじゃないだろうか。


「恐れ入ります、『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』の皆さまとお見受けします」


「ああ、間違いないが、何だろうか?」


「はい。依頼の件でお話がありますので、あちらの階段から二階にお進み頂き、第二会議室にお進みください」


「承知した。案内に感謝する――お前ら、行こう」


 あたし達は職員のお姉さんに挨拶しつつ、指定の会議室に移動した。


 会議室の前には別の職員のお姉さんが立っていて、こちらに声をかける。


「『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』の皆さまですね。こちらの部屋になります」


 そう言って扉を開け、あたし達の入室を促した。


 過去にあたしはデイブと初対面のときに会議室を使ったけれど、ここまで職員のお姉さんが出てくることは無かった。


 何をどう考えても冒険者ギルドがレノックス様に配慮している気がしたけれど、あたしは黙っていることにした。


 もし指摘したら、レノックス様が『普通の冒険者と同じようにしてくれ』とか言いだして、受付前の行列に並ぶ状況が想像できる。


 ディンラント王家は庶民派をアピールしているし、ほかの冒険者に混じって行列に並んだことがバレれば評判になるだろう。


 だが冒険者ギルドの中の人は、場合によっては『王族相手に何の配慮もしなかったのか』と非難されることもあるだろうか。


「リスク管理って大変よね」


 あたしがぽつりとつぶやくと、それが聴こえたのかコウが不思議そうな顔をしていた。


 会議室では二人の職員のお姉さん達が待っていた。


 適当な席に案内されて、レノックス様が告げる。


「それで、受付を訪ねようとしたのだが、依頼の件で話があるとのことだったな? オレたちのパーティーの話だろうか」


「はい、パーティーへの依頼の話になります。二件の依頼達成の手続きと報酬の支払い、それに伴うお願いと皆さまのうちの三名様のランクアップの話になります」


 職員のお姉さんの一人が落ち着いた口調で告げた。


「承知した。手続きなどは行うとして、お願いとは何だろうか」


 確かにあたしも気になる言葉だ。


「はい。依頼の達成時には、出来るだけ早めにその手続きを実施して頂きたいというお願いです。もちろん多忙な冒険者の皆さんも多いですので、事務手続きなどを代理人に任せることも可能です――」


 説明によると報酬の支払いよりも、達成の手続きの遅れが問題なのだそうだ。


 依頼の管理などの点で、じっさいには依頼を達成していても、事務手続きが完了していなければ冒険者ギルドの業務に問題が生じるという話があった。


 具体的には冒険者ギルドの本部への報告や、依頼内容の分析の業務などに支障が出る場合があるという。


「承知した。今後は直ぐに訪ねられない場合は、代理人を立てて手続きを行うことにする」


「恐れ入ります――」


 レノックス様からのその言葉で、明らかにお姉さん達がホッとした表情を浮かべた気がする。


 実務上の問題は確かにあるだろう。


 加えて代理人を使うという話をしておけば、レノックス様に冒険者ギルドで応対する回数は減らせるかもしれない。


 その方がたぶん、ギルドの人には気がラクだよね、うん。


 他にもパーティー報酬の分割の話が出たけれど、案件ごとに均等割りで個人の報酬に割り振ることがその場で決まった。


 職員のお姉さんの説明では、パーティー報酬から一定割合を共用装備などのために分ける手続きも出来ると言われた。


 でも共用装備って何だろうという話になり、食料や野営用の装備だとかマジックバッグなどの魔道具という例を教えてもらった。


「それなら我が家から用意すればいいですわ」


「いや、オレの家からでも十分足りるだろう」


 キャリルとレノックス様が呑気にそんなことを言い始める。


「確かにそうかも知れないけど、このパーティーはあたし達の鍛錬も兼ねてるわよね?」


「ああ、その通りだな」


 あたしが思わず口を開くとレノックス様が同意してくれた。


 これで共用装備は別だといわれると、あたし的にズレてる気がするんだよ。


「コスト意識を磨くという意味では、必要になったときにみんなで出し合った方が良くないかしら?」


「ボクもウィンの意見に賛成だね」


「俺もだ。物品や装備品の値段とかは、実際に自分で把握出来るようになっていた方がいいと思うぞ」


 コウとカリオはあたしと同じ意見だったようだ。


「確かにそれは大切な視点ですわね」


「承知した。そういう方針で行こう」


 逆にいえばいままでその辺りは割と適当になっていたんだよな。


 その後は二件の依頼達成――『鉱物スライム捕獲作戦支援』と『魔力暴走の汎用的対処法の研究支援』の手続きを行った。


 しかも本来は受付奥にある魔道具を会議室に持ち込んで、この場で全ての手続きが完了するようにしてくれてあった。


 レノックス様への配慮のお陰であたしも行列に並ばなくて済んだと思うけれど、何となくズルをした気がして微妙に落ち着かなかった。


「どうしたんだウィン、何かそわそわした表情をしてるけど」


「え、気のせいじゃないかしら?」


 空気を読まずにカリオに指摘されて、あたしは秘かに動揺していた。



挿絵(By みてみん)

カリオ イメージ画 (aipictors使用)




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