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05.それなりに何とかなるって


 あたしは寮を抜け出してデイブの店を訪ね、キュロスカーメン侯爵の件で相談をしている。


 いちばんあたし的に気がかりなのは (ホリーのお父さんである)クリーオフォン男爵が、(プリシラの祖父である)キュロスカーメン侯爵を暗殺する可能性だ。


 他にもここまでの話で懸念は低まったけれど、デイブ達に相談しておくべきことはある。


「あたしの一番の懸念は今言った話だけれど、王家が侯爵家をどうこうする可能性はあるの? あたしとしてはプリシラの安全は大前提なんだけど」


「そこは問題ねえだろ、確認は必要だがな」


「確認? 何の?」


 あたしの問いに、デイブとブリタニーは揃って答える。


「「王国への反意が無いこと (だな) (だね)」」


 要するに謀反の心が無いことか。


「でもそこは、侯爵家の歴史的に考えて大丈夫じゃあないかしら」


「お嬢、歴史の話といま現在の話は別の話だよ? それは分かるね?」


 ブリタニーはそう言うけれど、確かにそうなんだよな。


「まあその辺の確認は必要としてもだ、お嬢、要するに男爵様と侯爵様の関係には王国の政治が挟まってくるぜ?」


 あくまでも冷静にデイブは問う。


 まあ正論なんだけどさ。


「うん、そうね」


「相手は国であり貴族だぜ? それでもお嬢はどうにかしたいのか?」


 そんなことを言われてもな。


 どうにかしたいからここにいるんですけど。


「侯爵様は貴族で公人だけど、それ以前にプリシラのお爺さんよ? あたし友だちの悲しい顔は見たくないわ」


「それで?」


「たぶん暗殺なんてことになったら、ホリーはあたし達の前から居なくなる気がする。だから何とかしたいの」


 そう言ってあたしは順番に、デイブとブリタニーに視線を向ける。


「友だちのピンチに動くのは、うちの流儀じゃあ無いの?」


 あたしが問うと、ブリタニーは不敵に微笑む。


 デイブは特に反応せずに、念を押すようにあたしに訊いた。


「相手が国とかだったとしても、お嬢はそれでいいんだな?」


 そう問うデイブは不思議そうな表情を浮かべている。


 何かヘンなことを言っているんだろうか。


 あたしはズレたことは言って無いと思うんだけどなあ。


「ねえ、あたし達のチカラは、そういうときのためにあるんじゃないの?」


 デイブはあたしからの問いを不思議そうに聞いていたけれど、ゆっくりと表情を変化させた。


 何やら嬉しそうに微笑んでいる。


「まあ、それでいいか。――ただ、何をどうこうするにも情報が必要なんだよな」


「情報は足で稼ぐのはどんな場面でも基本だろ?」


 考え込むような仕草をするデイブに、ブリタニーはニヤニヤと笑っている。


 その笑顔を見て息を吐いてから、デイブは告げた。


「しゃあねえ。侯爵閣下が呼び出されたタイミングで、おれとお嬢とブリタニーで乗り込むぞ」


「うん……、乗り込む? どこに?」


「王宮に決まってるだろ? 忍び込むぜ」


 いや、話の流れ的にそうなるのか。


「問題は無いんだよなお嬢は?」


 そう言ってデイブはニヤケ顔を浮かべる。


 たしかにさっき、相手が国でも問題無いとは言ったけど。


 反射的にあたしは、何かいい案が無いかを考え込んでしまった。


「お嬢?」


 デイブが相変わらず嬉しそうな声であたしに訊く。


 まあ仮に、王家の皆さまや王国の忠臣の皆さまに目を付けられても、いよいよヤバかったら奥の手を使うか。


 奥の手は一応あるのだ、『薬神の巫女』という奥の手が。


 ソフィエンタからは怒られるだろうか。


 べつにいいよね。


「うん、万一の場合も奥の手を使うから大丈夫よ。三人で行きましょう」


 あたしがそう言うと、ブリタニーはヒューと口笛を吹いた。


「さすがだねお嬢!」


「まあ、試すようなことを訊いて悪かった。お嬢の『奥の手』は興味があるが、そういうのはおれにもあるから、当日は何とでもなるさ」


 本当だろうか。


 本当だといいな。


「……ホントに何とかなるの?」


「ああ、それなりには」


 そう言ってデイブはキリっとした表情を浮かべる。


 不安だ。


 それなりに何とかなるってどういう状態なんだよ。


 どうしよう、念を押して確認しなければよかった。


「――話を進めるが、侯爵閣下の動きはおれの方でも調べておく。先の教会での騒動で三男が関わってた件に出張って来るなら、もう侯爵領から移動を始めてるだろう」


「分かったわ。お願いね」


「気にすんな」


 そこまで話をして、あたしはお茶をご馳走になってから寮の自室に戻った。


 一息ついたあとに宿題を片付け、軽めに日課のトレーニングを行って、その後は早めに寝た。




 一夜明けて二月第一週の水曜日になった。


 午前中の授業を受けお昼になり、みんなと昼食を食べて午後の授業を受ける。


 帰りのホームルームではディナ先生から『聖地案内人』の説明があった。


「今日はまず『聖地案内人』の班分けの話をします――」


 自分たちにも関係がある話だし、みんなは集中して先生の話を聞いていたと思う。


 あたしとキャリルはアルラ姉さんとロレッタ様から聞いている話だ。


 特に変更も無いようだし、目新しい情報は無かった。


 ただここで確認しておけば、誰かに訊かれても説明できるだろう。


 あたしは念のために覚えている内容とすり合わせを行った。


 その後あたしはキャリルやニナと一緒に附属研究所に向かう。


 玄関でマクスや他のみんなと合流して待っていると、高等部の先生が迎えに来た。


 そのまま地下にある『附属研究所内部演習場』に移動すると、いつものように先生たちの姿がある。


「またマクスと試合とかするのかしら?」


「さて、どうだろうな。マーヴィン先生が来たので話を聞いてみよう」


 あたしが独り()ちると、レノックス様が視界にマーヴィン先生が歩いてくるのを見つけて告げた。


「皆さんこんにちは」


『こんにちは (ですの)(なのじゃ)』


「さて、『魔力暴走の汎用的対処法の研究』に関する皆さんへの指名依頼ですが、達成されたという判断に決定しました」


『おお~』


 ようやくこれでマクスを相手にした泥仕合をしなくて済むのか。


「前回お話したときには、『依頼達成と判断できるとき連絡をする』としていました。ですが先生方の中に、『皆さんも改めて研究に誘っては』という声がありました。このため、本日来て頂いたときに説明することにしたのです」


『ふ~ん……』


 あたしを含めて、『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』のみんなは半信半疑だ。


 そんな中マクスが口を開く。


「俺様は引き続き、参加させてもらう形でいいんだな、マーヴィン先生?」


「無論です。アルティマーニ君にも参加いただく予定です」


「承知しておるのじゃ。とくに連絡もないので、変わらず参加と思っておったのじゃ」


 そのやり取りを眺めているあたし達だったけれど、カリオが口を開いた。


「マーヴィン先生、確認ですが、俺たちの当初の分担した部分については、すでに完了ということでいいですね?」


 マーヴィン先生が頷くと、カリオがさらに問う。


「この後は結局、どんな形で研究が行われて、俺たちが参加するとしたらどういう形になりますか?」


 カリオにしては真っ当な質問だ。


 いや、ある意味真正面からの駆け引きのない直球の本題だから、カリオらしい問い方ではあるのか。


「はい。戦術の検討に参加してもらうのが基本です。実際の戦闘は協力いただく衛兵の皆さんが担当しますので、皆さんが戦うことはありません」


 マーヴィン先生は穏やかにそう微笑むと、我がマブダチは明らかにがっかりした表情を浮かべていた。


 他のみんなにしてもあまり気が乗らないようだ。


 あたしとしては、魔獣毒から作った睡眠薬の研究があるなら興味があるのだけれども。


「マーヴィン先生、魔獣毒から作った睡眠薬は、研究に参加できますか?」


「そこは毒を使う部分ですので、附属病院の先生に担当頂くことになりました。医学者の皆さんが調べてくださいます」


「それって、あたしがいきなり参加したいといっても難しいですか?」


「ええ……。ウィンさんはそちらに興味があるのですか。高等部で医学を学んでいれば許可が出来ますが、いまの時点では難しいですね」


 ですよねー。


 マーヴィン先生は穏やかに微笑んでいるけれども、あたしとしてはモチベーションが無くなってしまった。


 結局レノックス様がその場での即答を避けて話を終え、あたしたちは引き上げることになった。


 挨拶もそこそこに『附属研究所内部演習場』を離れ、附属研究所を出たところでレノックス様が告げる。


「さてお前たち、思いのほか早々にパーティーの予定が終わってしまったが、この後は予定はあるだろうか? 特に無いなら冒険者ギルドに行こうかと思うのだが」


『さんせー (ですの)』


 レノックス様の言葉に、みんなは一斉に同意した。



挿絵(By みてみん)

マーヴィン イメージ画 (aipictors使用)




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