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12.攻略情報ですか


 今週も休みの日である闇曜日になった。


 休息日ということでいつもよりものんびり目に起きるが、今日は来週のダンジョン行きに向けて情報を集めようかと思っていた。


 身支度を済ませながらどこに向かうか考える。


 先週に引き続き、今日もキャリルはロレッタ様ともども予定があって寮に居ない。


 王都内を歩き回るのにアルラ姉さんを誘うことも考えた。


 でも、ダンジョンの情報はギルドに顔を出すことになるし、先日のチンピラみたいなのに絡まれても面倒だ。


「サラやジューンを誘っても同じだよね……」


 結局あたしは一人で冒険者ギルドに向かった。


 王都内の乗合い馬車で中央広場に向かい、冒険者ギルドの建物に入る。


 朝方の時間から多少ズレているためか、ギルドのディンルーク支部は混んでいるというほどではなかった。


 受付カウンターを見渡し、『冒険者相談窓口』なんていうのがあって三列になって並んでいた。


 あたしもそれに加わる。


 その間に何気なくギルド内部を観察すると、冒険者の装備を着けている人は六割くらいに見えた。


 装備を着けていない人で全く武装していない人もいるから、商人などが来ているんだろうか。


 ただ、防具を着けていても武器類を着けていない人たちもそれなりに居る。


 このまえ武術研でライナスが、王都ではディンルーク流体術の競技人口が多いと言っていた話をふと思い出した。


 武装している人たちについては、剣を装備している人が多かった気がした。


 武器として一般的だし、整備を店とかに頼むのでも受けてくれるところは多いよな、などと思う。


 そんなことを考えていると、あたしの順番になった。


 カウンターに進み、案内に従って係のお姉さんに冒険者登録証を提示した。


「はい、確認いたしました。本日のご用件はどうされましたか?」


「ええと、来週末に初めて王都南ダンジョンに挑むんですが、ダンジョンまでの移動もふくめて予備知識的なことを知りたいんですが」


「分かりました。文字が読めるのでしたら、最低限これだけはという情報をまとめた冊子を用意しています。それと同じ内容で講習会も行っていますが、こちらは予約制になっています」


「講習会と冊子の情報は同じなんですか?」


「同じです。まあ、講習会の最後に質疑応答の時間があるので、そういう意味では講習会の方がやや手厚いかも知れません」


 そういうことなら、質問とかはデイブに訊いてみればいいかと考えた。


 大した額でも無かったので冊子の料金を払って、その場でキャリルの分を含めて二冊買ってしまった。


「追加の情報が欲しい場合は有償ですが先輩の冒険者を紹介しますし、書店などには王都南ダンジョンの攻略情報の書籍があります」


「攻略情報ですか?」


「そうです。王都南ダンジョンは王国の魔石や資源の供給源として長い歴史があって、冒険者が挑むのにかなり人手が入った場所です。ですので様々な調査分析などがされています」


 ディンラント王国にとってというか、この世界の人間にとってダンジョンは鉱山のようなものなのかも知れない。


「……その状態でも死傷者は毎年それなりの数が出ているから、駆け出しの方は備えられるだけ備えて挑んでくださいね」


「分かりました。ありがとうございます」


 いままで鍛えてきたけれど、魔獣などを相手にする以上油断するわけにはいかないだろう。


 あたしは自身のなかで意識を引き締めた。


 そのあと受付のお姉さんに礼を告げて、あたしはカウンターを離れた。




 特に誰かに絡まれるようなこともなくギルドを出て中央広場に立つと、視界に王立国教会の建物が映った。


「そういえば、ソフィエンタに何か訊こうと思ってた気がするな」


 ふと思い立ち、あたしは王立国教会の方に向けてだらだらと歩いていく。


 今週高等部の先生たちと話して、医学であるとか農学が化学などの基礎研究分野を飲み込んで発達していることを何となく気が付いてしまった。


 錬金術とか化学についてはこの世界で未発達かもしれない。


 そういう研究などを進めてもいいんだろうかとかを、ソフィエンタに訊いておいた方がいいということだったか。


 いや、それも気になるけれど今週は何をしていたのだったか。


 やっぱり個人的に大きな決断に感じたのは風紀委員会への参加か。


 生徒のトラブルのための係、それはいい。


 そのために気を付けておくこと――。


「そうか、魔神だ」


 おとぎ話だか民間伝承かは知らないけれど、学院の副学長までも気にするような存在ってどういうものなんだろう。


 それが神の話なら、女神に訊けばいいじゃない。


 そんなことを思いながらあたしは国教会に向かった。


 前回来た時と同じようにミサが行われていた。


 あたしは適当に空いている席を見つけて座り、胸の前で指を組んで目を閉じた。


 程なく、礼拝堂の中で聞こえていた音がしなくなったので目を開けると、あたしは神域であろう白い空間に立っていた。


 目の前にはソフィエンタが居るが、今日の服装はフレアスカートにニットを合わせていて普通の格好だ。


「今日はどうしたの、ウィン?」


「やあソフィエンタ。ちょっと訊きたいことがあったのよ」


「あら、何かしら」


「学院で副学長から風紀委員に誘われたの」


「ああ、学生生活って感じがするわね」


「まあね。それはいいんだけど、学内でのトラブルのための仕事ってことで、トラブルの中に『魔神の信奉者』ってのがいたのよ」


「なるほど」


「魔神というのが共和国の民間伝承というところは知ってるけど、神さまのことなら女神さまに訊いた方が早いかなって思ったのよ」


「そうねぇ。――結論からいえば、魔神信仰は古エルフ族の祖霊信仰なの。実際に“魔神”という神格が居るわけでは無いわ。その事実にたどり着いている研究者も居たはずよ」


 そう告げるソフィエンタは、何かを考えているようだった。


「そうなのね。ということは、魔神の信奉者って居もしない存在を崇めてるってことなのか……」


「そうとも言い切れないわ。結局祖霊信仰だから、古エルフ族に伝わる魔法を使えば、彼らの祖霊をあなたの暮らす時代に呼び出すことも不可能では無いわ」


「そういうことか……。つまりええと、あれだ、日本でのファンタジーの記憶でいえば、魔神の信奉者っていうのは、死霊魔法の使い手ってことなのね?」


「その可能性がある、とだけ言っておくわ」


 ソフィエンタにしてははっきりしない言い方だなと思う。


「あら、珍しく言いよどむじゃない」


 あたしの言葉に返事をするでもなく、ソフィエンタは曖昧に微笑んだ。


 ここで明確な言葉を避けるか。


 ということは、魔神という神は居なくても、魔神という存在や魔神の信奉者は、何らかの神の秘密に関係するかも知れないのだろうか。


「まあいいわ、いま実害があるわけでも無いし。……あともう一個訊きたいんだけど」


「何かしら?」


「あたしが生きている時代って、錬金術とか化学とかって別の国では普通に研究されているの?」


「ええと、……相当昔に概念が失伝しているわね。あなたの国に限らず、『学校の理科』といえば物理学や生物なんかの話がメインになるわ」


 そう言われてみれば、初等部の入試の内容や教科書もそんな感じだったか。


「でもそうね、魔法の工学分野での基礎研究で、いずれは誰かが手を付けると思うわ」


「あたし、医薬品とかでそっち方向を掘り下げるかも知れないけど、大丈夫?」


「神の奇跡に頼ろうとしないなら、好きにすればいいわよ」


 勉強やら研究に神の奇跡を願ってもなぁ、と思う。


「……ところでウィン、医薬品研究ってあたし(本体)に気を使ってる?」


「多少気を使ったことは否定はしないけど、興味の方が強いわ」


「そう……。好きになさい。あなたの人生なのだもの」


 ソフィエンタはあたしに、どこかホッとしたような笑顔を向けた。


 神の分身であることを重荷に感じていないか心配してくれているんだろうか。


 あたしがそんな心根では無いことは、本体が一番良く分かってるだろうに。


「うん。ありがとう」


 そんなことを考えて、あたしは苦笑した。




 分身(ウィン)の魂を元居た場所に送り届けた後に、あたし(ソフィエンタ)の傍らに水の神格のウィーナシリアが現れた。


「ソフィエンタ、分身の子にはあれだけしか伝えなくて良かったんですか?」


「見てたんですね。そうだなぁ……。今のところ色々と懇切丁寧に教えてもその情報を活かせないと思うんですよね」


「それはそうかも知れないけれど、人間は備えることもできるんじゃないんですか?」


「備える……うーん……。分身の人生の長さを考えれば接点ができるか分かりませんし、そこまで大ごとになるとも思えません。それに、そのときまた考えればいいかなって思ってるんですよ」


「以外と楽観しているのですね」


「かも知れません。あと、ウィーナシリアが気にしてくれるのは、あなたの本質が優しいからです」


「そうなのかしらね」


 ウィーナシリアが少しだけ自嘲気味に微笑んだ。


「それより、暇なら何か食べに行きませんか?」


「別に構わないわよ」


 そうしてあたしたちは神域内の神々の街へと移動した。




 王立国教会の礼拝堂に戻ってきたあたしはその場を離れて、ふたたび中央広場に戻った。


 ふと、ダンジョン行きの件でデイブに話を訊けたらと思ったのだけど、時間的にはそろそろ昼だと気が付いた。


 昼ごはんのときに訪ねても悪いし、喫茶店に入って適当にバケットサンドを頼んで食べた。


 食べながらギルドで貰った冊子に目を通していたのだけど、王都からダンジョンまでの乗合い馬車の乗り方まで書いてあった。


「ダンジョンの浅い階層には牧場があるとか、その関係で馬車の行き来が盛んだとかは知らなかったな……」


 漠然と、『ダンジョン』という響きに迷宮が広がっているイメージを持っていた。


 だがどうやら、どちらかといえば地球でいう所の環境シミュレータに近いのかも知れない。


「魔法というよりはSF、ってことは無いとは思うけど……」


 思わずあたしは呟きながらギルド発行の冊子をめくった。



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