小心者
この人は万千派の人間だ。
万千をこの国の指導者にしようとし、更に万千を三代目雷鳥にまでしようとしている。
万千ならそれが出来ると、本気でなれると信じている。
ハイネさんは夜音を三代目にしようとしていたけど、私もあれを見せられたら――万千ならと、そう思えてしまった。しかし、こんなやり方は間違っている。
こんな時、こんな時万千なら――。
「一体何の相談?そんなもので脅して、私が引くとでも?それとも、何か逃げる算段がついた?――まぁ、どうせ撃てっこないわ」
「夜音!魔法を使って!魔法を使えば、私達もいるからどうにかなるわ――夜音!?」
幾ら蚊帳の外の私でも、これだけ夜音へ呼び掛けているというのに反応が無いのはおかしい。
無視しているというより、まるで聞いていない様な。
魔女の言葉で話しているから、私の言葉が通じていないのか?
いや、それはないだろう。彼女は魔女に成り切れていない筈。
いや、それ以前に彼女は彼女だ。まだ私の言葉が通じる筈。
ならば、もしかして――。
「ゲーテさん。夜音に伝えて欲しい事があるの。今から言うことを魔女の言葉で伝えて――」
「?伝えたければ自分で言えばいい。何故わざわざ――」
「いいから!」
渋々だったが、ゲーテさんは私の言葉を魔女の言葉で代弁してくれた。
魔女の言葉は知らないし、ちゃんと通訳してくれたか分からないが、夜音ならきっと応えてくれる筈だ。夜音なら。
「何を言っているんだ?急に」
「――何も反応しないわよ、あんなことを言ったって」
「やっぱり!おかしいわ。本物の夜音なら黙っていられない筈――貴女は夜音じゃない。別人よ!」
それなら説明がつく。
自分で逃げ出そうとしない訳、私の問いに応えない訳が。
きっとこの国の言葉が分らず、私を無視し、本物の夜音なら怒り心頭な私の言葉に反応しなかった。
すなわち、魔法の力で夜音に化けているに違いない。
ならば本物の夜音は一体何処に――。
「それに夜音は、あんなものを向けられたら、動揺して虚勢を張るわ。彼女、小心者だもの――」




