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おとめの夜あけ  作者: 合川明日
♯4 今までも、これからもおとめ
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環 涼風

涼風すずかぜ、お前に縁談えんだんが来ていてな。ちか見合みあいをおこなう――相手は、かの大郷司だいごうじ跡目あとめである」


「大郷司家――。分かりました、お父様…。その見合いばなし御受おういたします」


 旗本はたもととはいえ、今やたまき


 御家おいえなおしのためことわれるはずもなく、私が役に立てるなるならと覚悟かくごを決めた。


 これで少しはお父様も私を――。


「うむ…、そうか――しかし、それには条件じょうけんがあってな…」


「条件…、ですか?」


「――じつはな、大郷司の跡目というのは女なのだ。お前と同じ女学に通う一人娘で、名を万千まちという。知っているか?うわさえん娘で、良い噂はまるで聞かん」


「大郷司家の令嬢れいじょう――私は女性と婚約こんやくするのですか?」


「そうだ。ゆえにお前は女をて、これからは男として生きていけ――それが相手(がた)からの婚約条件だ」


 女と結婚する為に女を捨て、男として生きる。こんな屈辱くつじょくはない。


 私は父を、大郷司家を、私をにくんだ。


 何故なぜ私が女で、何故この家の一人娘に生まれたのか。


 何故私は男に生まれてこなかったのか――男であったらこんな思いもせずにみ、もっと自由に生きられたはず


 女にさえ生まれてこなければ、父に認められ、母にも苦労くろうけず済んだだろう。


 それなのに、女を捨てる事がこんなにもくやしいだなんて思いもしなかった。


 ――そして当然とうぜんごとく、私の行き場の無いにくしみは、大郷司万千に矛先ほこさきを向けるしかなかった。


 御家安泰(あんたい)かこけ、自由奔放じゆうほんぽうう彼女の噂は私の耳にもとどいており、そんなじゃじゃ馬娘うまむすめに、私の全てをうばわれると思うと殺意さついさえ覚えた。


 彼女だけじゃない、目に入る全てのものがねたましく、うらやましく、うらめしかった。


 御家の為、自由を捨て、女を捨て、それでも生きる意味は一体――。


 私はなやみ、苦しんだ。私は家の為に生きているのか、父にみとめられたくて生きているのか。


 しかし、それも事実じじつでもあった――。


 だからか、私は大郷司万千とし違えてでも女でいる事を選んだ。


 私の為、私の存在そんざいの為。それしか考え付かなかった。


 夏休みに入り、見合いの日取ひどりがせまったある日。私は大郷司家に討入うちいりすることを決めた――。


 ――あの日は、八月だというのに肌寒はだざむい夜だった。


 母の白い喪服もふくに身をつつみ、くらった小刀こがたなおびし、気付けば大郷司家の屋敷やしきまえまで来てしまっていた。


いやえると思ったら、貴女きじょ所為せいだったのかしら――私の国のゴーストとは少し違うわね」


伴天連ばてれん?――」


 大郷司(てい)裏門うらもんから出て来たのはハイネさんだった。


 私はその時、初めて彼女と出会った。


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