空気
私(彼女)が何を言ったか分からなかったが、会話のそれには聞き覚えが有った。
自由文化学園高等女学校――。県唯一の、いや私の知る限り、この国唯一の進学女学校。
作法に料理、裁縫などの所謂花嫁修業を主に教える通常の女学校とは違い、学業を優先し、大学校へ進学する為の学校。
女性の自立と尊厳の為の学校――。
ここが自由文化学園で、嵐山夜音は創設者の孫。随分はいからな走馬灯である。
私は彼女の走馬灯を――ということは彼女も、嵐山夜音も今、命の瀬戸際にあるのだろうか?
そうでなくては、走馬灯など滅多に見られるものではない。では、私の走馬灯は一体誰が見ているのか?まさか、嵐山夜音が――。
この状況よくよく考えてみると、あの場所に居て、命の瀬戸際にある人物は私か、赤バイに乗っていた彼女しかいない。
ならば彼女が嵐山夜音!――。
進学女学校にも通う創設者の孫が何故、赤バイになんて乗っていたのか甚だ疑問である。
―――。再び場面は変わり、その様子から今度は全校集会の様だった。朝礼台の上で話しているのは嵐山さんのお婆様であった。
相変わらず美しく、気品がある。それに、どうやら本当に創設者だったらしい。
「本日は皆さんに大切なお話がございます――来るべき大いなる決断の日に備え、この国の発展と繁栄の為――この国の良き女性に、母に成るべく我々は――ですから、この身を捧げる覚悟で尽力することと誓いましょう――ですので、我が自由文化学園でも勤労動員を行う事が決まりました」
辺りからはどよめきが漏れた。自由文化学園も例外無く勤労動員に駆り出されることになるとは思ってもみなかっただろう。
「夜音、どうなってしまうの?私達」
自由文化学園の様な先進的な学校でもこんな事になるなんて、むしろ勤労動員など反対しそうなのもだが。
「お婆様から何か聞いてないの?こんな事ってないわ」
勤労動員というよりは、その先に不安を抱いているのだろう、勤労動員が何を意味しているのか――。
―――。場面は変わり、学園の部屋だろうか、立派な書斎の様な所だった。部屋には私とお婆様の二人きりで。
「…――。」
「えぇ、分かっています。貴女の母親の事は…、貴女以上に。だからこそこの学園、いえ、全生徒の為にも必要な事なのです」
母親。嵐山さんのお母さんの事だろうか。お婆様の娘さんであるのだから、さぞ立派な方だろう。勤労動員の事についてきっと心を痛めているに違いない。
「…――。」
「全生徒に非国民になれというの?それが何を意味するか解っていて?考えただけでも恐ろしいわ」




