辞めたい
女性はクルマに乗り込むが、私には止めようがない。これ以上聞きようがない。なす術がない。聞きたくもない。
クルマは起動し、女性の座る側面の窓が開かれた。
「あぁ、それと。魔法はもう使ってはいけないわ。魔女狩りに会うわよ」
何なのその悍しい単語は。もう家に帰って横になりたい。
適当に説明はされたが、その真偽以前に、今日の、今の出来事すら信じられなくなってきた。夢だと言ってもおかしくない。
私を置いて走り出すクルマの窓からは、環がこちらを伺い、残された私は呆然とクルマが去るのを見ていた。
万千、楽しそうだな…。
環と万千と、女性の乗るクルマは、そのまま学校の門を抜け走り去っていった。
どうすることも出来ない私は、取り敢えず館内へ戻ろうとしたが、勤労動員作業専用施設、通称『紅館』は、すでに火に覆われ、一階は火の海だった。
気が付かなかった。それに、それどころではなく、驚く気力も無かった。
中には誰も居ないだろうし、この建物が無くなるおかげで、明日から春休みを満喫できるだろう。裁縫なんてやってられない。
しかし、そんな気分になれる訳が無い。
そんなことを考えてはいたが、目の前の現実すら気にならない程、頭の中をそれが占領していた。別の事を考えようとしても、頭がいっぱいで考えられない。火事などどうでもいい…。
私は一体誰で、母は何処に居るか?――その答えを聞いたところで、私には何も出来ず、信じられず、理解できないだろう。実際、今がそう。
「信じられない――けど、信じられる」
女性の言う事を鵜呑みにする訳ではないが、私にはそれが信じられた――いや、信じるしかなかった。
私は『オズ』へ行きたい――。『オズ』へ行けば母への手掛りが見つかるかもしれない。それに私は、自分の、自分が本当に『魔女』なのかを知りたい。
何より、母の手紙に書かれていた事が本当なら、私は『オズ』へ行かなくてはならない。このままでは、私が私でいられなくなる――。
この力が、私だけのものではなく、『魔法』というものが本当に存在し、それが手紙に書いてある通りなら或いは…。
私は何としてでも『オズ』へ行き、母に会いたい。そして出来るなら『オズ』の『魔女』の『魔法』で、私は『魔女』を辞めなくてはならない。その為なら――。
火事の炎は激しさを増し、あっという間に建物を包み込んだ。
何故だか私は、その炎から目が離せず、その場に立ち尽くしていた。




