中身
「――貴女は誰!?何故こんな所に!?」
見える。暗闇の中、確かに女性が居る。
着物姿の何処にでも居そうな若くもなく、老いてもいない女性――私はついにおかしくなってしまったのか。
驚きの余り、自分が置かれている状況を忘れてしまっていた。
いや、理解出来ない。
見知らぬ女性が闇の中から突如現れた。現れたのか?それとも私の身に何かが起こったのか?そもそもここは部屋なのか?
まさか、それもこれも彼女が?――。
「私は――『AKIKO』。そう呼ばれている…」
『アキコ』――。彼女は驚く程冷静にそう名乗《なのt》った。
私に至っては目を見開き、その存在が幻ではないか目をぱちくりさせた。
その名前に聞き覚えは無いし、初対面である。
しかしここに居るという事は、もしかして『女性解放戦線』の一員か。それとも、まさかゲーテさんの様にここに閉じ込められて――。
言葉が見つからず、言葉にならない。『貴女は一体誰?』か――危うく同じ質問を投げかけそうになった。
しかし、それしか聞きようがない。言葉が無い。
「――何も理解出来ないって面だね?ここも何処だか分かってない」
「こ、っここは何処なの?」
「どこでもない――『女性街』、『六鳴館』地下の隠し部屋」
「そんな事は――」
「但し、いかがわしい魔法が入り乱れている――この異空間はその所為だろう」
異空間!?魔法?――言われてみればそれしか考えられない。しかし、それがどれだけ異常か、この見た目からひしひしと伝わってくる。
いかがわしい?おぞましい。
「魔法――まさか貴女は魔女なの?どうしてここに?」
「うるさいねぇ。こっちは日記が無くて腹が立っているんだよ」
「日記って、あの魔女について書かれている?――」
「そうだよ。貴女を使ってここまで案内させたのに――あのばあさんが箱の中身を入れ替えやがった」
『乙女画報』――。そう言って彼女は、読んでいたそれを私の前に投げ捨てた。
偶然開かれた一面には『キミ、シニタマフコトナカレ――』そう書かれていた。
「私を使って?――どういうこと?」
「私は日記を、この隠し部屋をずっと探していた――そんな時、あの『デモクラシーばあさん』が帰ってきた。そして唯一接触した人物が魔女だと分かれば後は簡単さ」
私が魔女だと知っている?――。
「私を付けていたの?」
「気が付かなかったか?――まぁ、お膳立ていたし、上手くやったもんだ、あの癇癪姫様」
一体どこから手を付ければ良いのか。『日記』?彼女の?お婆さん?姫様?彼女は一体何を言っているのだろう。
そして彼女は、魔女なのだろうか――いや、この状況、そうとしか考えられない。