怖――
暗黒――。
部屋の中はそれとも違い、しかし、それしか思い浮かばなかった。
階段の暗さとはまた別の暗さ。
灯りを部屋の中へ入れても、その明かりが吸い込まれ消えてしまう。
まるで部屋一面、いや部屋一杯墨汁で埋め尽くされている様な、灯りが意味をなさない。
ゴクッ――。
唾を飲む音さえ吸い込まれそうだ。
この部屋はまるで何処か別の場所へ繋がっているのか?――それも現実や、実在する場所じゃない。
地獄。奈落。そんな所見た事は無いが、そんな例えが良く似合う。まさか極楽浄土じゃないだろう――。
「帰ろう――こんな所に夜音は居ない。それに、この部屋へ入ってしまったら二度と出て来られない。そんな気がする」
「えぇ、同感だわ。引き返しましょう」
二人の言う事に私も同感であり、そう言ってもらえて心底ホッとした。こんな部屋には入れない。
入りたくない。入る訳が無い――。
ドンッ――。
その時、私の体に何か衝撃が走った。
それは背中から感じ、気が付くと私は前へ押し出され、部屋の中へ入ってしまっていた。
誰かに押され――。
一瞬で光が消えてしまった――私は上へ戻る為、バイロンさんに灯りを手渡してしまっていたのだ。
しかし、灯りが有ったとしてもここでは意味は無い。
何故なら、私は直ぐに振り返り、部屋の外へ出ようと扉へ向かったのだが、それが見つけられなかった。
ほんの一歩後ろに在った扉が見つけられない。
暗闇、暗黒の中模索し、必死に手を伸ばしても何にも触れない。
扉が消えてしまった。それどころか壁も何も無い――。
焦る私は方向感覚を失い、自分がどちらから来たのかさえ分からなくなっていた。
いや、もうそういう次元ではない。
何も無いのだから。
「えっ!?――えっ!えっ!?」
こんなに暗く黒いのに頭は真っ白になる。半べそかきながら考えたが理解出来ない。
一体何が起きたの?何で扉が無いの?
これじゃあ、まるでゲーテさんと同じ――五十年このまま。
「たっ!助けて…。助けて!助けてー!!」
誰か助けて――万千、夜音、環。そこに居るのでしょう、バイロンさん、ハイネさん。
誰でもいいから助けて!
「誰か!誰か!誰かー!!」
「――うるさいねぇ。少し静かにしな」
!?――誰か居る!?
「誰!?誰か居るの!?」
何故こんな所に――いやそんな事より、誰でもいい、私を助けて!
「――何処!?」
「ここだよ――」
目が慣れて来たとはいえ、暗闇にも関わらずこんなにもはっきりと見えるものだろうか?
――まるでその人物自身が光を放っているかの様な、暗闇を忘れさせる程良く見えた。
その女性は今までずっとそこに居たのか、まさか何処からか現れたのか、箱の様なものに腰掛け、何か本の様なものを読んでいた――。