頑張る姿
白石で出来た階段は、その表面がツルツルに研かれていた。
しかし、私が手を着いた場所一帯は妙にざらつき、そこだけが違う素材作りに成っている事が判った。
そしてよく見ると、一段一段規則正しく並べられた石の境とは別に、不自然な繋ぎ目が長方形に、丁度畳一畳分ほど材質の違う場所を囲む様に出来ていた。
もしかすると、ここが――。
「――った、有った!在った!!」
――ここが地下への入り口だとしたら、隠し部屋へ通じているに違いない。
「階段か、それは盲点だった――で、どうやって開ける?」
「きっと何処かに開閉する装置の様なものが――」
「いえ、きっと呪文よ。八乙女さん、何か唱えてみて」
呪文と言われても私が知っているものは一つしかなく、とてもそれでは開くとは思えず、取り敢えずその事については聞こえないふりをした。
バイロンさんは入り口らしき場所を探り、環は装置の様なものが近くに無いか探していた。
唯ハイネさんは目を輝かせ私を見つめて来た。
それには目を背ける事しか出来ず、私自身そろそろ耐えられなくなって来た時、それは動いた。
「おい!動くぞこれ!押せる――」
そう言うと、数段の長方形に材質が違った場所を、彼女は少し押して動かして見せた。
しかし私は、扉が動いた喜びよりも、魔女への重圧から解放された方が嬉しかった。
――バイロンさんは私達が集まるのを待ち、視線を合わせ、言葉を交わす事無く頷き、それを押し込んだ。
ガ、ゴゴゴゴ――。
階段の一部は少しずつ動いた。万千ならともかく、彼女でも動かせるのだからそれ程重くはないらしい。
徐々に開かれる扉に、いよいよ隠し部屋へ入れる期待が頂点に達した――が、バイロンさんが押していた階段の一部は、数十センチ程動いたところで止まってしまった。
ガコッ!!
その時、固唾を呑んで見守っていた私達の後ろで、何かが動いた音がしたのだった。
その音に気が付いたのは私だけで、私以外今はそれどころではない様子だった。
しかし、押し込んだ階段の一部はそれ以上動かなくなった様だった。
それでも必死に押しているバイロンさんを、環とハイネさんは自らも体に力が入り見つめていたが、私は後ろで鳴った音が気になり振り返った。
するといつの間にか、さっきまでは無かった穴が広間中央の床に開いていたのだ。
――もしかして、今押している方が開ける為の装置だったのか?
私は恐る恐る床に開いた穴を覗き込んだ――案の定、地下へと続く階段がそこには在った。
今直ぐにでもあの必死に段を押して、それを体に力が入り過ぎてみている人達に教えてあげるべきだろうか。
しかしその時の私は、その必死な姿に見入り、声を掛けそびれてしまっていたのだった。