相席
――蚊帳の外だった私と環は、野次馬の女学生達が帰り、クルマに乗る様促された。
横三列、私は奧に、環を挟み『市川純』が乗り込んだ。
中は意外に狭く、三人が乗るのは少し窮屈であった。
走り出すクルマの車内、『市川純』はやっと解放されたのか、色眼鏡を外して大きくため息を吐き、徐にそれを外した――。
私は驚き、しかしその瞬間彼女は『バイロン』へと戻ったのだった。
「――これは偽物さ。髪も、『市川純』も」
彼女は被っていたそれを、黒く艶めく髪を脱いだのだった――短くぼさぼさの髪。化粧も落とし、彼女の印象そのものに戻った。
「貴女は一体――今は『バイロン』さんなのね?」
「オレ――私について環から聞いてなかった?」
「私も昨日知ったばかりよ――」
「何故女優を?女性解放戦線の為?」
「『市川純』と、そう呼ばれているだけの事。『バイロン』も――それより、夜音が『女性街』に居るって?」
「おとめが言うには、朴さんがそう言っていたと――」
はぐらかされたか、それとも私になど教えてはくれないか――彼女の秘密。それは私には関係の無い事で、私自身ほんの些細な好奇心でしかなかった。
故にそれ以上は聞かなかった。
今から女性街へ行けるのだから。夜音がそこに居るのだから――。
しかしバイロンさんの話を聞くに、女性街等一番初めに探し、そこには居ないと言っていた。それは無いと。
唯環が、私がそう言うならと――。
私を連れて行けば何か役に立つと思い、連れて行かなくてはならないと考えたらしい。
環も同じ様な事を言っており、『おとめ』を連れて行けば夜音は出て来るのではないかと――。
二人とも私を利用しようしているが、おかげで今日は女性街へ歓迎されて行ける訳である。初めてに。
「そう、今日は貴女を連れて行かなくてはいけないの――絶対にね」
そう言った彼女の先には女性街が見え、その彼女は『バイロン』でも『市川純』でもないのかもしれない。
――女性街へ着き、その門の前に停まると、運転手の男性は何をする訳でも無く門を開けていた。
どうやら鍵など掛かってはいなかったらしい。例えそうだとしても、私は無断では入れなかっただろう。
しかし、鍵位掛ければいいのに――。
クルマは女性街へ入り、そのまま進み『六鳴館』の前まで着けてくれた――そして、そこにはある人物が私達を待ちわびて居た。