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おとめの夜あけ  作者: 合川明日
♯5 おとめの――
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仕事よ

 『市川いちかわじゅん』――。彼女をかこむ女学生達がそう呼んでいたが、私はその名前におぼえは無く、何故なぜこんなにもさわいでいるのかを解らずにいた。


 その熱狂ねっきょうすさまじく、私とたまきは市川純をかこ群衆ぐんしゅうからし出されてしまった。


 女学生のむらがる光景こうけい呆然ぼうぜんとしていた私とは裏腹うらはらに、環はこの状況じょうきょう当然とうぜんとばかりに、冷静れいせいみくちゃにされたかみふくなおしていた。


 環の反応はんのうから、何故女学生が熱狂しているのか、そして彼女は何者なにものなのか知っており、今の状況を作った彼女に嫌気いやけをさしているようでもあった。


「――どちらさまですの?環さん」


「あら、『市川純』を知らないの?意外いがいとおとめは世間知せけんしらずね――彼女、女優じょゆうよ。活動かつどう写真しゃしんに出たり、舞台ぶたい演劇えんげき広告塔こうこくとう。彼女を知らないほうがおかしいくらい人気者にんきものよ」


「言われてみれば何処どこかで――」


街中まちじゅうってある『われもとム。』のがみも彼女よ――」


 『我、求ム。』――兵士へいし募集ぼしゅうの張り紙。


 何度も目にしていたが、絵と本人ではちがいがありぎる様な。


 しかし、あれが彼女か。人気者なんだな。


 で、そんな彼女が一体いったい何故なぜこんな所に?そんな国民的こくみんてき女優を目の前に冷静でいる環は一体。


 知り合いなのか?


「――彼女、『バイロン』さんよ」


「えっ!?女性じょせい解放かいほう戦線せんせんの?」


「そう、その彼女。勿論もちろんこと『バイロン』は偽名ぎめいだけど、『市川純』は芸名げいめい本名ほんみょうは知らないけど――あんな姿すがたで来るなんて、彼女何を考えているのかしら」


 まさか、彼女が『バイロン』さんだなんて。ても似つかない様な、変わり過ぎである。


 化粧けしょうか、それとも髪型かみがた所為せいか?


 私もあまかかわりの無い人ではあるが、そんな人気女優が女性解放戦線の一員いちいんだとしたら、もっと『あたらしい太陽たいよう』に人が集まり、大変たいへんな事になりそうだが――それにぐんの広告塔にっているのは一体。


 女性じょせい解放かいほう運動うんどう女優業じょゆうぎょう


 たしか彼女は先生もしていた様な――裁判さいばんの時とも顔が違い、いろ々な意味で彼女は一体(いく)つ顔が有るのか。


 ――それからどの位()ったか。『市川純』、もとい『バイロン』さんは、その場に集まった女学生達全員に愛想あいそき、彼女達が満足まんぞくして帰るまで私と環はたされ、待ちくたびれていた。


 流石さすが女優というか、私達の嫌気がさした顔を横目よこめに、まるで気取きどった態度たいどいやがる素振そぶりも見せず、女学生達の好奇こうき感情かんじょう対応たいおうしていた。


 それだけを見ても、その人気の高さがうかがえた。


「そんな目で人を見ないで――これが私の仕事なの」



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