ハイカラさん
「!?――振るってどういうこと!?」
次の日――女学校では万千の噂で持切りだった。
その内容は環から聞かされていた事とは異なり、尾鰭が付けられていた。
万千が民衆を先導し、軍需工場を襲撃、囚われの女学生を救出、や。買い占められた米を取り返し、物価を掌握したとか――その騒動の功績から神輿に担がれ、万千を称える祭りを行う等。
一体誰が信じるのか、嘘八百である。
環の言う事実も大概であるが、結論から言うと間違いだった。
勇ましく舞った万千であったが、自由文化学園基、軍需工場に米など無く、買い占めとは無関係の工場へ乗り込み、騒ぎ立て、間違いに気付き逃げて来た。
環の話を要約するとこんなところである。傍迷惑な話である。
一歩間違えれば幾ら万千でも只では済まなかっただろう。
そんな真実を知らずか、女学生達は色めき立ち、少しは反省したか、今日は大人しくしていた万千を取り囲んでいた。
――環に至っては、その存在すら見つける事が出来なかった。
今日も来て居ないのか。
環とは『女性街』へ行く約束をしていたが、私は何か『女性街』へ行く気にはなれず、それはそれで好都合ではあった。
しかし放課後、昨日と同様環は姿を現した。またもセーラー服姿で。
授業をサボタージュするなど、新学期早々いい度胸である。
「『女性街』へ行くわよ、おとめ――」
「あんまりサボタージュすると留年するわよ、環――それに、私達だけでは入れない…」
「――問題ないわ。今日は脚付きだもの」
そう言って向こうを向いた環の視線の先には、何処かで見た様なクルマが校門から昇降口へ向かって来た。
そして私達の前でそのクルマは停まった。
まさか私達を迎えに来たのか、唯そう思っていたのだが、一人の人物がクルマから降りて来た。
私はその人物に見覚えは無かった。それもその筈、こんなハイカラな人間を私はみた事が無かったのだ。
モダンな洋服に、ハイカラな色眼鏡を掛け、黒く長いその髪は艶を帯びていた。
『誰?――』
『女性街』といえば、『女性解放戦線』。
ということは、この人物も女性解放戦線の一員なのだろうか?
しかしそうだとしても、今の私達を態々迎えに来る程のそれは無いだろう。
夜音も見つけていないのだから。では一体――。
昇降口には私達の他に女学生達が多く居たが、そのクルマから降りて来た人物を見るや否や、彼女達は騒ぎ出し、仕舞いには私達、基クルマを、謎の彼女を取り囲んだ。
「――市川純よ!」