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おとめの夜あけ  作者: 合川明日
♯5 おとめの――
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心情

「――八乙女やおとめさん。『女性街じょせいがい』へ行きなさい。夜音よねるだろうし、それしか無いでしょう?」


「――でも、私一人でははいる事も…」


「それは貴女あなた次第しだい。入れる、入れないではないわ。入るか入らないかよ。その気が有れば、もんをよじのぼってでも、さくあなを開けてでも。よ――」


 ぱくさん、私は――。私はただ臆病者おくびょうものでしかない。


 一人侵入(しんにゅう)する勇気ゆうきも、大人への恐怖きょうふも、おこないへの責任せきにんも、それらへたいする覚悟かくごも無い。


 錯覚さっかく。自分で勝手かっておもみ、やろうと、出来できると勘違かんちがいしていただけ。


 行きたくない――一人で行くくらいなら行かなくていい。そんな気持ちだ。


「朴さんは、今――朴さんはこんな所で一体何をしているの?」


さがものをしていたわ――」


「探し物?良かったら探すのを手伝てつだうわ」


結構けっこうよ。見つかってはこまるものだもの」


「?何を探しているの?」


「私の――私の死体したいよ」


 彼女かのじょいわく、ここ数日探しているらしいのだが、見つからないらしい。


 それにしたことはないのだが、裁判さいばんでの事で不安ふあんになったのだろう。自分の存在そんざいについて――。


 彼女は彼女で思うところがあり、その事について私は何も言えず、見つからない事をいのるのみだった。


 朴さんと別れ正門せいもんもどると、そこにはまつりのあとむなしさか、ほうけていたたまきが居た。


「おとめ、『女性街』へ行くわよ――」


「――環。今日はつかれたわ。色々聞きたいけど、明日にしましょう」


「――そうね、この感動に今はしずかにひたりましょう」


 めずらしく私の言う事を素直すなおに聞いた環だったが、帰りの道中どうちゅう、聞きもしない事を静かに話し続けた。


 自由じゆう文化ぶんか学園がくえんもとい軍需ぐんじゅ工場こうじょうない万千まちたちが何をしていたのか。


 万千がどれだけ素晴すばらしかったか、その雄姿ゆうしを私に見せたかったなど――。


 環は万千になおしたらしい。


 しかし何があったのか、その心情しんじょう変化へんかは、私への殺意さついの無さをうかがえた。


「決めたわ。私は魅力的みりょくてき殿方とのがたって、大郷司だいごうじさんを惚れされて見せるわ――そして今度こんどぎゃくに、私が彼女をるの」


 そこまでして何故なぜ振るのか。私には解らない。唯――やはり、環は何か変わった。


 しかし、という事は――。


「環――それじゃあ、私は無罪むざい放免ほうめんって事ね?」


「違うわおとめ。貴女きじょ罪滅つみほろぼしとして、私を『オズ』へ連れて行くの。そのためずは、『女性街』へ行き、ハイネさんに会うの」


「――それでゆるしてくれるの?『オズ』へ行けなかったら?」


「死ぬわ。貴女も、私も――」


 ――はる々自由文化学園まで来たものの、結局けっきょく何も変わらず、変わったのは環の動機どうき位なものだった。


 だからこそ、私は何かを変えたかった。『女性街』へ行かずに――。


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