心情
「――八乙女さん。『女性街』へ行きなさい。夜音も居るだろうし、それしか無いでしょう?」
「――でも、私一人では入る事も…」
「それは貴女次第。入れる、入れないではないわ。入るか入らないかよ。その気が有れば、門をよじ登ってでも、柵に穴を開けてでも。よ――」
朴さん、私は――。私は唯の臆病者でしかない。
一人侵入する勇気も、大人への恐怖も、行いへの責任も、それらへ対する覚悟も無い。
錯覚。自分で勝手に思い込み、やろうと、出来ると勘違いしていただけ。
行きたくない――一人で行く位なら行かなくていい。そんな気持ちだ。
「朴さんは、今――朴さんはこんな所で一体何をしているの?」
「探し物をしていたわ――」
「探し物?良かったら探すのを手伝うわ」
「結構よ。見つかっては困るものだもの」
「?何を探しているの?」
「私の――私の死体よ」
彼女曰く、ここ数日探しているらしいのだが、見つからないらしい。
それに越したことはないのだが、裁判での事で不安になったのだろう。自分の存在について――。
彼女は彼女で思うところがあり、その事について私は何も言えず、見つからない事を祈るのみだった。
朴さんと別れ正門へ戻ると、そこには祭りの後の虚しさか、惚けていた環が居た。
「おとめ、『女性街』へ行くわよ――」
「――環。今日は疲れたわ。色々聞きたいけど、明日にしましょう」
「――そうね、この感動に今は静かに浸りましょう」
珍しく私の言う事を素直に聞いた環だったが、帰りの道中、聞きもしない事を静かに話し続けた。
自由文化学園基、軍需工場内で万千達が何をしていたのか。
万千がどれだけ素晴らしかったか、その雄姿を私に見せたかった等――。
環は万千に惚れ直したらしい。
しかし何があったのか、その心情の変化は、私への殺意の無さを窺えた。
「決めたわ。私は魅力的な殿方に成って、大郷司さんを惚れされて見せるわ――そして今度は逆に、私が彼女を振るの」
そこまでして何故振るのか。私には解らない。唯――やはり、環は何か変わった。
しかし、という事は――。
「環――それじゃあ、私は無罪放免って事ね?」
「違うわおとめ。貴女は罪滅ぼしとして、私を『オズ』へ連れて行くの。その為に先ずは、『女性街』へ行き、ハイネさんに会うの」
「――それで許してくれるの?『オズ』へ行けなかったら?」
「死ぬわ。貴女も、私も――」
――遥々自由文化学園まで来たものの、結局何も変わらず、変わったのは環の動機位なものだった。
だからこそ、私は何かを変えたかった。『女性街』へ行かずに――。