一気!
――近付くにつれ聞こえてきた怒号。それは裏門へ集まった人々のものだった。
「――――っ気!一気!一気!一気!一気!!」
狂気――その人物達は怒りに満ちており、私達は少し離れた場所から様子を窺った。
「一気!一気!一気!!」
一気?――一気とは一体?私にはその掛け声の意味が解らなかった。
しかし、一際大きく、一人だけ何か別の事を叫んでおり、その声には身に覚えがあった。
この集団の先頭、きっと先導なのだろう――額の鉢巻に襷掛け。手には竹槍を持ち、神輿に乗せられ担がれている。
その人物は、そんな人物は。
「――皆様!準備はよろしくて?このわたくしに付いて来て下さいまし!」
万千!――。あの馬鹿!今度は神輿に乗せられ担がれているとは…。
「――大郷司さん!」
「行くわよ!――」
「おーー!!」
「そーれ!いっーーっき!!」
「一気!一気!一気!一気!一気!!」
「米返せー!」「国民を飢えさせるきかー!」「米を食わせろ!」「安くしろー!」
「これは、米暴動――」
米暴動――。通称、『米騒動』。国や軍が『米』を買い占めて、って何故そんな事に万千が?
しかも、彼女が先陣を切って、集団を引き連れている。
また頼まれ事を断れなかったか、或いは乗せられて――。
しかし、何故軍需工場等で暴動を起こしているのか。
確かにこの辺に軍事施設等無いが、まさか、万千が――。
環に至っては、万千を見つけた喜びか、将又、彼女の勇姿を見せつけられ固まっていた。
呆然と立ち尽くす私達をよそに、集団は掛け声を上げ、万千を担ぎ、そのまま学園基、軍需工場へ入って行った。
あっという間の出来事に、唯見ている事しか出来なかった。一体何だったのだ――。
「――いっーーきっ!一気!一気!一気!」
「!?――環!?どうしたの?」
「おとめ!一宿一飯の恩よ――私達も続くわよ!」
「えっーー!?待ってよ、今はそれどころじゃ――」
「大郷司さん、今度は国民の為に…。私もおむすびの恩があるわ――今行きます!」
「環!待って――」
環は私の呼び止めにも耳を貸さず、そのまま集団を追いかけ、軍需工場へ入って行ってしまった。
私を一人残して――。
私は一体どうすればいいのか?ここが軍需工場に成ってしまったからには、夜音は居ないだろうし、いや、まさか捕まって…。
それにしても私一人ではどうする事も出来ない。
――私も環に付いて行けばよかった。