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おとめの夜あけ  作者: 合川明日
♯5 おとめの――
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久しいか

 ――米屋こめやのおばあさんは、にぎめし代金だいきんらなかった。


 ただ美味おいしそうに食べるたまきを見て、とてもよろこんでいた。

 

 それはそれで良かったのだが、一体いったい何故なぜ、見も知らぬ私達にそこまでしてくれたのだろうか?


 私には理解りかい出来できなかった。


 それからは、無言むごんで環にいて行く事しか出来なかった。


 彼女も一言ひとことも話さず、私もその事にはれず、仕様しようが無かった。


 私達以外(いがい)乗客じょうきゃくないバスに、環とはせきはなし、一時間いちじかんほどられ、終着駅しゅうちゃくえきから徒歩とほ十分じゅっぷん


「ここよ――」


 ――私達は『自由じゆう文化ぶんか学園がくえん』にいた。


「ここが――自由文化学園」


 見覚みおぼえの有る校門こうもん走馬灯そうまとうと同じだ――はじめて来た場所なのに、初めてではない感じ。


 まるで夏休み明けの、ひさしぶりな登校のような、帰って来た様な。


 しかし、校門はざされ、生徒達の姿すがたなどは見えなかった。まだ春休みなのだろうか、来る日取ひどりを間違まちがえたか。


「おとめ!これ――」


 環の一声ひとこえおどろいたが、もっと驚いたのは、彼女の視線しせんの先に有ったものだった。


 そこには――校門にけられていたであろう、学園の校名こうめいが取りはずされ、軍需ぐんじゅ工場こうじょうである事をしめした看板かんばんが立てけられていた。


「何よこれ!――」


 むずかしい漢字かんじに、達筆たっぴつ筆遣ふでづかいですべては読めないが、その看板にはたしかに軍需工場と書いてある。


 それじゃあ、学園はどうなったの?自由文化学園に一体何があったの?


 ――『自由文化学園』は軍需工場にってしまったの?


 夜音よね――。雷鳥らいちょう先生、ぱくさん。彼女()無事ぶじなの?何故なぜこんな事に。


「環――何がどうなっている?な、何で…」


「解らない――唯、私達がこの場所にる事はあまり良いとは言えないわ。まわりをさぐりましょう」


 何も理解りかい出来ずにいた私達は、学園の周りをあるく事しか出来なかった。


 自由文化学園とは女性じょせい解放かいほう運動うんどう組織そしきしん婦人ふじん協会きょうかい』がつくったもの。


 ならば『真・婦人協会』は――いや、だからだろう。彼女達が女性解放運動家だからこんな事に。

 

 なかわるいとはいえ、女性じょせい解放かいほう戦線せんせんあたらしい太陽たいよう』はこの事を知っているのだろうか?


 もし知っていたら…。だからといって無関係むかんけいではいられないだろう。


 私達は歩きながら様子ようすうかがっていたが、とくに変わった様子は見られず、勿論もちろんこと女学生じょがくせいは見当たらず、人の姿も見えなかった。


 ――しかしほどく歩き、私達が最初に見た校門が正門せいもんだとすると、その反対側はんたいがわ裏門うらもん近付ちかづいた時だった。


 何か怒号どごうの様な、何を言っているかは解らないが、大勢おおぜいの人の声が聞こえて来た。


 まさか女性解放運動が――と思ったが、その声は男性のものの様だった。


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