むかつく
「嵐山夜音。我々『新しい太陽』は彼女を探している――まったく、監視役のゲーテまで消えたのだから手に負えない」
彼女、バイロンは持っていた拳銃で、おとめに狙いを定め撃つ素振りをし、それを仕舞った。
その素振りは、決して撃たないと解っていても、私は苛立ちを感じた。
何なら、今直ぐにでもおとめを殺さんとばかりにしていたのに、おかしなものね。
「彼女、八乙女ツクスには、嵐山夜音を探し出し、女性街へ連れて来てもらいたい。勿論彼女自身にも用が――」
「そんな事、おとめでなくとも――」
「我々では三代目は言う事を聞いてくれないのだよ。何故だか知らないが、八乙女ツクスとは親しそうで、彼女の言う事なら聞いてくれそうだからさ」
「どうしてそこまで――」
「舞踏会が失敗に終わり、後援者達が離れ、三代目という新たな象徴が不在の今、組織として出端を折られた訳だ――このままだと組織として成り立たない。そうなっては『OZ』に頼らざる負えない事も有り得る。そうなっては困るからさ」
『オズ』――今となっては、私には無関係でしかない。それに協力する義理も無い。
唯、人を殺すなんて事は、況してやおとめを殺すなんて一朝一夕で出来る訳が無い。
あの日、一体何があったのか、何が原因で破談になったのか、それを突き止めてからでも遅くはないだろう。
「――分かったわ、今は手を引く」
「助かるわ――それともう一つ。もし夜音を見つけられなかったら、八乙女さんを『自由文化学園』へ連れて行って欲しい」
「そんな事、ご自身でなさればいいじゃない――それに、何故おとめが三代目様を探していると?」
「分かるさ。彼女にはそれしか無い。夜音しか――それと、彼女の邪魔だけはしないでね」
「もし、したら?」
「私は忙しいんだ。面倒をかけさせないでくれ。唯でさえゲーテの失踪と関係があるかも知れないサーカス団を調べなくてはいけないのだから――」
「――新学期。待って、それまで」
「上等。約束ね――それじゃ、学園の件よろしく」
――――。
「という訳で、一緒に『自由文化学園』へ来てもらうわ、おとめ」
環には何もかもお見通しという訳か。
私が夜音を見つけられず、女性街にも入れていない事を――私の事を探していたと聞いたが、もしかして春休み中、ずっと見張られていたのか?私は。
という事はつまり、夜音を女性街へ連れて行けばいいのか?
彼女がそう簡単に女性街へ行くとは思えないが…。連れて行けば、私も女性街へ入れる。
しかし願ったりである。私は『自由文化学園』の場所を知らず、このままでは環に殺されそうだったのだから。
早く誤解を解かなくては――。