新学期
春休みが終わり、巷では戦争の予兆か、軍などが米を買い占め価格が暴騰し各地で暴動が起きていた。
そんな時、私は学年が一つ上がった。
組替えが行われたとは言え、少ない生徒数ではあまり代り映えはせず、案の定また万千とは同じ組であった。
しかし、環とは離れてしまった。
私にとってそれは、幸か不幸か、万千を『お嬢』と呼ぶ者達しか居ない教室になってしまった。
私を除いて。
私は環と組みが分れたことで、彼女と気まずい距離を一定に保とうとしていた。
春休みに起きた事を今の今までそのままにしており、どうしたら良いのか今尚答えは出ず、彼女と会う事を憂鬱に感じていたからだ。
万千が今ここに居るという事は、環とは破談したに違いないから。
「――貴女の所為と思っているでしょう。彼女、あの時あの場所にはいらっしゃらなかったですし」
「えっ!?環と話してないの?それっきり?それじゃ、まるで私が――」
まるで私が万千の家に殴り込み、無理やり破談に追い込んだみたいじゃない――きっと環の事だ、想像力を働かせ、事細かく想像し怒りに震えていたに違いない。
「彼女、貴女を親の仇の様に探していたらしいですわ。桑原桑原」
「いや!解いてよ、誤解!――そもそも、アンタが乙女心を分かってない所為でこうなったのよ。少しは乙女心を……。あぁ、貴女には無理だったわね。微塵もなさそうだもの」
「――!なら、貴女から分けてもらおうかしら。叩けば出てくるでしょう?こんな風に!」
その瞬間、私の顔目掛け万千の右平手が飛んで来た――ホコリじゃないんだから。
不意にとはいえ、おかげで私の頬は腫れ上がり、新学期早々《そう》注目の的にされてしまった。
とは言え春休み中、環と会わなかったのは不幸中の幸いだったらしい。
私は私で忙しく、環と会う時間が無く、すっかり彼女の事を忘れてしまっていた。
そんな私も悪いとは思うが、その所為で彼女から逆恨みされていたとは。
一刻も早く環に会い、誤解を解かなくては。
「それより貴女は、まだ魔女だの魔法だのと、女性解放のご婦人方とお遊びなさっているの?」