血の色
もっと話を聞きたかったが、聞いたところで今の私には何も出来ない。それを今日理解した。
私は、魔女として余りにも未熟である。
私だけでなく、夜音も危険な目に遭わせてしまった。
もっと魔法が使えたら。魔法が使える様に戻れたら――。
その為には、女性街『六鳴館』地下室、そこにあった日記、それを見付ける事が出来れば。
何かが分かる筈――。
「夜音、貴女に一つ、呪文を教えるわ――彼女が、本当に魔法が必要になった時、貴女が彼女を、魔女を必要とした時唱えると良い」
「どういう意味だ?今でも魔法は――」
「『メンソーレ』。呪文の意味は直に分かる――それじゃ、彼女によろしくね」
「待って。あんた名前は?」
「――ここじゃ、『クラウン』で通っている。合わせくれて構わない。そう言えば彼女の名前を聞いて無かったな」
「やつは、八乙女ツクス。周りからは『おとめ』と呼ばれている。合わせくれて構わないだろ――」
「おとめ――」
道化師の彼女は、夜音と少し言葉をかわし、天幕へ帰っていった。
その内容は私には分からなかったが、彼女が私の名前を呼んだ様に思えた。
夜音は彼女の名前を教えてくれた。
しかし、それは名前ではなく、彼女は何か隠している様だった。
それでも、サーカスは暫くここへ滞在するらしく、直ぐに居なくなる事はないらしい。
また会うと何をされるか分からないが、彼女とはもう一度話をしたいと思った。
彼女の隠しているそれを知る為に――。
ゲーテさんは、体の変化に伴い憔悴しきっていた――。
彼女が私にしたこと、今はまだ確かな事は分からないし確かめ様がないが、彼女には言いたい事や、聞きたいことが山ほど有った。
しかし、年老いた彼女を前に、私は彼女を問いただす事が出来なかった。
唯彼女は帰り際、私と目も合わせようとはしなかったが、すれ違い際に一言『ごめんなさい』と言い、クルマに一人乗り込み彼女は帰って行った。
私と夜音は、特にこれといった事も話さず、隠しておいた赤バイの元へ向かった――。
それからは、夜音の運転する赤バイに乗り、家路についた。
彼女の運転に慣れたのか、速度を出さないからか、その時は恐怖を感じなかった。
夜音は私を家まで送り届けると、その場で何やら押し黙り中々帰ろうとはしなかった。
何か言いたい事を言えずにいる様な――。
「…あたしは、魔女に成りそびれたらしいな――もし、魔女に嫌気がさしたら、代わりにあたしが魔女に成ってやるよ」
「私は魔女を辞めたくとも、誰かに魔女を譲る気は無いわ――何時か必ず『オズ』を見つけ叶えて見せるわ」
夜音はそれ以上何も言わず帰って行った。
その時の夜音が見せた表情は、私の心配をフッと笑い飛ばしていった。
――――。
「いいの?帰して――」
「シーリーン…。今はまだ泳がせておこう。彼女等がどうなるのか見てみたい。それに、私のところにも『O、s』から赤紙が届いた――戦争が始まる」