移行
『思い出した。何もかも――』
「――もしかして、ゲーテさんなの?」
「うぅ、返してはくれないのね。私の五十年は――しかし、これで…」
「魔法が解けた――いや、違う。私に移った…」
「うぅ…、大郷司万千と、環涼風が結婚だなんて…。彼女の創る世界、一体どのようなものになるのか見てみたいわ――それにしても皮肉ね、あれだけ死を渇望していたのに、今になって未来が見たい。私は後、どれ位生きられるのかしら」
驚いたことに彼女は、実際の年齢の体に戻ったらしく、その体は年齢と同様に老いていた。
それはすなわち、彼女にかかっていた魔法が、魔女の血が私に移ったことになる。
もしかすると私は、このまま歳を取らず、これ以上成長もしないのかもしれない。
しかし、確かめ様にも、私の体に変化は見られない。今のところは――。
「不老不死の魔女とは羨ましい――寿命も来ないだろうな」
「寿命?魔女にも寿命があるの?」
「当たり前だろ。魔女の血に寿命を延ばされ、止められ、それに耐えられないやつが自ら命を絶つんだ――百年から何百年。うまくやれば百年ちょっとで勤めは終わる」
「――私は、どうなるの?」
「話が本当なら、歳を取らなくなる。すなわち、寿命も無くなっただろう――普通には死ねない」
「そんな…」
「――なんなら、お友達に全てを押し付けるか?魔法も、魔女の血も。今ならそれが出来る。彼女が死にかけている今なら」
私はそんな事はしない。
しかし、この状況一体どうすればいいのか。
こうなってしまった以上、ゲーテさんを助けようとは思えないし。
ならば、夜音だけでも無事にこの場から逃げられたなら――。
それには私が、元通りの魔女に戻りさえすれば――走馬灯、それが鍵なら、それを見れれば。
しかし、もし彼女の言う通り、夜音に全てが移ってしまったら…。
魔法が使える今、戦うしかないのか。
呪文も一つしか知らない圧倒的不利な状況でも。
それなら、夜音だけでも――。
「夜音を、夜音だけは助けて。私はどうなっても構わない。私が、私は魔女なのだから――」
「それが貴女の答えか?また魔法が使えなくなるぞ、いいのか?こいつが居なくなれば、全て元通りになる――」
「お願い――夜音を助けて」
「本当にいいのか?何なら、代わりに私がやってやろうか?」