不完全
「!?――なるほど、違和感はその所為ね…」
「彼女は夜音じゃない、別人ね?夜音は一体何処に居るの?――ゲーテさん、訳して」
「――どうしてそう思う?」
「――彼女は、私の言葉に反応すらしなかった。いや、反応出来なかった。この国の言葉を話せないから。それに、あんなことを言われたら、夜音なら怒る筈だわ」
「――なるほど、一杯食わされた訳か…。バレちゃ仕方ない。お察しの通り彼女は夜音じゃない。もういいよ、元に戻って」
そういうと、道化師の彼女は、偽物の夜音を縛っていた紐を解いた――。
魔法だろう、偽物は一瞬のうちに姿が変わり、本来の姿に戻った。
その正体は夜音が捕まった時に、道化師と一緒に居り、頭巾を被っていた人物だった。
今も頭巾を被り、その所為で顔は見えないがおそらく魔女だろう。魔法で夜音に化けていたのだ。
「もう行っていいよ、シーリーン」
呆気に取られ、動けず仕舞いだった。
頭巾の魔女は、正体を現すや否や、現れた時の様に一瞬で消えてしまった。
「よく見破ったね。それでも、振り出しに戻っただけだが。どうする?魔法も使えないのだろう?」
「――ゲーテさん。彼女に私と夜音の体の事、魔法の事を話して。私達の事を知ればもしかしたら…」
夜音に魔法だけが移り、私は魔女の血だけが残った事を、ゲーテさんに話してもらった。
こんな話をして何かが変わるとは思えないし、夜音が助かるとも思えなかった。
しかし、彼女達が求めているものを私達は持っていないことを教え、彼女の知っていることを聞きだしたかったのだ。
「――なるほど、何らかの魔法が不完全にかかっていると。その所為で魔法を失い、魔女の血がまだ貴女に流れ続けている。不完全故、唯魔法だけが使えなくなった。このままだと貴女は、魔力をいずれ彼女に使い尽くされ、死ぬことも出来なくなるな。似た者同士だな、あんた等」
使い尽くされ?それって夜音に、って事?それじゃあ、今はまだ――。
「――何か治す方法は無いの?」
「簡単だな。魔法が不完全な今、お前は死ねない。なら、殺すしかない。このお友達を――」
「夜音!」