インターミッション 本作の世界観10 ー 穴ふたつ編 ー
「人を呪わば穴二つ」と言います。本話でも呪詛が失敗して自分に返ってくるエピソードがクライマックスに有りますが、何も呪いの話ばかりでは有りません。
裁判もそうです。中世は当事者主義の時代ですから、殺人犯を警察が捕らえて検察が求刑とかは無いですね。遺族や仲間が被殺者の遺体を法廷ーーふつう広場ですーーに運び込んで、彼らが死者の代理人として容疑者を告発します。
準拠法は例によってSachsenspiegelで、マンガ版では「裁きの剣」を膝に置いた伯爵Grafの前に引き出された血まみれの遺体と剣を手にして何か訴える男の姿。あるいは引き裂かれた衣服のままで暴行を訴える女性の姿などを描いています。ちなみに窃盗犯は証拠品を背中に背負って縛られた姿で、法廷に連行されて来ます。
14世紀に書かれた「ラント法訴訟法書」という実務ノウハウ本には、原告はどう告発すべきか、被告の弁護人(代弁人)は如何に原告側の立証のスキを突いて抗弁すべきか、ケースごと詳しく解説しています。
事実関係が曖昧な場合に裁判長=伯爵が決闘による解決を命じるケース。裁判はいづれか一方の死で決着します。こうして死刑を求める告発は時に自分に返って来るのです。では、決闘でなく、立証によって被告を追求した場合はどうなるでしょう?
現行犯の成立をめぐり、証人の資格や証言の真偽が口頭弁論で争われます。
前述の「訴訟法書」は、原告が被告の有罪を立証することに失敗したケースの衝撃的な結末を記述しています。被告の代弁人は、罪なき者を拘束し死刑を求めた原告を平和破壊の罪で逆告発し、伯爵は厳かに原告に死刑を宣告します。
「人を呪わば穴二つ」




