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7.参審人も憂鬱だ

《三月九日金曜、午前》


フォン・トルンケンブルグって何処の男爵様だ?

え? マリオ・ディ・トルンカよぉ!


いかん。思わず言葉が汚くなってしまった。

マリウス・フォン・トルンケンブルグと仰るのは何方どちらのお殿様で被為在あらせられますか? マリオちゃん。 あそこ、城なのか?

これは視線だけで伝わる自信がある。


「今般は・・」「実は・・」

 マリオとレナートの声が重なったところを、

  「閣下、久しぶりぃ!」

 菜の花色髪の娘が横に割り込んで攫っていく。

 歩きながら早口で、

「甲種手配書該当者の遺体6体と報告いたしましたがぁ、昨夜深夜時点で都合13体に増加。後ほど門衛局のレナート様から詳細な追加報告を申し上げますぅ。討伐実行者は先の6体と同じスレーナ=ガルデッリ男爵家です。同家は嶺北大司教座の封臣に当たりますがぁ大司教位改選の端境に当たり、勲功申請事務が遅滞しております。当協会の責任で早急に処理いたしますぅ。また討伐事件発生地が伯爵の裁判管区になるため、名代として伯爵法廷参審人マリウス様が首実検に立会いなさいます。正式な口上は後ほどご本人から」

   両人出る幕なし。

「今夜は、協会の屋上庭園に宴席を設けておりますぅ。閣下、日帰りなさるなんて仰いませんよね? 書記官ご両所のお席もございますので、是非!」


「あの、副警視様は・・お忙しいですよね?」

 この腐れアマ、勝手に二階級特進させやがって、俺に早く殉職しろってか?

 あ、また心の中で汚い言葉を使ってしまった。


 一同、応接室に入る。


                ◇ ◇

 探索者ペッペ ”イル・モーロ” はヴェテランの勘で、最初から目星を付けていた。

 パオロ・フロリアーノの潜伏先は、寺町男坂の旧娼館だろう。

 未明のうち、寺町の無計画に建て込んだ屋根から屋根へ飛び、目的地の塔屋にまでは潜入した。しかし階下はこんな時刻に、人の気配どころか慌ただしい物音や話し声が絶えない。

 仕方ない。天井裏に這って少し仮眠をとりつつ、時を待つ。

 明け方になって逆に静かになった。

 最上階は完全に人の気配が失せたので、這い出して様子を伺うと、まるで物取りが入った様に荒れている。暖炉に大量の灰が残るが、入念に焼却した後に崩してあり、原型を全く留めない。

 改めて階下に人の気配を窺う。下の階と盛んに行き来している物音がする。荷物を運び出している。

 どうやら大挙して転出のようだ。

 ハズレだ、残念ながら。ここにはもう居ない。


 やがて、玄関を施錠する音がし、気配も消える。

 注意深く下層階を探ると寝息が聞こえ出す。十数名は下るまい。

 忍び足で一階まで潜入すると、異なものが目に入る。マントに包まって眠っている男たちと違って、一枚のマントに窮屈な格好で三人寝ている。近づいて確認すると、死んでいた。

 うち一人が、聞かされたパオロ・フロリアーノの特徴に一致する。

 思わず呟く。

「これは手付金だけで臨時収入終わりだな」


 と、後ろから声掛けられる。

「救出屋のイル・モロさんっすよね? 有名な・・」

 振り向くと、マントに包まって寝たままの男。

「旦那は武装した護衛二人と一緒に殺されちゃったっす。しかも素手で」

 ペッペ、寝ている男の横に座る。

「下手人は?」

「見当も付かないっす。分かってるのは、仇討ちとか考えない方がいい相手ってことくらい・・すね」

「そうかい・・」と、横になる。

「おれっち、寝場所と給食の現物支給だけで雇われてる傭兵っす。亡命者だから文句言えないけど、明日からどうしたもんか。徹夜だったから・・眠いっす」

「俺も徹夜だよ。ちょっと休ませて貰うとするか」

「よかったら旦那の遺体、ご家族の許へ届けて欲しいっす・・」

「ひと寝入りしたら、そうするよ」

 自分のマントに包まる。


                ◇ ◇

 寺町坂上。フラ・ロレンツォ息を切らせて昇って来て、古木の下の聖像前で暫し跪拝。一頻り祈りを唱えると、右手の正門を抜けて境内へ。

 中庭に入ると、昨夜の浮浪児らが院生と一緒に法話を聴いている。

 朝のお祈りと朝食の後、数人の子供が院長を囲んで談笑していたら皆が集まりだし、なんとなく始まったらしい。老女、入って来た修道士と黙礼を交わすと、話を続ける。

 終わりまで熱心に聴いていた子供たち、皆で尼に礼をすると三々五々。帰る者に遊び始める者、庭の掃除にかかる者。若い尼も二人、尼寺の方に帰って行く。


 修道士、院長におずおずと、

「熱を出した旅のおひとが有りましてな、解熱の薬の都合が付かぬものかと」

 院長、陽だまりで現々うとうとしているアンヂェリカに何か言い付ける。


                ◇ ◇

 探索者ギルド協会、応接室。

「別件なのですがぁ、ウンベルト・ベラスコが違法入国武装集団を相手に実行したフェーデに警護契約当事者として当協会が関与致しました。鹵獲財産を市内で売却する件は市長決済を頂戴済みでぇす。捕虜13名について代官所の手配書該当者が含まれるか否か確認申請致したところでぇす」

「受理済みです。討伐の件と併せて本日中に実査します」と、判事補。

「そちらも伯爵の裁判管区内での案件ですから、伯爵法廷参審人の陪席参加を許可下さい」とマリオ。

「自衛権行使ですから審理は行いません。当代官所は手配者有無確認のみ行いますので、伯爵府もそれに準じて下さい。事件地がベラスコ邸内ですから自衛権の成立に疑義はないと思います。異議があればこの場で受理します」

「(若いのに結構やるなあ)」と思う曹長。

「異議ありませんが、当該武装集団はフェルランド・リッピ殺害犯でもある可能性が高いので、伯爵家は捜査の続行を希望します」


 あららマリオちゃん、血族だから血讐は鹵獲禁止って持ってこうとしてて、先に釘刺されてら。判事補さんが一枚上手だ。七光で選任されたとかご謙遜。

「(おっけい)それは当協会に発注なさるって解釈してよろしいんですかぁ? 」

「管区内の安寧を図るのに当方が経費負担するのは当然と自負しております。リッピ家の存続も気掛かりです。伯爵家は力押しの剛毅な家風。捜査や調査は門外漢です。協会の選定なさる専門家に期待いたします」


 ははぁん。伯爵家としちゃリッピの直系卑属に生きてて欲しいわけだな。従叔父のベラスコが相続人になって、せっかく小分けした独立系小領主にまた太られちゃ困ると。あ、また心の中で汚い言葉使っちまった。スパさんみたい。


「できれば参審人として、調査の専門家さんと連携を取りたいと思います」

 マリオ、お前ってトルンカの次男坊だよな。跡目は公文書館にいる長男が嗣ぐんだろ? もしかしてベラスコの娘とか狙ってないか? 確かに役人としちゃ兄貴より使えそうだけどさ。


「そちらの委細は伯爵府と協会で、別の場を設けて取り決めてください。甲種手配書該当者13体の取り扱いと、捕虜13名の確認の話題に戻りたいと思います。慎重を期しつつ捕虜尋問を継続することは了承です。そのための必要経費は当代官所の負担とします」


 門衛局さん影薄い・・


                ◇ ◇

 西区、Fiesco館。

 アンヂェリカがノックする。

「はい」

「聖ルイザ施療院の使いです・・お嬢様ですか?」

「姪です。お待ちください」

「アンヂェか、お入り」と、中から声。


「姪御さん美人ですね。もしかして先生も昔は綺麗だったんですか?」

「失礼な奴じゃな」

「解熱剤ください。無料ただのやつ」

「無料の薬が欲しくば草叢でも探せ」

「西の草庵の坊さんとこで行き倒れ的なの拾ったそうです」

「しょうがないな。雑草に毛の生えたような奴で良ければ出すぞ」

「気休めですか?」

「ちゃんと効くわい」


 裏でナネットがクリスのぱんつを穿いてポーズを取っている。


                ◇ ◇

 南門。

 背の高い痩せた旅人。

「すみません。入市税の徴収はどちらで?」

  「入市税はありません。市民の紹介状で通行できます」

「そうですか。では書いて貰って来ます」


「ふうん。怪しいのが午前中に二人目か・・」

 スパ曹長が呟く。

 その脇をクイント氏の操る馬車、門を出て南街道を行く。

 行き先はベラスコ館。

 痩せた旅人は東門へと回っていた。何処で籠絡したか、市民の男と談笑しながら門を通過する。


 名も無い市民の運命や如何に。

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