インターミッション 本作の世界観3 ー 身分 ー
後ほど「解題」を掲載します
蘊蓄回になります
次回より第三部を執筆します。
ヨーロッパ中世の身分制度といえば、やっぱり出てくるSachsenspiegel。
封建身分に7段階のヘールシルト制が描かれています。
王を頂点とした盾の序列です。
1.皇帝もしくは国王(KeiserからKönig表記に変化)
2.神聖諸侯(大司教Erzbischof、大修道院長Abtなど)
3.世俗諸侯(Fürst、大公Herzog、方伯、辺境伯、一部の伯爵など)
4.自由領主(Vryherr,Freiherr、伯爵、男爵など)
5.参審自由人(Schöffenbarfreie)
6.その家来
7.そのまた家来(ここで打ち止め)
各爵位の訳語には古代中国の五等爵を借用したため、語弊があります。
伯爵は本来は爵位でなく、宮中にいた書記官Grafが代官として地方に赴き土着化したもので、方伯Landgraf、辺境伯Markgrafが第三シルト=諸侯に、Grafが第三と第四シルト=自由領主の両方に分かれています。
実在世界の諸侯である伯爵Grafは作中にいうほど珍しいものではありません。むしろ本作の伯爵さんが他国からの帰順者なため、厳密に大司教の管区に入っていない「あやふや」な存在であるという点がお話の設定上の特殊性で、伯爵家のお家騒動に大司教の介入が絡んでくる筋となっています。
1と3〜7の封建身分者は、原則的に先祖から受け継いだ固有の所領を持っています。貴族ー非貴族自由人ー非自由人という現実ヨーロッパ中世の身分制枠組みの中で、5の参審自由人は貴族と非貴族自由人のボーダー的存在です。実質は第四シルト(自由領主)の封臣として第五シルトに位置する貴族的な小領主であるとともに、三階層ある非貴族自由人の中の最上位に位置しています。血統的には「騎士の血筋」です。伯爵の主宰する法廷で参審人つまり裁判員的な役割を果たし、彼らの中から判決が提案され、彼らが評決して、伯爵がそれを判決と宣告する。治安判事的な役職に抜擢されて地方行政官を勤めることもあります。
では、この参審自由人が封地を返上して封建身分から離れたらどうなるのかでしょう? 血統的には騎士の要件を満たしています。しかし授封関係から離脱したので法廷で判決に関わる資格がありません。作中では仕方なく、封地を全部失なってしまった元自由領主のベラスコさんと元騎士ハンスさんを、ただ大きい世襲地を持っているだけの富農であるが社会的地位は封建身分一段降格だけの経過措置というような宙ぶらりん身分にしてあります。
現実の中世も、自由人より下位のはずの非自由人が、ミニスレリアーレンとして領主に近侍するうち一足飛びに参審自由人に格上げされるような事例が頻発して身分制度が崩れています。帝政ローマで貴人の側近として高い地位につく解放奴隷が少なくなかったようなものですね。
世襲地を持たない自由人は荘園や農村で借地人するのが普通ですが、都市に流入して市民となった自由人はまた別の社会を形成しています。作中では彼らが自由人の誇りを謳歌するシーンがあります。歌詞はアウリスのイフィゲネアに取材したトロイア攻めの歌です。
下層階級の話は別の機会といたしましょう。




