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277. 憂鬱な遺族の人

《三月二十二日、未明》

 ミーゼル領アルパの町の警察。

 市庁の警察課であって、独立した警察署は無い。


 取調室から警部いんすぺくた記録官れこおだが出てくる。

「ハインツ・アルメスオプファーとその家族三人、使用人四人の全員残らず被殺。目撃証言無し。夜が明けたら、とりあえず親類探しに着手」

 夜勤の警官が三人みな暗い顔。

「アントン、第一発見者に毛布差し入れてやれ。それから、夜が明けたらで良いが冒険者ギルド行って身元引受人呼んで来い。記録官は課長が来るまでに申請書二本書いとけ」

「警部、中身は?」

「警察課長殿。E級冒険者ガストーネ・ヨルバの夜間違法外出容疑は、不可抗力と判断するので不起訴致したく伺います」

「二本目は?」

「ホーストヴェサー家の執事、氏名未詳。外出禁止時刻開始直前に正当な理由なく他人を引き留めた迷惑行為の疑い。並びに本人も夜間違法外出容疑のため事情聴取致したく伺います」

 記録官、携帯黒板に素早く下書きする。

「ああ、他人が書記してくれるって楽だなぁ。ちょっと寝るから、課長が出勤して来たら起こしてくれ」


 警部、仮眠室へと向かう。

 アントンと呼ばれた警官、毛布を持って取調室へ。


 ガス、床で渡された毛布にくるまる。

「おまわりさん、俺って罪になりますかね」

「外出禁止時刻に夜道を歩いったって自白しちゃったからねぇ。まぁ悪くても銀貨一枚くらいの罰金でしょ。路上で引き留められたって話の裏が取れたなら、たぶん不起訴。大丈夫ですよ、課長が昨夜奥さんと喧嘩してなきゃ」

「喧嘩してたら?」

「罰金かな」


                ◇ ◇

 ロラント・ジルバ警部、仮眠室に入る。

 先に寝ていた警部補が目を覚ます。或いは眠れていなかったのかも知れない。

「どうなりました?」

「どうにもならん。一家皆殺しだから告訴人がおらんのだもの。朝になったら親類探しをするが、告訴する人が居たって証人がいない」

「一家殺され損ですか」

「で、まぁメンツ潰された冒険者ギルドでも焚き付けてみるか・・てな」

 

                ◇ ◇

 ファルコーネ城下の教会堂。東の空が白んで来る頃、ラパンダール司祭は既に丘の上に立っていた。

「太陽・・」

 なんだか感動している。

「神の栄光が世界を照らします」

 ・・騎士フォーゲルヴァイテの葬儀のとき、葬列に居られたのが次期領主様とは存じませなんだ。

 お母上を殺された仇敵でありましょうに其の死を弔い、罪業は妻子には及ばずと宣言なされたそうな。

 しかも、養子とはいえ仇の子の後見人を買って出てまで、ご自身の親族が報復を考えないように牽制なされたと。

「しかも次は、仇の死を看取って赦しを与え、家の存続をお許しになりました。」

 ・・血で血を洗った一族の内訌を、見事に終わらせなさいました。

「慈愛・・」

 ・・敵意と我欲に、慈しみの心でお応えになる。どのようなお方なのでしょう。


 あなた、会ってますが・・


 やがて葬列がやって来る。

 男爵家の家紋が入った馬車にクリスらの姿。

「すみません。ご主人のときは寂しいお見送りだったのに、今回は人を呼んだので差が付いてしまいました」

「いえ。こうやって姫様が『うお赦しになった』と、より多くの人に知らしめるきですわ」と、フォーゲルヴァイテ夫人。

「まだ生き残っている方々に、もう日陰で暮らさなくてもいのだと、罪は命じた叔父がみな背負ってったと知って欲しいですわ」

「でも、はっきり判明した二人が二人とも死んでるのにゃ。誘き出して殺す作戦と思われてるかもにゃ」

 タラップに乗ってフットマンをしている猫が辛辣な事を言う。

 無子断絶十一家と言われてこそ居るが、フィエスコ城襲撃犯だという証拠がある訳でもないのだ。


 葬列、丘を昇って行く。

 

                ◇ ◇

 アルパの町、冒険者ギルド。

「なんだって! ガスが誘引しょっぴかれた?」と、ギルマス。

「いえいえ違います。六人も殺されてるから七人目にならんよう保護したんです」

 警官アントン、跋が悪そうだ。

「じゃ、ガスの奴は容疑者じゃないんだな?」

「E級冒険者の彼が、長剣振り回して八人殺せると思います?」

「いや、ぜんぜん思えん。長剣チャンバラなんぞガスにゃ無理だ。見張り番専門で契約を受けたんだからな。夜中に見張ってて、怪しい者とか見かけたら腕っぷしの強い使用人を起こす係だ」

「我々も彼を疑ってません。彼、長剣なんか所有してましたか?」

「そんな高価たけもん持っとらんわ」

「彼の供述によれば、出勤途上でホーストヴェサー家の執事に出会い長話したんで現場ゲンジョウ到着が日暮れ過ぎになったということです。彼が長剣なんか所持していたなら其の執事が見咎めるでしょう」

「日暮れ過ぎに現着ゲンチャク)なんて契約条件違反だ。そこから何か変だぞ」

「彼は、その執事に執拗に引き留められて出勤時間に遅刻したと供述しています。外出禁止時刻に夜道を歩いてたって供述しちゃってますから、本来なら略式起訴で罰金なんですけどね」

「『本来なら』って、見逃してもらえるんかね?」

「供述通りなら、その執事の迷惑行為の被害者ですからね。一応まぁ裏は取らせて貰いますけど。ということで、どなたか身元引受人の方、市庁までご足労下さい。年長組とはいえ未成年ですからね」

 と言って、警官さっさと帰る。


「ホーストヴェサー家か・・なんか臭うな」

「あんた、それあの子の昨日のバイト先じゃないか。クレームかね?」

 おかみさんも怪訝な顔。

「クレームなら、こっちに来るだろう」

「そうだね。それに、日暮れ前に現着ゲンチャク)の契約だって知ってるだろうに」

「嫌な感じだな・・」

「厄介事はよしとくれよ。明日は第四金曜、地連の集まりの日じゃないか」


                ◇ ◇

 アルパの屋敷街。

「ホーストヴェサー家か・・なんか臭うんだよな」と、似たような台詞を吐くのはジルバ警部。

「大手の食品卸業者。傘下に食肉加工業者も持ってます」

「生臭いってか」

 ノックする。

「当家に御用ですか?」と、初老の男。

「いや、執事さんに用事です。わたし市庁警察課のジルバ」

「同じくフライシャーです」

「ご同業ですか」

「早速ですが、昨日の日暮れに冒険者ギルドのガストーネ・ヨルバ君に会いましたか?」

「どのようなご用件で?」

「今話したとおりです。ガストーネ・ヨルバ君の行動に就いての聞き込みです」

「ガストーネ・ヨルバ?」

「そう。ガストーネ・ヨルバ。じき二十歳の青年です」

「はて・・ああ、ヨルバ君ね。思い出しました。下町寄りの辺りの路上でばったり会いましたね。確かに会いました。ふた言み言、何気ない事を話したかな。ほんの挨拶程度です」

「そのとき、彼に変わった様子は?」

「いや、特に強い印象がなくてね」

「何か持ち物が有りましたか?」

「ああ! 何やら細長い重そうな包みを持っていましたね。届け物か何かだろうと思ってよく見ませんでしたが」

「それから?」

「すぐ帰りました。夕方でしたんで」

「もしお願いしたら、今の話を法廷で証言いただけますか?」

「いや、私めは使用人の身分ですので、法廷はちょっとご勘弁ください」

「それは残念です。また何か伺うかも知れませんが宜しく」

 警部ら二人、礼をして踵を返す。

 執事も屋敷に戻ろうとする。

「あ、申し訳ない。もう一つ」と、警部。

「何でしょう?」

「お名前は?」

「バスティアン。バスティアン・ゴルドーと申します」

「ゴルドー村の?」

「左様です」

「バスティアンさん、昨夜のご帰宅は幾つの刻で?」

「玄関で閉門の鐘を聴きました」

「それじゃ、バスティアンさん。失礼します」


「ゴルドー村のバスティアンか・・」


                ◇ ◇

 アルパの冒険者ギルド。

 アーノルト・ガイツィガーが現れる。


「ちょいと仕事を頼みたいんだが」

「伺いましょう」と、おかみさん。

「いや、実は昨夜、親父が轢き逃げに遭ってね」と、アルノ眉根に皺寄せる。


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