慧の病
ヴァンパイアフィリア
それは好血症や吸血病とも呼ばれる疾患である。
定期的に血液を欲し、自傷を繰り返したりもする。
中には血液を外部から摂取しなければなんらかの禁断症状や体調不良を催すものもいるという。
そして、慧の場合は一ヶ月に一度程他人から血を提供してもらい尚且つ自分も血を流すことで平静を保てるという類い稀で、もっとも厄介なヴァンパイアフィリアであった。
それだけでなくふだんでも鎮静剤を持ち歩かねば、道端で猫の死骸を見たり、怪我をし血を流している子供を見ると異常にアドレナリンが分泌され興奮状態に陥り自我を保てなくなる程である。慧自身も精神病院や大学病院を行き来し、出来る限り普通に生きれるように常に努力している。
だがそれでも慧の願いを悉く裏切り、彼の症状は何故か悪化していく一方であった。
そしてとうとうその世、彼は人を喰らったのだ。
「……ん…」
どうやら小春が目を覚ましたらしかった。
声のしたほうに目をやると、なにやら布団がもぞもぞと動いている。
朝冷えに反応して小春が布団から一生懸命暖をとろうとしているのだろう。
なんだかそれは亀の子供が顔を出せずに蠢いているようで、思わず慧は吹き出した。
「ふ…こら、ちび。起きろ」
とは言え寝かせておくわけにもいかないため、慧は小春の塊を足でつつく。
「う〜」
寝ぼけなまこのうめき声が聞こえるが慧は構わずつま先で布団を攻撃した。
だが一向に布団から出る気配がない。
慧はため息をつくと別の方法で小春を起こすことに決めた。
軽い動作でベッドから下りるとのんびりと布団に近付いた。
そして予備動作もなくバッと小春の掛け布団をめくりあげた。
「わっ…!」
急な襲撃に驚いたらしく上半身を素早く起こし小春は慧を見上げた。
なにが起こったのか把握すると小春は不満そうな目を慧に向け、かすれた声で文句を言った。
「なにすんだよ」
「お前こそ何のうのうと寝てんだばか」
「寝てなにが悪い」
なんでこいつはこんなに偉そうなんだろう。
反抗的な小春の態度に意地悪い加虐的な思いが膨らむ。
まだ覚醒しきっていないらしく小春の目は虚ろだ。
このまま放っておけば再び眠りの世界へ帰ってしまうだろう。
「飯、食わねえの」
飯、という単語に少年はぴくりと反応する。
「マンションの前に行きつけの喫茶店あるから、俺もう行くけど?」
お前行かねえのな。
と、それを言い切る前に「行く」と小春はもそもそ起き上がった。
このガキは飯には弱いらしい。
扱い方を一つ心得、慧は満足した。




