表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
久遠の輪廻 ―アオイ妖忍伝―  作者: 優木悠
第三章 哀怨霧中

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/199

三之七

「しかし、こんな兜を持ち歩くなど難儀よのう」

 納戸に、他の雑貨と同じように、何気ない様子でしまわれていた、武田信玄から下賜された家宝の兜「雲鶴」を、黒ずんだ桐箱から取り出して眺めながら、あぐり姫が溜め息とともに嘆くのだった。

 食事が終わり、自室でしばらく休息していたが、明日のことを考えるとそわそわと、どうも気持ちがはずむようで落ち着かないのであった。それで気をまぎらわすように、納戸に来て、兜を眺めている。

「なにをしているのです!」

「ぎゃあ!?」座った姿勢のまま飛び上がるように驚いて、驚きつつも後ろを振り返って、「なんじゃ佐助ではないか!?」

「なんですか、兜にお別れの挨拶でもしているのですか?」云いながら、佐助はあぐりの横に腰をおろした。

「馬鹿を申すでない。私はそんな夢想家ではないぞ。もっと現実的な不安に頭を悩ませておったのじゃ」

「と云いますと」

「この兜、けっこう重いのじゃ」

「それはそうでしょう、鉄でできていますからね」

「これを高野山まで運ぶのは、難儀じゃと思うてのう」

「姫……」と兜を見つめながら佐助がぽろりと云う。

「なんじゃ」

「魂魄石だけ取り外してお持ちになればよろしいのでは?」

「うっ!?」あぐりは動揺した。そんな単純な発想も思いつかなかった自分に。「た、たまには頭が冴えるのう、佐助。褒めてつかわすぞよ」

「はいはい、恐悦至極に存じ上げ奉りまする」

「しかし、取れるかのう」

 あぐりは、兜を持ち上げ、横に置いた手燭の灯りにかざして、右に左に裏返しにして魂魄石の取り付けを調べてみる。全体が朱漆で塗られたその兜の形状は、ちょうど今日食べた銀杏の殻のように、真ん中にいくほど尖った形状をしている。分類としては桃形兜(ももなりかぶと)になるだろうか。周りは饅頭錏(まんじゅうじころ)が垂れていて、鉢の左右には脇立を取り付ける角元(つのもと)という金具があった。その兜鉢の額のところに、人の親指くらいの大きさの、楕円形をした黄色い透明の宝石が埋めこまれている。

 その黄色い宝石をじっと見つめていると、なにか人の心を波立たせるような、落ち着かないような気分になってきて、たしかに、人の魂魄が結晶化した、霊気を放つ魔石と云われれば、そんな気もしてくるのであった。

 あぐりは、次に、宝石を押したり、つまんで取り外そうとしたりしてみたが、どうにもこうにも、宝石は取れそうもない。

「ううん、なにかこう、糊のようなものでしっかりとくっついているようで、まったくはずれんぞ」

「どれ、姫様、かしてください」

 佐助はあぐりからひったくるように受け取って、自分でも押したりつまんだり、裏側から撫でてみたりしてみたが、やはり外れない。

「無理のようですな」

「ううむ、ということは、明日は佐助、おぬしこれを(かつ)いでくれよ」

「え、姫様が届けるとおっしゃったんだから、姫様が持つべきでは?」

「なにを云うか。私はか弱い非力な子供じゃぞ。こんないたいけな少女にこのような重たい荷物を背負わせようというのか?」

「ずるいなあ、勝手な時だけか弱い少女になるんだから」

「ふん、私は、ずっとか弱い少女じゃ」

「か弱い少女が、物干し竿を振り回したり、敵の刺客とおぼしき三人づれを(いぶか)って誰何(すいか)したりしますか」

「そんじょそこらの、か弱い少女とはちっとばかし違うだけじゃ」

「意味がわかりません」

「わかれ!」

 と云って、あぐりは手燭を持って立ち上がって、

「さて、明朝は早くに発つぞよ。佐助も明日にそなえてはよう寝よ」

「姫様こそ、いつも夜更かしばかりして寝坊するんですから、早く寝てください」

「やかましい!」

 あぐりは、けたたましく納戸を出ていった。自分が散々見ていた兜をしまいもせずに。

 佐助は溜め息をつきながら、その兜を桐箱にしまって、それを持って立ち上がった。実は念のために、今夜はこれを枕元に置いて寝ようと考えてここに足を運んだのだった。そうしたらはからずも、姫が兜を取り出して眺めていたのであった。

 碧たち三人を完全に信用しきったわけではない。しかし、信用してもいいかな、というくらいの気持ちにはなっていた。この数刻接してみて、そう思えてきたのであったが、兜のありかを探すより、家の者を安心させて取り出させてから奪い取ろうという魂胆でないとは云いきれない。

 ――それもすべて明日になればわかることだ。

 佐助は静かに納戸を出ていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ