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ウルトラミラクルスーパースター  作者: 録宮あまね
Ⅱ.ミステリー月間〈Oct.〉
8/42

Ⅱー6

 アパートに着き、すぐに玄関の明かりをつける。それから、本棚に囲まれた小さな部屋のテーブルに花束とうちわを置いた。

 『理央様LOVE』……このとてつもなく愛情の籠ったうちわは、別れ際に清水さんに返すべきだった。


 気力を振り絞り、家中の花瓶に花束を挿す。

 疲れた……。もう今日は日課の本を読む気力すらない。

 本当に、とんでもない一日になってしまった。コンサートに出かけただけなのに、突然思いもよらないキラキラに巻き込まれ、世界が一変してしまった。

 事故? なら、防ぎようもあった。全く想像もできない、これは天災みたいなものだ。


 着替えてお風呂に入り、何か食べようと思った。でも食欲は全く無い。温めた牛乳を飲んで、すぐにベッドに横になる。

 眠ってしまえば、こんな非現実的な出来事は全て忘れられるような気がして……。

 キラキラはどこかへ飛んで行ってほしい。遠い彼方へ……。わたしには、眩しすぎる。




 翌日の日曜は朝から雨だった。

 夢を見た。けど、夢の内容だけ忘れて、昨日の夢のような現実はしっかりと鮮明に覚えていた。


 最低限の家事をこなし、いつものように本を開いて視線を向ける。でも全く内容が頭に入って来ない。

 仕方ないので本を閉じ、それからあとはぼんやりとしていた。


 本が読めない。

 どうしても『理央様』の姿が勝手に脳裏に浮かんできてしまう。




 月曜の朝、良く寝たはずなのに疲れが全く取れていないと感じた。

 そしてやっぱり食欲はなかったけれど、無理にトーストとコーヒーをお腹に入れる。

 それから、コンビニでエナジードリンクを買い、重い足取りで会社へと向かった。



「茅野先輩、おはようございます!!」

 フロアに入った途端、明るい声が響いた。

 姿を確認するまでもなく清水さんだ。今日はずいぶんと早い時間に来ている。

「おはようございます」

 わたしは挨拶を返した。

「先輩、土曜はありがとうございました。コンサート、一緒に行けてすごく楽しかったです。それであの後、理央様の事務所からのスカウトってどうなりましたか?」

 彼女は楽しそうにそう聞いた。

 予想はしていたけど、早速その話だ。


 今は何も話したくなんてない。でも、逃げられないことは分かっていた。

 清水さんの目が、『理央様』を見つめているときと同じように輝いている。

「そのことですが……」

 わたしは俯いて口を開く。

「ああ!! やっぱり!! 断ってしまったんですね? 先輩、そういうの苦手そうですし……。勿体ないとは思いますけど、仕方ないですよ」

 まだ何も言ってないのに、彼女は勢いよくそう言って何度か頷く。

 あの状況では仕方がないが、完全にわたしが芸能事務所にスカウトされたと思い込んでいる。

 そんなことあるはずがない。とんでもない勘違いだ。

 すぐにでも否定したかった。



 けれど、よくよく考えて……思い直す。

 もしかしたら、勘違いしていてくれたほうがありがたいのではないか、と。

 彼女にうまく別な嘘をつけるはずもないし、だからって本当のことを言ったら余計大変なことになりそうだ。


「でも先輩が美人で、わたしはとっても得しちゃいました」

 わたしが考えを巡らせていることなんてお構いなしで、彼女はそう言った。

 そして意味深に可愛らしく笑って続ける。

「実は、あの事務所の人から貰った名刺の裏にメッセージが書いてあったんです。ご協力ありがとうございます。宜しければ非売品のウルスタのグッズを差し上げますので、後程ご連絡くださいって」

「え? それで連絡したんですか?」

 わたしは驚いて聞き返す。

「はい。嬉しくて昨日、連絡しました。グッズはうちの会社に送ってくれるそうです。もう楽しみで!! 先輩、本当にありがとうございます!!」

 言われてみれば確かに、清水さんはあの時柚木さんから名刺を受け取っていた。

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