表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウルトラミラクルスーパースター  作者: 録宮あまね
Ⅱ.ミステリー月間〈Oct.〉
3/42

Ⅱー1

 月が替わり、十月。

 コバルトブルーの表紙の本があまりにも面白くて、その作家の他の小説を読破するため、今月もミステリー月間を続行することにした。

 自分ルールなので無理にジャンルを変える必要もない。



 お昼のお弁当を食べ終えて、早速読みかけのミステリー小説を開く。

 人の気配がした。

 振り向くと、清水さんが神妙な面持ちで側に立っていた。


「茅野先輩、いよいよ明日です」

 清水さんの声は微妙に震えている。

 何のことだろう……? と思ったのは一瞬で、彼女の頬が朱色に染まっていくのを見て、すぐに先月の話を思い出した。

 同時に近頃清水さんの様子がおかしかったのは(なんだかいつもより小さなミスが目立っていた)、そのせいだったのかと妙に納得がいった。

「えっと、ウル……スタのコンサートでしたよね」

「はい。でも、実は桐原さんが熱を出してしまって」

 そういえば、昨日から桐原さんは欠勤している。

「熱が四十度近くあって、明日のコンサートには一緒に行けそうにないんです」

 まさかまたウルスタのせいということはないだろう。微熱程度なら分かるが、そんな高い熱なら普通に風邪かインフルエンザかもしれない。


「心配ですね……」

 わたしは言った。

「勿論桐原さんのことは心配ですけど、何が何でもコンサートには行こうと思っています!! 彼女も気にせず楽しんできてほしいって言ってくれました。それで……代理みたいで申し訳ないのですが、茅野先輩コンサートに一緒に行ってもらえませんか?」

 突然の思ってもいない誘いだった。

 わたしはどう返していいのか分からず、ただ呆然と清水さんを見てしまう。


「ダメですか?」

 彼女は真剣な顔でそう聞いた。

「……わたしアイドルとか全然分からないし、もっと……あの、若い同年代の子を誘った方がいいと……思います」

 慎重に言葉を選んだせいか、わたしの返事はたどたどしくなってしまった。

「いえ、ぜひ茅野先輩と一緒に行きたいんです!!」

 間髪開けずに、清水さんが勢いよくそう言った。


 自分で言うのもなんだが、常に本ばかり読み、人付き合いをしないわたしからは、いつだって『他人に関心がないオーラ』が出ているはずだ。

 それなのに、彼女だけはどんなときでも明るくにこやかに声を掛けてくれる。きっと孤立した人間を放っておけない、気配りのできるいい子なのだろう。

 彼女は少しだけ田舎の妹に似ていた。


「わたし、コンサートって今まで一度も行ったことないんです。ウルスタ……のことも全然分からないですし……。わたしなんか行っても……」

 清水さんは何も言わず、首を左右に振る。


「……本当にわたしが行っても大丈夫……ですか?」

 普段ならとても考えられなかった。ここは百パーセント断る場面。

 あまりにも彼女が熱心だったから……? 自分でも自分のことがよく分からない。

 もしかしたらその謎の『ウルスタ』、もしくは『理央様』を見てみたいという思いが、わたしの中にほんの少しくらいはあったのかもしれない。


「勿論です!!」

 清水さんは笑って言った。

 わたしが「……じゃあ、よろしくおねがいします」と言うと、「よかった。ありがとうございます!!」と彼女は更に全開の笑顔で笑った。


 彼女のおじいさんが運よく引き寄せた大事なチケット……。

 お礼を言わなくてはいけないのは、どう考えてもわたしの方だろう。


 アイドルのコンサートなんて本当に未知の世界。

 でもどんな非日常だとしても、一瞬にして終わるに違いない……。その時のわたしは、単純にそう考えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ