Ⅰー1
雑踏の中、駅ビルの巨大パネルを見上げる。
あるアパレルメーカーの宣伝用パネル。
いつもなら気にも留めず、ただ通り過ぎるだけ。
パネルに映る彼はウルトラミラクルスーパースター。肩を出したナチュラルな服で、色っぽくこちらを見つめている。
ウルトラミラクルスーパースター……。
キャッチフレーズなんかじゃない。そういう長ったらしい名前。
しかもユニットならまだ分かるけど、ソロでアイドルとして活動している。
確かに……そのとんでもない名前に恥じない美しい容姿。その上、なんとなく彼には不思議な魅力があるように思える。後輩たちが夢中になるのも分からなくはない。
でも、正直……バカみたいって思う。
「ウルトラ・ミラクル・スーパー・スター」
小さく声に出してみる。
彼の名前は……。
名前は……。
彼女たちが、さっきまで連呼しているのを聞いていたはずなのに全く思い出せない。
まあ、どうでもいい。なにも問題はない。
わたしには関係のないことだ。
今日は一日中パソコンの入力作業をしていたせいか右肩が重い。
帰ってゆっくりお風呂に入ろう。それで読みかけの推理小説の続きを読むのだ。
本さえ読めればそれでいい。
やっぱり、星屑ミナト先生の斜め探偵シリーズは文句なしに面白い。
斜めから物事を見る一癖ある探偵と、冴えない助手の軽妙なやり取りが心地良く、最後まで犯人が分からない奇想天外なトリックは今回の新作でも健在だった。
本当に見事なまでの伏線。もう、いっそ清々しい……。
次に読む本に手を伸ばす。
初めて読む作家のミステリー。
鮮やかなコバルトブルーに幾何学模様の表紙が印象的だ。帯のキャッチコピーを読む限り、表紙に反して内容は中々重そうだけれど。
今月はミステリー月間。
ジャンルを問わずに本を読むから、集中できるよう毎月自分で勝手に決めている。
わたしは仕事用のバックに、そっとその文庫本を入れた。