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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
14 一瞬の抱擁
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一瞬の抱擁 Ⅴ



 芳野高校がチャンスになったり、得点した時には、みのりの周りからは歓声が上がる。しかし、みのりは息を殺すように、遼太郎の一挙手一投足を見守ることで精一杯だった。


 これでは応援に来た意味がないと思ったが、遼太郎が走り、蹴り、パスし、ぶつかる……一瞬も気を抜けないそのプレーを全て覚えておきたいと、みのりは思った。



 前半は14対7と、1トライ1ゴールの差で芳野高校が勝っていたが、相手も3回戦まで勝ちあがってきているチームだけあって、これまでのように楽勝というわけにはいかないらしい。


 高校生の試合のハーフタイムは5分間しかなく、佐藤や荘野ら1年生が手早く用意してあるスクイズボトルを運ぶと、選手たちは水分補給をし、後半に向けて顧問の江口の話を聴き、プレーの確認し合う。


 遼太郎はみのりの方へ視線を向けることなどなく仲間の言うことに頷き、自らも仲間を、特に疲れが見え始めている後輩を叱咤激励していた。



 選手たちは再び肩を組み円陣を作ると、気合の一声を上げグラウンドへ駆けていく。


 その時、遼太郎ではなく二俣が、みのりの方に振り向き、黄色いマウスガードを見せてニカッと笑い親指を立てた。



 そのひょうきんさに、みのりは今までの緊張を忘れて、口を押えて吹き出した。同じく二俣の母親も遼太郎の母親も、笑いを漏らしていた。



「私がラグビーを観戦するときのために…」


と、みのりが隣にいる遼太郎の母へと口を開く。遼太郎の母も、返事の代わりに視線を向けた。



「狩野くんがかなり詳しくラグビーのルールや見どころを教えてくれたんですけど、彼は本当にラグビーのことが好きなんですね。スタンドオフは、技術もさることながら戦略を立てるからセンスもないといけないし、仲間に信用されてないといけないから、大事なポジションだと聞きます。試合を観ていると、江口先生が狩野くんをそのポジションにした理由が、よく解ります。」



 みのりが語るのを聞いていた遼太郎の母は、フフフ…と笑って眉を動かした。



「先生、褒めすぎですよ。家での遼太郎は、やっぱり私にお小言ばかり言われてます。お姉ちゃんがいるときは、お姉ちゃんからも。」



 自分の経験もなぞらえて、何となくその光景が想像できたみのりは、幸せそうな笑顔を見せた。


 学校では控えめでどちらかというと大人びた感じの遼太郎も、小さいときはやはりやんちゃで、そんな遼太郎を母親も姉も、今でもかわいいと思っているのだろう。



 こうやって相手側を一人でも減らし、「人数を余らせた方が有利」と、遼太郎が言っていたことをみのりは思い出していた。「余らせて(ボールを)外に出す」とも言っていた。


 もう少しでトライかと思いきや、待ち構えていた相手側のフルバックに阻まれて、ラックになった。ラックの側で、鋭くその密集を見つめる遼太郎……。


 後半が始まって、たったこれだけのプレーで、みのりの手のひらにはじっとりと汗がにじんでいた。



 負けたらそれで終わりということは、相手チームにも言えることで、後半になって相手チームの気迫にはすごいものがあった。かろうじてトライは回避できているものの、芳野側の陣地が狭い状態でのプレーが多くなっている。

 ボールの支配率も後半は、相手側の方が高いようだ。



――もう一本、トライを取れれば楽になるんだけど……。



 そろそろ後半も15分に近づきつつある頃、少し離れたところで組まれているスクラムを見つめながら、祈るようにみのりはそう思った。



 スクラムの最後尾にいる相手側のナンバー8が、ボールを抱え出す。すぐに相手のスタンドオフにパスするのが定石だが、スクラムのサイドを抜ける攻撃もありうる。

 案の定、密集のサイドを相手ナンバー8はそこを抜けてきた。ここを止めなければ、ピンチになるのは必至だった。


 この攻撃を想定していた遼太郎は、ためらわず正面から、自分より体の大きな相手にタックルに行った――。



「……ああっ!!――狩野くん!!」



 突然、みのりが大きな声を上げたので、隣にいた遼太郎の母親は驚いてみのりを見る。



「何?どうしたの?」



「今、狩野くんが……。」



 様子を窺うように、みのりは密集の方を見遣り、言葉を途切れさせる。



 タックルされたナンバー8はボールを落としてしまい、タックル自体は成功したようだが、遼太郎は同じく相手を止めに行った味方のセンターと交錯し、激しくぶつかり合ってしまった。



 ここでスクラムとなるので、レフリーの塩尻によりゲームが中断される。遼太郎は依然として、グラウンドの土の上に横たわったままだ。


 ようやく密集の中から手を引っ張られて起き上がった遼太郎の顔には、遠目でも真っ赤な血が目に付いた。




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