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Rhapsody in Love 〜約束の場所〜  作者: 皆実 景葉
17 ほのかな想い
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ほのかな想い Ⅶ



 今のみのりと同等に並ぶためには、ちゃんとした職業に就いて一人前になっていなければならない。そうでなければ、自分はみのりから〝一生一緒にいられる人〟として見なされないだろう。


 そのためには、今から自分は大学へ行き、それから就職しなければならない。これから四年以上もの年月が必要だ。


 その間、みのりがずっと独りでいるとは限らない。年齢的にも、周りから結婚を急かされている状況からも、自分が大学へ行っている間に、みのりが結婚してしまう可能性はとても濃い。


 何よりも、こんなに綺麗で気立てのよいみのりを、周りの男たちが放っておくはずがない。



 今、遼太郎の目の前には、成さねばならないことが沢山あり、またそれが遼太郎にとってはとても大きなことなので、そんな将来のことにまで思いが及ばなかった。今の自分を、みのりに認めてもらいたいばかりだった。



 だけど、それだけじゃダメなんだと、この時遼太郎にははっきり分かった。

 焦りのような悲しいような、何とも言えない不安な気持ちが顕れた目で、遼太郎がみのりを見遣る。



「そんな顔しなくても、就活する頃の狩野くんは、今よりもずっと成長してて、しっかりした大人になってるから、心配しなくてもいいと思うよ。そのためには、大学での時間をどう過ごすかだよね。でも、大丈夫。狩野くんはきっと、いい意味ですごく変われると思う。」



 みのりのいつもの励ましと背中を押す言葉に、少しは癒されはするが、みのりのことに関する不安は払拭されない。



「…私は、あと3年はこの学校に勤務して…、狩野くんが大学を卒業するときは他の高校に転勤してるけど、きっと今と同じことしてるわね。変わりたくても変われないというか…。もっといい先生に成れていればいいけど、歳は確実に取るから、オバサンにはなってるわね。」



 遼太郎を笑わせようと、みのりは自虐的なことを言ってみたが、却って遼太郎は不愉快そうな顔をした。「あれ…?」と、みのりも表情を曇らせる。



「先生は、オバサンなんかになったりしません。」



 遼太郎は断言する。みのりは、目をパチパチと瞬かせた。



「何でそんなふうに言えるの?4年たったら、私34歳になってるのよ?」



 それはみのりの単純な疑問だった。



「オバサンというのは、年齢でなるものじゃないと思います。俺のクラスの女子でもオバサンみたいなヤツはいるし。」



 目を丸くして、みのりは感心した。



「すごいわ!狩野くん。それ、的を得てる!『ヤツ』なんて、女の子に言っちゃあいけないけど。」



「それに…」



と、遼太郎は言いかけて言いよどむ。



「それに…?」



 もっと遼太郎のオバサン論を聞きたくて、みのりは腕組みをして身を乗り出した。



「それに…、先生はそんなに綺麗だし、とても可愛いし……」



 言いながら、遼太郎は急に顔に血が上っていくのを感じた。「だから、オバサンにはならない」と続けたかったが、言葉の途中で、息が苦しくなって口をつぐんだ。



 こんな遼太郎の褒め言葉を、いつものみのりならば、「お世辞が上手ね」と軽く受け流していたけれど、この日のみのりは敏感に反応した。



「か、可愛い……!?」



と、遼太郎の言葉を繰り返して、腕組みをしたまま固まって赤面する。


 遼太郎の口から「可愛い」と言われたことを、年甲斐もなく妙に意識してしまった。


 これまで男子生徒に「綺麗だ」とは言われたことは何度もあるような気がするけれど、「可愛い」と言われたのは、初めてかもしれない。他の男子生徒そう言うのであれば、「ありがとう」と流してしまっていたと思う。



 でも、遼太郎がそんなふうに思っていたなんて……。


 みのりは自分が遼太郎の目にどんなふうに映っているのか、突然気になり始めた。



 みのりに反復されて、遼太郎は自分が言ったことを再認識する。言葉を最後まで続けなかったから、却って違った意味にも取れそうだ。これでは告白しているのと、あまり変わらない。



 抱えきれず今にも溢れ出しそうなほどの自分の気持ちを、みのりに知られても構わないとも思ったが、まだ今の状態では優しく拒否されるのは、火を見るよりも明らかだ。



 それでも、今まではこんなことを言っても無関心だったみのりが、このように反応してくれたことは、遼太郎の期待感を大きなものにした。



 キーンコーンカーンコーン…



 視線を絡ませて赤くなっている二人の間を、職員朝礼の始まるチャイムが鳴り響く。




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