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第十話  俺死ぬのかな

 朝の冷え込みが徐々に増していき、俺は寒さで目を覚ました。

 最近は遅くまで勉強するようなったが机で朝を迎える事は無く、ちゃんとベッドに避難していた。

 この時期に机で夜を明かしたら凍死するかもしれないし。


 「さむ~、雪降ってんじゃないのか。」


 俺は寒さの余り白銀の世界を予想して窓を開けてみたが、そこには昨日と変わりない土気色が見えるいつもの庭だった。


 「なんだまだ降ってないのか。いつ雪降るのかな」


 俺が空模様を窺ってると向かいの窓が開き勇吾も顔を出してきた。


 「おっす、今日は冷えたなぁ。」

 「おはよ、寒くて目が覚めちゃったよ。」

 「空見上げて、雪が降るの楽しみか?」

 「そ、そんなじゃないし!」


 べ、別に雪なんて好きじゃないんだからね!寒いし、滑って転ぶし雪なんて降っても良い事ないんだから!

 でも雪ダルマ位なら作ってもいいかな。


 「んじゃまた後程。玄関まで迎え行くから準備しとけよ。」

 「いいや、たまには俺が迎え行ってやるよ。」

 「まぁ早く準備出来たらな。」

 「じゃあ競争だ!」


 勇吾より早く準備してやるからな!

 俺は急いでパジャマを脱ぎ始めると向かいの窓から勇吾の声が聞こえてきた。


 「バ、バカっ!カーテン閉めろってば!」

 「はっ?」


 勇吾が赤くなった顔を背けているのを見て自分の様子を見ると…、下着しか着けていない胸元が見えた。


 「ど、どっちがバカだよっ!こっち見んなスケベー!」

 「窓もカーテンも開けっ放しで脱ぎ出す奴があるかよ!」


 俺は脱いだパジャマで胸元を隠し勇吾を罵った後カーテンを閉めた。

 あ"あ"ぁ~、勇吾が恥ずかしがるから俺まで恥ずかしくなったじゃないか!

 体は女の子でも心は男なんだから、着替えてる所を見られたって別に恥ずかしく、ない、、ぞ…。





 結局さっきの事が頭の中をグルグル回り準備所ではなかった。


 見られた、そんなの平気、でも見られた、けど平気、だけど見られた…。


 「ったく何なんだよ俺は、結局自分だって女の子として意識してんじゃねぇかよ。」


 なんか朝から憂鬱になってしまった。寒いのに雪は降ってないし、勇吾に下着姿見られるし…。

 いや違う、それは只の言い訳で自分に対して嫌悪感から来るものだった。




 そうこうしてる間に勇吾が迎えに来た、玄関から聞こえてくるお袋との談笑に少し腹が立った。

 乙女の柔肌を見たんだから少しは動揺しててもいいんじゃないの?


 「止めよう虚しくなってくるからな。早く行かないと。」


 玄関まで行くと勇吾は背を向けていた、俺に対して気まずさがあるのだろうか。

 俺は靴を履くといつもの調子で声を掛けた。


 「待たせて悪いな。」

 「おう。じゃあ行くか。」


 結局いつも通りのやりとりをして家を出た。

 やっぱり勇吾は俺を元男として見てるから何とも思ってないのかな?

 その方が有り難いけど、何だか自分だけが意識してたかと思うと無性に恥ずかしくなってくる。


 鏡を見ていてもしかしたら自分は可愛い方じゃないかと思った時が何度かあったけど、これじゃ自意識過剰だよな。

 女の子としての自分を受け入れてるかもしれない自分がいて複雑な気持ちにもなる。


 人によって話し方を変えるのもハッキリ言って疲れる、けど男言葉で通した時に折角仲良くなった友達に引かれてしまうのも嫌だし。

 かと言って女の子として振る舞っても、中身を知っている勇吾に引かれてしまっても嫌だし…。


 あぁダメだ、どんどんネガティブな思考に陥っていく。

 なんか体は気だるいし、頭にモヤがかかったみたいでハッキリしないし、風邪でも引いたかなぁ。




 「あのさ。」

 「ん?どした?」

 「さっきから黙ってるけど朝の事怒ってんのか?」

 「えっ?いや、ちょっと考え事してたから。」

 「そうか…、あの、、、見ちゃってゴメンな。」

 「は?え?」

 「いや、だからその、裸見ちゃってゴメン!」

 「うぇっ、ちょ、ちょっと待てよ!」


 朝の通勤時間帯にいきなり裸とか大声で言うなよっ、みんなこっち見てんだろ!

 OLさんなんてニヤニヤしてるし、サラリーマンのオッサンの目が恐い!


 「大声で言うなよ、変な誤解されるだろ!うちのクラスの奴等に聞かれたら大変だぞ。」

 「歩が落ち込んでたからちゃんと謝っておきたくて。」

 「男に裸見られたからって落ち込む訳無いだろ!」


 やべっ、俺もつい大声出してしまった。恐る恐る周りを見ると…、やっぱりオッサン達の視線が釘付けになっていた。

 俺は一刻も早くその場を立ち去りたく勇吾の腕を掴んで逃げる様に走って行った。




 「ハァ、ハァ。あの、さ、あの場で、あれはないんじゃないか?」

 「悪っ、ちょっと周りが見えてなかったな。」

 「勇吾に、しては、珍し、いにゃ。」

 「語尾が可愛いな。」

 「うるへー、こ、こっちは息が、上がってん、だよ。」


 周りが見えない位動揺してるって思っても良いのかな、謝ってくるって事はそう言うことだよな。


 裸を見て動揺するなら女の子として見られてる訳だもんな。

 複雑だけど親友に拒絶されるより良いのかな。


 「何ニヤついてんだ?」

 「えっ?そんな事無いって!」

 「いや、絶対ニヤニヤしてたぞ!何か企んでるな?」


 勇吾の態度を見て無意識の内に喜んでたのか?そんな訳無い、そんなの断じて認めないぞっ。

 朝からの考えは全部無し、体は女の子でも心は男だ!


 「な、何だよその言い方!俺はさっきの辱しめを忘れないからな!」

 「だから悪かったよ。」

 「ダメ~、罰として帰りにアイス奢ってね。」

 「この寒い時期にアイスかよ?」

 「アイスは別だからな。」

 「ったく、女の子は別腹って言うからな。」


 ぐっ、勇吾の口から『女の子』って言葉が出てくると何だか腹立たしくなるのは何でだ?それは勇吾が俺の事をからかってるからだな。

 それに何も食べてないのに別腹も無いだろ。

 決まった、フルボッコにしてやんよ!


 「勇吾、そこに立て。」

 「さっきから立ってるから、なんだよ。」

 「いいから歯食いしばれ。」

 「ちょ、ちょっと待てよ、俺なんかしたか?」

 「問答無用、男だって寒くてもアイス位食べるだろうがよぉぉぉぉ!」


 俺の上方へ向けた正拳突きが見事に勇吾の顔面を捉えた!と思ったら軽々避けられた。

 なんだと!?スピード、キレ、コクどれを取っても渾身の一撃だったのに。


 「何で避けるんだよ?」

 「いやいやいや、そりゃあ避けるだろうが!」

 「さっきの一言で俺は深く傷付いたぞ、黙って殴られろ。」

 「毎日こんな事やってるよな。またサラリーマンから視線集めるぞ。」

 「う"う"ぅぅ~。」


 俺はいつものサラリーマンが居ないか辺りを見回すと、自販機の陰からキラキラした視線を送ってきているのを発見した。

 なんで毎日行き合うんだよ、あいつ絶対ストーカーだろ!


 「明日からもう少し早く登校するぞ。」

 「俺は構わないけど起きれるのか?」

 「絶対起きる!起きなかったら起こしてくれ。」

 「自分で起きる気ないだろ。」


 今日も朝から疲れた。静かに登校したいと思うのは贅沢な願いでしょうか神様。

 って全部神様のせいじゃねーかよ!





 学校に着く頃には体が一層だるくなっていた、やっぱり風邪でも引いたかな。

 最近絵梨ねぇ主催(?)の勉強会で体力使って夜も遅くまで勉強してたし、こんなんで体調を崩すなんて俺って貧弱だな。


 「歩なんか顔色悪いぞ、大丈夫か?」

 「朝からはしゃぎ過ぎたかな。ちょっとダルい。」

 「大丈夫かよ?保健室行くか?」

 「平気だって。それに今日小テストあるし、勉強した実力を試してみたいし。」

 「実力って、修行した格闘家じゃないんだから無理するなよ。」


 いつもなら少しでも具合が悪いと保健室に直行だったが、今はどれだけ勉強した成果が出るか試してみたいと言う気持ちが強かった。


 「格闘家か、良い例え方するじゃないか。そうだ俺は今まさに挑戦者なのだ。っておっとっと。」

 「何が挑戦者だよ、よろけてるじゃねぇかよ。」


 誰に対してでは無いが振り返ってガッツポーズをしたらふらついてしまった。

 廊下の壁にぶつかりそうになった所で、勇吾に肩を掴まれ激突は間逃れた。


 「すまん、ありがと。」

 「だから無理すんなって。」

 「朝から肩なんて抱かれてお熱いですね。」

 「うわっ、白沢さん!?」


 いきなり後ろから声を掛けられビックリしたが二年の白沢だった。

 もちろん今のは俺に対して言ったもので、明らかに不機嫌そうな顔をしていた。


 「みんな二人の事見てますし、先生に見られる前に離れた方がいいんじゃないですか?」

 「いや、わ、私達は別にそんなつもりじゃないって。」

 「じゃあどういうつもりなんですか?」

 「つもりって言われても、ただ壁にぶつかりそうになった所を助けてもらっただけだよ。」

 「何で壁にぶつかる必要があるんですか?わざとですか?」


 この子面倒臭いな、あからさまに俺の事敵視してるだろ。

 しかも俺より身長高いから見下ろしてきて威圧感あるし、何より目が恐いよぉ。


 「あ、あのさ。」

 「なんですか!」

 「ひいぃぃ。」


 ダメだ言い返せない。蛇に睨まれた蛙ってこんな感じなんだろう。

 年下の癖に大したプレッシャーだ、ここは奥の手を使うしかないな。


 「あ、あの、ごめんな「はいはい、二人とも落ち着けって。今日歩な、ちょっと体調悪いんだよ。」

 「で、でも。」

 「俺、何か綾乃を怒らせるような事したかな?だったら謝る、ゴメン。」

 「えっ、謝らないでください。私は別にそんなつもりじゃ。」

 「ん?そうなのか?」


 流石勇吾、こういう時の立ち回りが上手いな。

 まして白沢は勇吾に好意を持ってるから、その相手に頭を下げられれば引き下がるしかないよな。


 「すいません、失礼します。」


 白沢は気まずそうにして勇吾に頭を下げその場を去っていった。

 絡まれたのは俺なのになんで勇吾にだけ頭を下げんだよ、俺あの子苦手だ。


 



 「勇吾に謝らせて悪かったな。」

 「気にすんなよ、黙って見てられなかったからな。」

 「そもそも謝る必要あったか?」

 「歩だって謝りかけてただろ。」

 「あれは俺の奥の手だ。」


 情けない話だか俺はこの奥の手で何度も窮地を脱してきていた、怒っている相手にすぐ頭を下げれば大概その場を収める事が出来る。

 もちろんお袋には通用しないがな!


 「あの子俺の事敵視し過ぎなんだけど。」

 「確かにあからさまだし、歩も大変だな。」

 「他人事みたいに言うなよ、元はと言えば勇吾が俺達の事否定しないからだろ!」

 「でも肯定もしてないぞ、みんなが勝手に勘違いしてるだけだろ。」

 「それって質悪いぞ、いっそ白沢と付き合えばいいだろ?」

 「俺年下に興味無いから。」


 こいつこの話題になると曖昧な事しか言わないな。

 何言ってもさらりと交わすし、これを暖簾に腕押し、糠に釘と言うんだろうな。 

 昨日覚えたのが早速役に立ったな、俺の学習意欲素敵すぎる!


 って今は自画自賛してる場合じゃない、勇吾は何故こんなにもモテるのに誰とも付き合わないんだ?

 他校の子からも注目されてるし、街を歩けば高校生からも声がかかるのに勿体無い奴だよ。




 まさか、、、いや、考え過ぎだ…。

 でもこの前良い感じだったしな、家に来たがらなかったのは恥ずかしいからか?

 やっぱりそれしか考えられない、勇吾の行動を見てると決定的だ。

 

 俺の脳内で一つの答えが導き出された、これは勇吾の核心に迫ると言っても過言ではない筈。

 ちょっと今日の昼休みに問いただしてみよっと!


 「また何か変な事考えるてるだろ?」

 「ふっ、俺は全てを悟ったんだ。今日のお昼迄に君を素直にさせてみせるぜ!」

 「は?朝から何言ってんだよ、俺はいつでも正直に生きてるぞ。」

 「まぁいいから、まず行きますか。」


 とぼけて首を傾げる勇吾を余所に俺は教室へ向かった。



 教室へ入るといつもの面々が俺の机に集まってくる、もちろん俺の胸を狙う女子達だ。

 昨日見た音楽番組だったり、他クラスの男女関係だったりとよく毎日顔を合わせてるのに話題が尽きないなと感心してしまう。


 「てか今日のテストやばいかも。全然勉強してないし。」

 「あたしも、昨日の特番見てて全くやってないよ。」

 「期末近いしヤバイんじゃないの~?」

 「優花はいいよねぇ、頭良いし。胸もデカイし。」

 「直ぐ胸の話する~、胸と頭は関係無いから~。」


 確かにうちの女子達は直ぐ胸の話題に逸れていく、優花は触られまいと胸を隠しだした。

 これは俺に飛び火しそうな感じ…、しかし逃げ出そうにも椅子に座ってるし周りを囲まれてて身動きが取れない。

 これぞまさに四面楚歌!

 俺って凄い!覚えたての熟語を活かせるなんてやれば出来る子なんだな。


 「歩~、この場面で良く惚けてられるね?」

 「えっ!?」

 「あんた猛獣に囲まれてるの忘れてない?」

 「忘れてないです…。ご、ごめんなさい、みんな許してください。」


 悦に入っていた所を自らを猛獣に例える女子に突っ込まれ、つい奥の手を使ってしまった。

 俺の様子に女子達はニヤニヤして指先を怪しく動かし始めた、ヤバいこのままではその名の通り餌になってしまう。


 「あゆむちゃ~ん、今のは余計そそられるよ~。」

 「や、やめて、みんな恐いよぉ!」

 「ぐひひひひ、もう遅いよ~。」

 「木下さんやっちゃいましょ!」


 俺の奥の手は全く通用せず逆にみんなの変態心に火を着けてしまった。

 みんなの手が俺の体に一斉に襲い掛かってきたがその直後ー。


 「みんなおはよう~。ホームルーム始めるから席に着け~。」


 担任の登場で俺は難を逃れた、いつも頼りなく独身でむさ苦しい先生だけど今だけはとても格好良く見える!今だけは!


 俺の周りに居た女子達は悔しそうな表情で舌打ちする奴もいた。

 あんたらどんだけ本気だったの?


 「一時間目は俺の授業だったな、先週言った通りテストやるからな。」

 「「「え~!!」」」

 「え~、じゃない!期末試験も近いんだしみんな勉強してんのか?」


 やはり予定通り朝からテストか、でもここ最近勉強漬けの俺に死角は無かった。

 来るなら来いっ、俺の頭脳で蹴散らしてやる!





 わ、分かるぞ、なんて事だ。ついこの間まで問題文の漢字すら読めない所もあったのに、今では平仮名を読んでるが如くスラスラ読める。

 これが本気を出した俺の実力だっ!




 テストの半分を過ぎた所でお腹の下辺りが痛いような気がしてきた。

 いや、痛いと言うよりも重いと言った方が正しいかも。

 もしかして昨日の夜に食べたアイスが今頃になって猛威を振るい始めたか?


 授業中、ましてテスト中でもあるのにトイレ何て格好悪くて行けないしどうしよう…。

 今はテストに集中するしかない、考えてる間に嵐は過ぎ去るだろう。




 なんて思っている間にお腹の痛みはどんどんと増していった。

 最早テストどころでは無く意識さえ飛びそうになっていた。



 「三上どうした?顔色悪いぞ。」

 「いえ、大丈夫です。」

 「無理するな。おい保健委員、三上を保健室まで連れてってやれ。」

 「は~い。」


 隣に座ってた優花が間延びした返事をした、そう言えば優花って保健委員だったな今はどうでもいいけど。


 「あゆちん大丈夫?歩ける?」

 「うん、大丈夫。ごめんねテスト中に。」

 「気にしないで保健委員としての務めだから。」


 俺は優花に連れ添われて保健室を訪れると、保健室の先生は俺の顔色を見て慌ててベットに通してくれた。

 


 「じゃあ後は先生が着いてるから宮本さんは教室に戻りなさい。」

 「分かりました~、あゆちん無理しちゃダメだよ~。」

 「うん、ごめんね、ありがとう。」


 俺は優花に連れ添ってくれたお礼を言うと無言で親指を立てて保健室から出ていった。


 「三上さん大丈夫?具合悪いの?それとも何処か痛いの?」

 「大した事無いです、ちょっとお腹が痛くて。」

 「トイレは?」

 「まだです、授業中だったので恥ずかしくて。」

 「女の子だからねぇ、でも我慢は体に良くないんだから。宮本さんも戻ったから行ってきなさい。」

 「は、はい。」


 俺の体はお腹以外にも体全体が重くなっていて動くのが大変だった。

 今度は先生が付き添いそうだったがなんとか断り一人でトイレに向かった。


 人気の無い女子トイレを探そうと思ったが今は授業中だったから保健室を出て直ぐの所へ入った。

 個室へ入って直ぐ俺はまた気を失いそうになってしまった。

 真っ赤に染まったトイレ、俺の体から血が流れ出ていたからだ。


 「ああぁあぁぁあ、な、なんだこれ。俺何かの病気になったのか?」


 血が苦手なのもあるけど、いきなりの流血にショックの方が強かった。


 「俺このままトイレで死ぬのかな、どう見ても出血多量だよな。みんな今までありがとう、そしてさよなら。」


 『コンコン』

 「三上さん大丈夫?」

 「先生~、もうダメ、俺死ぬかも。」

 「えっ、ちょっと鍵開けてちょうだい!」


 俺は一応血を拭いてから個室の鍵を開けた、そこには慌てた先生が居て中の様子を窺ってきた。

 先生はトイレを見るなり気付いた感じで俺に話かけてきた。


 「もしかして生理?三上さん初めて?」

 「えっ?た、多分そうですけど。」

 「もうビックリさせないでよ!」


 先生は少し呆れた感じでため息を吐いた、今まさに大量に出血したのにそれはないんじゃないの?


 「いい三上さん?生理は女性にとって大切な事だけど、ちょっと大袈裟すぎたかな。」

 「で、でもあんなに血が。」

 「あなたはまだ少ない方よ、そもそも小学校で習わなかったの?」


 この前まで男だったので分かりませんよ先生。

 生理なんて何となくしか知らないのにいきなり大量出血したら、死を覚悟してもおかしくないレベルでしょ。

 しかしこれが一ヶ月に一回来るかと思うとホント地獄だな、やっぱり男に戻りたいよぉ!


 「とりあえずまだ顔色も良くないみたいだし、もう少し休んできなさい。」

 「はぁい。」

 「それこそ初めてなら生理用品持ってないでしょ?」

 「は、はい。」

 「じゃあ学校の貸してあげるから後で返却してね。 」


 返却?もちろん俺は生理用品なんて持って無いから買って返さなきゃないのか?

 薬局行っても女性コーナーは避けて歩いてたのに、ついにそこに足を踏み入れなきゃないのか…。


 あ~テストも途中だったしトイレで死にそうになるし、今日はホントについてないよなぁ。

 でもみんなが勉強してる時に保健室で休めるなんてちょっと優越感だな、最近遅くまで起きてたしみんなの好意に甘えて一眠りしようかな。





 俺は保健室のベットで寝ている間に夢を見ていた。


 小さい頃勇吾と遊んだ事、もちろん兄貴や絵梨ねぇも一緒だった。

 四人が仲良く遊んでる所を外から見ている自分が居た。

 それから小さい俺は少しずつ成長していき、絵梨ねぇとは遊ばなくなり兄貴とも遊ぶ事が少なくなっていった。


 少し寂しくなったが勇吾だけは変わらず俺と遊んでくれた。

 勇吾が楽しくしてると俺まで楽しかった。

 いつか言われた勇吾の言葉が夢の中で響いた。



 『俺達親友だから何時までも一緒にいような!』





 「そうだね…。」


 夢の中の俺が返事をしているつもりだったが、実際に返事をしていてのは今の自分だった。

 目覚めると俺は天井を見つめ昔を思い出していた。

 勇吾はあの時の言葉を今でも忘れずに約束として守っていた、だから特別な相手を作らずに俺と一緒にいてくれた。


 朝は勝手な想像を膨らませ得意になっていたが俺は大きな勘違いをしていたみたいだ、これじゃ勇吾に合わせる顔が無いな。




 「おっ、起きたな?どうだ調子は?」

 「はっ?」


 突然聞こえてきた声の方にゆっくりと顔を向けるとそこには勇吾が居た。

 俺は寝顔を見られたと思い一気に恥ずかしくなった、こればかりは女子でなくても恥ずかしいランキングの上位に入るはず。

 ちなみに俺の中での一位は授業中にトイレに行くことだ。


 「な、な、ななんでここに居るの?」

 「何そんなに慌ててんだよ。心配だから見にきただけだろ。」

 「先生は?普通女の子が寝てる所に通してくれる訳ないだろ?」

 「今職員室行ってた。俺と歩が仲が良いの知ってるみたいで普通に通してくれたぞ。」

 「もしかして先生達にも俺達の話広まってんのか?」


 なんでそんなに話が広まるの?しかも中学生が交際なんてしてんのがバレたら、普通は呼び出されて説教される筈なのに何で誰も言って来ないんだ?


 「かもな、てか何の夢みてたんだ?寝言言ってだぞ。」

 「寝言を聞かれる…、俺にとっては四位にランクインだ。しかも普通は聞いてないふりするだろ!」

 「何がランクインだって?しかも今更寝言聞かれて恥ずかしい間柄じゃないだろ?」

 「う、うるせー!何年一緒に居ようが恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!」


 長年連れ添った熟年夫婦じゃあるまいし、なにより親しき仲にも礼儀は存在するんだよ!



 「それより昼飯食べられるのか?一応歩の弁当持って来たぞ。」

 「もうそんな時間なの?テストは?」

 「とっくに終わったよ、帰りに返すって言ってたぞ。」

 「マジか、俺半分位までしか解けなかった。」

 「半分も分かったなら凄い進歩だな。」

 「合ってるかは別としてだけど…。」


 俺達はそのまま保健室の机を借りて弁当を食べ始めた、なんか勇吾と食べるの久しぶりだな。


 「それにしてもよく女子共来なかったな。」

 「木下達に行かせると保健室が騒がしくなるから優花が俺に行け、ってさ。」

 「そうか、今日は優花にお世話になりっぱなしだな。」

 「ちゃんとお礼言っとけよ。」

 「分かってるよ、親父かよ!」



 弁当を食べ終わった所で丁度保健室の先生が戻ってきた、教室に戻る旨を伝えると先生は少し淋しそうだった。


 「折角藤崎君も来て良い感じな所を観察出来ると思ったのに…。」

 「私達そんな関係ではありませんので、先生の一言で余計戻りたくなりました。」

 「恥ずかしがっちゃって可愛い~、先生の前では全てを晒け出していいのよ。」

 「例えその様な関係でも人前で晒け出すような趣味はございませんのでっ!」


 端から見たら男女だろうけど、俺から見たら立派な男同士だし変な目で見られるのは勘弁願いたい。


 「あっ、三上さん戻る前に一言。」

 「まだ何かあるんですかっ?」

 「そんな怒らなくていいでしょ~。あのね、あまり自覚してないようだから言っておくけど、さっきトイレで『俺』って言ったでしょ?」

 「は、はい。」

 「女の子なんだから言葉使いは気を付けなさい。でないと藤崎君に愛想つかされちゃうよ~。」

 「……分かりました。」


 あの時はパニクって言葉使いまで気が回らなかった、お袋もそうだったけどやっぱり女の人はそう言う所を気にするんだな。



 「そう言えば朝に話して事って何だ?」

 「俺何か言ってたっけ?」

 「俺を素直にとか言ってただろ?」

 「その事か、もういいんだ忘れてくれ。」

 「何だよ、気になるだろ。」


 俺の暴走した勘違いを言った所で勇吾は確実に怒るだろうな、下手したらまた保健室送りになるかもしれない。


 「俺の勘違いだったから気にすんな。」

 「じゃあ帰りのアイスをダブルにしてやるから話せ。」

 「えっ!?ホントに?…でも怒らない?」

 「怒らない、絶対に約束する。」


 この事は俺の胸に閉まっておくつもりだったのにアイスの誘惑が、しかもダブルだなんて。

 さっきまでの俺よ許してくれ、アイスの誘惑には勝てないんだ。

 はっきりと喋ってすっきりしてアイスをしっかりご馳走になろう!


 「あのな、勇吾が彼女作らない理由がな。」

 「その事かよ、それで?」

 「もう好きな人が居るんだなって。」

 「は?それだけかよ?」

 「いや続きがあって、その人はいつも身近に居て、仲が良くて…。」

 「ちょ、おま、もういいって。それ以上は誰かに聞かれてたらマズイだろ!」


 やっぱり動揺してる、これは俺の勘違いではなかったのか?ここまで話したら全部言ってしまった方がすっきりするし、最後まで行かせてもらいます!


 「そしてお互いを尊敬しあえる、勇吾の好きな人って…。」

 「うわぁ、やめろって!」

 「うちの兄貴だろ?」

 「、、、は?」


 どうだ?これはもう頭脳は大人の子供探偵だって真っ青な名推理だ!

 俺に全てを見破られ勇吾はすっかり放心状態になってしまっている、それもそうだよな思いを寄せる相手の弟にバレてしまうんだから。


 「大丈夫、兄貴には黙っててやるから。その代わり口止め料にアイスをトリプルで手を打ってやるから。」

 「…何が口止め料だってぇ?」

 「えっ?いや、ちょっと調子に乗っちゃったかな?ダブルでもいいよ!」

 「ダブルもトリプルもねぇよ!どうなったらそんな考えに行き着くんだよ!」

 「だって兄貴に会うのが恥ずかしいから俺ん家に来たがらないんだろ?この前の勉強会で兄貴の事ベタ褒めだったし。だからさ…。」

 「んな訳ねーだろが!」


 初めて見る勇吾の鬼の様な形相に俺はすっかり小さくなってしまった。

 やっぱり俺の勘違いだったか、これじゃいつも眠らされる迷探偵のオジサンそのものじゃないか。


 ヤバい殴られるか?殴る事はあっても殴られた事はないから勇吾の腕力は未知数だ。

 もしかしたら首から上が無くなってしまうかも、こうなったら今日二度目の奥の手を使うしかない!


 「はぁ~、歩と居ると飽きないな。怒る気も失せる。」

 「そ、そうか?俺はてっきり殴られるかと思ったけどな。」

 「『私は』だろ?それに俺は女の子を殴ったりしないから。」

 「ぐっ、それってさっきの仕返しか?」

 「どうだろうな、ははは。」


 勇吾は笑ってはぐらかしてるけど明らかにからかわれてる、殴られるよりマシだからここは堪えておかないと。

 そもそもが勝手な勘違いのせいだから俺が悪い訳だしな。





 午後の授業開始に間に合うように教室へ戻ると、みんなが心配した様子で集まってきた。


 「歩ちゃん大丈夫だったのかよ?俺すんげー心配したんだよ!」

 「なんとかね、少し休んだら良くなったよ。」

 「最近遅くまで勉強してて疲れが貯まってたみたいだ。」

 「勇吾には聞いてねーよ、でも戻ってこれて良かったよ!」

 

 先生は勇吾に俺が生理だとは話してないみたいだな、いくら誤解された関係でも流石にそれは言わないだろうな。

 でも俺が生理になったなんて知ったら勇吾はどんな反応するんだろう…。

 

 「あゆちんお帰り~、もういいの?」

 「うん。あのさ、今日は色々とありがとね。」

 「気にしなくていいのに~、友達でしょ~。」

 「うんっ、ありがとぉ!」

 「また言った~。で、どうだったの?」


 優花が最後にこっそりと聞いてきた、やっぱり他の人の具合とか気になるのかな。

 俺は勇吾が黒川と話をしているのを見計らって優花にこっそり耳打ちをした。


 「結構血が出てびっくりしてさ、死ぬんじゃないかと思っちゃったよ。」

 「えっ?いや、その話じゃなく…。」

 「あゆむちゃ~ん、元気になったお顔を見せてごら~ん。」

 「うわっ、ちょっと引っ張るな!そっちには行きたくないよー!」


 こっそりと優花に生理の具合を話すと木下達がやって来て、変態女子軍団の渦に引き込まれてしまった。





 「私が聞きたかったのは勇吾君と保健室での甘い一時だったのに~。でもあゆちんの生理ってこれが初めてだっけか~?」





 こうして改めて女の子になってしまった事を実感して、友人に一つの疑問を残してまま憂鬱な一日は過ぎて行った。

 この疑問がまた新たな騒動を引き起こすのは後の話だ。

 

 



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