最終章 第49話 決戦の朝
決戦の朝 夜明けが来た。
しかし太陽は昇らなかった。
正確には——昇ったが、見えなかった。
帝国の軍が、三角形の外周を覆っていた。数万の兵士が、八峰の結界を遠巻きに囲んでいる。
その数があまりにも多く、地平線まで人と鎧と旗で埋め尽くされていた。
そして上空——音界が、歪んでいた。
肉眼では見えない。しかしラベルには感じ取れた。
精霊の層が、引き裂かれようとしている。
波のように、断続的に。
帝国の音界破断機が——最終起動に向けて、段階的に出力を上げていた。
「来た」ラベルは三角形の内側から外を見た。
隣にウィークがいた。 破邪白眉斎の純白の外装——龍の紋様が全身を走る。
それが朝の光を受けて、静かに輝いていた。
「感じるか?」ウィークが問う。
「感じる。音界が——苦しんでいる」
「そうだ。今、精霊たちも感じている」
八峰の守護龍たちが——各峰で動いていた。
サーガラ峰から地の振動が来た。
マナシ峰から霧が広がった。
ウハツラ峰からリズムの鼓動が大地に伝わった。
タクシャカ峰から風と雷が空に集まった。
ヴァスキ峰から光が溢れた。
ナンダ峰から深い闇の振動が来た。
サナンダ峰がその全てを繋いだ。
アナンダ峰の温かい光が、
三角形の内側全体を包んだ。
「守護龍たちが——戦いを感じている」ラベルは言った。
「彼らは縛られていない」ウィークは言った。
「それでも、ここにいる。共に在ることを選んでいる」
(それが——信頼だ) 全員が集まった。
ラベル、ウィーク、ルーナ、カイ、ドノヴァン、カルテットの四人、ロロ、テレーズ、ヴァッソ。
そして——ヴォルガが来た。
昨夜、三角形の境界の外から声をかけてきた。帝国の徽章を外して。剣だけを持って。
「今夜だけ——同じ側に立たせてくれ」音楽が戻れば——帝国が変わるかもしれない。それを見たい。
「今夜だけ、だ」ウィークは言った。
「今夜だけで十分だ」 ラベルは全員を見た。
「俺から——一つだけ言いたいことがある」 全員が、ラベルを見た。
「廃村で一人でいた時、何も持っていなかった。
名前だけがあった。音楽も、力も、仲間も——何もなかった」ラベルは続けた。
「でも今は——全部ある。音楽がある。ノエルがある。師匠がいる。みんながいる。精霊たちがいる。各国の人々がいる。守護龍たちがいる。レゾナントたちがいる」
「それを——今日、全部使う。全部、出し切る」ラベルはノエルを持ち上げた。
「出し切った後に——世界が変わっていれば、それでいい」
「シンフォニックキング」テレーズが言った。
「一つだけ言っておく」
「なんですか?」
「下手くそでも——誠実に弾け」
「最初に教わったことです」
「わかっているなら——行け」




