第八十四話 いざ、出陣!
「王宮……?」
シェリーが鸚鵡返しに聞き返した。
「そう、王宮だ。俺たちはまず、火の領域の中枢へ向かう」
やっぱりね。火の領域全部を俺たち三人で捜索するのは時間かかるし厳しいわけですよ。ならばこの、【閃光の魔術師】である俺が王様に直に掛け合って、火の民全ての協力を得るのが早いだろうと考えたわけだ。
火の民、つまり人間の社会は王制を取っていて、他の種族より圧倒的に多い人口を、その王がしっかりとまとめ上げているのだ、と以前サヤから聞いていた。
前にサヤを追ってきたあのクズ四人衆は【閃光の魔術師】である俺を見ている。どうやらこの世界では、伝説の英雄を見つけ出す事はかなりの偉業のようだから、あいつらが言いふらして噂が広まっていると見て間違いないだろう。この作戦の成功率は高いんじゃないかな。
そしてこの作戦にはもう一つ利点があった。サヤの身の安全だ。【閃光の魔術師】が探している【赤の鎧】操者としてサヤを捜索してもらうわけだから、サヤを見つけたヤツも彼女を丁重に扱わざるを得ないだろ?
俺がそう説明すると、シェリーもセレンも、納得したようにうなずいた。
実は、スマホの充電が相当やばい事になっていた。海底にいて電池の減りが早いというのもあったんだろうが、状況的に充電できる状態じゃなかった事もある。昨夜は俺の精神状態と肉体疲労のせいで充電どころではなかったしね。
人が住んでいないこの浮遊島には【光の道】はもちろん【水の道】もないから、魔操鎧で飛び降りるしかないというのが俺たちの結論だった。魔操鎧をDLする分、充電がもつかなぁ。心配だ。
案の定、ガイオウをDLしたら、あと一機DLできるかどうかという状況になった。朝食前に三人分の服を出しといてよかった。下手に電池切れしてたら、水着でうろつく事になったぞ。危ない。
「……私は鎧いらないわ。滝を泳げば降りられるから」
セレンが言った。海の中の急流を泳いでいけるのだから問題ないらしい。まぁ、下の滝つぼはそれなりに深いだろうし、うーん、さすが水の民は水さえあればかなり最強だな。
緑の鎧をDLし終わると、いよいよ充電は残り1%となった。もちろん【省電力モード】に切り替わっている。これじゃあこのログハウスはここにおいていく他はないなぁ。
ログハウスをセーブする事をあきらめ、俺は地図アプリを開いた。ここから下に下りる滝は三つある。どれが一番王都に近いか確認しようと……。
「……あ」
スマホの充電が0%になり、画面が真っ暗になった。まいったな。これじゃあ充電するまで何も使えないぞ。
だが、このままここで手をこまねいているわけにはいかない。行くしかないか!
「よし、一番近い滝から飛び降りよう」
俺は二人にそう声をかけると、ガイオウに乗り込んだ。
……さぁ困ったぞ。
俺はガイオウのコクピットで、真っ黒な画面のスマホを手に途方にくれていた。
そうなんだよなー。ガイオウを動かす時はいつもこのスマホを拡大して、コンソール代わりにはめ込んで使ってたんだっけ。充電が切れた今となってははめ込む事すらできない。
「おにいちゃーん?」
緑の鎧に乗ったシェリーが、動こうとしない俺に声をかけてきた。いや、動かしたいんだけどね。動かしたいのは山々なんですが。
くそー、何とかなんねえのかよー。
俺はやけになってスマホの電源ボタンを押した。画面には無常にも、赤い電池マークと「0%」の表示が出るのみ。
こ、ここで充電するのか? いま? え、今なの? まだ欲望の高まりも、心の準備もなんもないんだけど?
俺は焦りながら再び真っ暗になった画面をにらみつけた。
……ちょっと待てよ。
少なくとも0%の表示は、微妙に残った電気を使ってるんだよなぁ。だとしたら、その表示が出てる間に素早く引っ張れば、ワンチャンいけんじゃね?
俺はすーーーっと息を吸って、電源ボタンを押した。次の瞬間スマホの角をつまんでぐいっと引っ張った。
赤い電池マークが表示される短い時間に、スマホはみょーんと引き伸ばされ、ガイオウのコンソールにぴったりと収まった。
ガイオウが、起動した。
……さぁ困ったぞ。
俺はガイオウのコクピットで、コンソールに収まった真っ黒な画面を前に途方にくれていた。
いや、ガイオウは起動してるんですよ。そりゃね、もともと石板的なものをはめ込んだら動くようになってたんでしょうよ。
だけど、いつもスマホのサポートで直感的に操縦していた俺としては、どう動かしていいかわかんないわけ。
んまぁ、適当だ! 今は戦闘するとかそういうわけじゃないし、歩けりゃいい!
「お待たせ、シェリー、セレン。行こうか!」
「はぁーい!」
シェリーの元気な返事と、セレンの待ちくたびれたような顔。一番近い滝に向けて歩き出す緑の鎧に続いて、俺はガイオウのレバーを操作し、ペダルをぐっと踏み込んだ。
ガイオウは緑の鎧の方を向いたまま、後ずさりするように後退した。
いやもうね、七転び八起きとはよく言ったもんで。
ガイオウは100m足らずの距離を歩くのに何度も転び、明後日の方向に歩き、水に落ち、かなりの時間をかけた。いやはや面目ない。あのかっこよく戦っていたガイオウが、すっかりコミカル路線に変わってしまいそうな勢いだった。
見かねたシェリーが緑の鎧でガイオウを抱き上げようとした時、もう遠慮する力もありませんでしたよもう。
結局俺とガイオウは、滝のそばまで抱っこして運んでもらっちゃった。はー情けない。
滝の上から見下ろすと、足がすくんだ。これ、どれくらい高いんだろう。結構な高層ビルの屋上よりまだ高いんじゃないか。いや高いだろう。高いに違いない。決定。
前にも書いたと思うが、俺、極度の高所恐怖症なのである。こんな高いの無理。見下ろした瞬間硬直。ってゆうか、見下ろす前から足すくんでたんだよね、実は。
こんなところから紐なしバンジーとかもう絶対頭おかしいです。いくらなんでも阿漕過ぎます。一瞬ちらっと脳裏をアコギがよぎる位錯乱気味。
サヤを助けたい。探さなきゃ。そのためにはここからとびおr……うわあああ。
俺は恐怖のあまりガイオウを後退させた。とりあえずこの大地の縁から距離を取ろうと思ったのだ。
目の前に青空があった。目の前に空しかなかった。あれ?
俺が後退させようとしたガイオウは勢い良く前進し、空中に飛び出していた。
な、なんだこのお約束感は……!
薄れ行く意識の中で、それが俺の、最後の思考だった。
次回予告。
シェライアだ。
火の民の国にようやく降り立った私達。
火の民達とのファーストコンタクトは……?
はたしておにいちゃんはサヤを見つけられるのか!?
次回、Take It All! 第八十五話
「火の民との遭遇。」お楽しみに!
また美人さんの登場かぁ……。でも……あれっ?




