第七十三話 セレンの決断。
マスク野郎達の砲撃はまだ続いていた。
唯一奴等に攻撃が届く緑の鎧はシェリーと共に沈んでしまった。しばらく窒息する事はないと思うが、急いで助けなきゃ。水中で、一人で、シェリーはどんなに怖いだろう。
だが、ガイオウだけじゃ何もできなかった。強大なパワーと頑丈さを持っていても、手が届かない。くそ、俺に何かできる事はないのか。
やはり、セレンの力がどうしても必要だった。いかに英雄と言われていたって一人じゃ何も出来やしない。
「セレン、頼む。力を貸してくれ。シェリーが危ないんだ。あのままじゃ死んでしまう。グランデ・トルチュだってこのままじゃ……」
セレンは顔を伏せて、力なく首を横に振った。何故だ。何故なんだ。
琵琶の演奏に乗せて伝わってきたセレンの心は、自由を求めていた。なら何故、その自由を得られるチャンスを、青の鎧の操者になる事を拒むのか。
彼女の心の穴は、何なんだ。
自らの身体を傷つけ、俺の命を奪おうとしていた事も、それにつながっているんだろう。それが何なのか。
――禁呪。
突然、セレンの心から伝わってきたその言葉が頭に浮かんだ。
セレンが自由を得ようと踏み込んだ禁忌。
そのせいで、彼女が青の鎧に乗れないのだとしたら……。
「そんなの、やってみなくちゃわからないだろ!!」
俺は思わず叫んだ。セレンの身体がビクッと震えた。そりゃそうだろう、セレンには何の事だかわかるまい。
「禁呪だかなんだか知らないけど、それがどうした!
セレンは青の鎧に選ばれてるんだ! そうだろ!
水の民である事を捨てたんなら、どうして水の中で呼吸できる?
禁呪なんてまやかしだ! セレンはだまされてるんだ!
それに……!」
俺の声に言霊が乗り始めていた。セレンの呼吸が激しくなり、身体が火照って赤みが増していくのがわかった。
「セレンが人間だろうが水の民だろうが関係ない! 俺はセレンを連れて行く! 自由にしてやる!」
セレンは身をよじる様にしてガイオウの手から逃げ出した。足元がふらついていた。
「だから、頼むセレン! 青の鎧に乗ってくれ! 君が本物の自由を手に入れるために!」
俺の言霊が彼女の心の穴に入っていくのがわかった。だが完全ではない。まだ途中で引っかかっているような、鍵が合わないような感覚が俺の中にあった。
しかしセレンは立ち止まり、俺を振り向いて、小さくこくりとうなずいた。
「そうはさせるかよぉ!」
気色悪いAの声が響いた。あーあ、つくづくパターンなヤツだな。
マスク野郎とわかりやすい単純クソアホ悪役Bが傷ついたグランデ・トルチュをいたぶり、この気色悪いAが俺達の邪魔担当ってわけか。
下手に近づけば返り討ちに遭うと警戒して、相変わらず水上からの遠距離射撃だ。ガイオウのスピードなら、かわすのは容易い。的も小さいしね。
俺はあっという間に祭壇に接近すると、ピラミッドをよじ登った。なんか罰当たりな気もするけど、ガイオウだって聖なる神の鎧なんだからいいよね?
ピラミッドの頂上に注ぐ滝の中に、大きな人魚の像があった。全高|(全長?)はガイオウの四倍くらいあるだろうか。間違いない、これが青の鎧だ。
上から降り注ぐ滝の勢いは凄まじかった。いや、これ水圧とかやばそう。青の鎧に達する以前に間違いなく流される。
セレンを持っていない方の左手を滝に突っ込んでみようとしたが、いや無理。さすがのガイオウのパワーでも無理。これ、多分結界なんだろうな。
さてどうしたもんか。
それにしても、やっぱり上から落ちてくる滝の水が外に流れ出してないのは不思議だよな。普通あふれるよな。
……そうか。これ、ピラミッドの下にもずっと水路が続いてるんじゃないか? そして、海に排出されてるんじゃないだろうか。いやそうに違いない。
て事はだ。
この激しい流れに逆らって、通路を泳ぎきる事ができなきゃ青の鎧には乗れないって事だ。水の民以外には当然無理だわな。
「セレン、この下に鎧まで続く水路があるはずだ。わかるか?」
セレンは意を決したようにうなずいた。俺はピラミッドから飛び降りると、水際に向かってガイオウを走らせた。
とたんに気色悪いAの砲撃が再開された。そうか。こいつ俺が祭壇に上がっている間は攻撃しなかったんだな。祭壇を傷つけちゃいけないと思っていたとはなかなか殊勝なヤツ。
「くそ、当たれ! 当たれよ!」
気色悪いAは、リアル系ロボットアニメ主人公が第一話で言いそうな台詞を連呼していた。残念、この作品、もう73話です。それにガイオウはそんな遠距離射撃を食らうほどのろまじゃねーし。
なんて余裕かましている内に水際に着いた。ついたとたんに顔面に弾丸を食らってしまったのは、距離が近づいたせいか。くそ。
「頼む、セレン!」
俺はガイオウの右手からセレンを水中にそっと放した。うーん、釣り人が釣った魚をリリースする時ってこんな感じか。
さて、こうなると青の鎧が起動するまで暇だ。気色悪いAなんか遊び相手としてもつまらんしな。
それにしても、マスク野郎とわかりやすい単純クソアホ悪役Bは飽きずにグランデ・トルチュを攻撃している。傷口に攻撃するとか、ほんとに見下げ果てたやつらだ。
よし決まった。グランデ・トルチュを助けるためにも、あいつらをおちょくってやろう。
「おーーーい、お面のおじさーーーーん」
俺は思いっきりおちょくり声で叫んだ。
「そんなにでっかくて動かない的に撃ちまくって、楽しいー?」
マスク野郎の動きが止まった。あはは、相変わらず単純だねえ。
「俺さぁ、あんたみたいに戦闘のプロじゃないから良くわかんないんだよねー。完全に安全で、失敗する事もあり得ないような状況で相手をいたぶる楽しさ? 神経? ねえ教えてー!」
【静脈付き】がこちらを向いた。よし!
「俺素人だからさぁ。やっぱりどうしても正々堂々とやりあいたくなっちゃうんだよねー。一方的に勝てる相手と戦っても面白くないじゃん?」
「こいつ……言わせておけば……」
と、パターンな台詞を吐いたのはわかりやすい単純クソアホ悪役Bだ。これで三機、いや六機とも俺に夢中ってわけだ。
「あー、こっちに向かっても無駄だよ。俺、あんた達と戦う気ないからさ。俺素人だから」
「この期に及んで命乞いなど、通用すると思うか!」
マスク野郎がガチ切れしていた。うーん、もっと余裕もってどっしり構えてくれないと、小物感がハンパない。せっかくの悪役なのに。
ピラミッドにちらっと視線を走らせる。セレンはまだか……?
「あれ? さっき言ったの聞いてなかった? 俺素人だからさ、一方的に勝てる相手と戦ってもつまんないんだってば」
あれが命乞いだと思うあたり、察し悪すぎだろこいつら。もっとわかりやすく言ってやろうか。
祭壇の人魚像が鈍く光を放ち始めた。セレンの持つ宝玉に呼応しているのだ。像の色が青く変わっていく。よし、いいぞ! 青の鎧の復活だ!
「お前らには、俺と戦う資格がない……わかったかよ!」
俺はそう叫ぶと、怒り狂って乱射してくるマスク野郎どもの弾丸をかいくぐって水際から距離をとった。祭壇から人魚像が消えているのをちらっと確認すると、俺はくるりと振り向いて、ガイオウを全力で走らせた。無論、マスク野郎達のいる方向へだ。
「イヤーーーーーーーッホウ!」
飛んでくる弾丸を素手で叩き落しながら水際まで走り、俺はガイオウを思いっきりジャンプさせた。一気にマスク野郎達との距離が詰まる。
「な、何っ!?」
俺が水上に向かってジャンプするとは考えていなかったのだろう。やつらの焦りが面白すぎる。
「だが! その鎧では水中で動けまい!」
俺に向かって銃を構えようとした【静脈付き】がぐらりと傾いた。ディーノの鎧に何者かがぶつかったのだ。
なんとか態勢を立て直すマスク野郎の目の前で、俺は悠々と水上に着地した。
そう、俺の足元で、セレンの操る【青の鎧】がガイオウを支えていた。
次回予告。
サヤです。
水上に降り立ったガイオウ。しかし直後にカイ様をピンチが襲う!
その時、澄んだ悲しい音色が響き渡った。
セレンさんの心の音色は何を訴えかけるのか。
次回、Take It All! 第七十四話
「セレンの音色。」お楽しみに!
カイ様の怒った声も、スキ……っ//////




