第五十三話 オーディション開催決定!
「お、オーディション……ですか!」
ディーノの声が感嘆に震えていた。目がきらきらと輝き、テンションMAXな雰囲気。
「で、オーディションとは、一体何なのです?」
知らないんかい! じゃああの感嘆の声はなんだ。紛らわしい。
「一人一人審査して、相応しい者を決めるんだ。まぁ、操者が現れればそこでオーディションは終わりだから、一般的なオーディションとはちょっと違うかも知れないけどな」
二人は感心して聞いていた。ニミュエがおずおずと手を上げた。
「あのっ! プロデューサーさん! オーディションではどういう審査があるんですか?」
おいおいニミュエ、呼び方! こいつはどこから仕入れた知識か知らないが「オーディション」という言葉は知っているようだ。だいぶ偏ってるけど。
「審査内容は当日まで明かさない! もし事前に情報が漏れた場合、情報漏洩に関わった者全員を失格とし! 審査方法を変更する!」
俺は拳を振り上げて叫んだ。二人はその声に身体を震わせた。
「とにかく明日から始める。一度に五人くらいずつ審査するから、ある程度広さのある部屋を用意してくれ。
まずは魔操鎧部隊のメンバーからだ。その中にいなければ、対象を広げていこう。鎧捜索もあると思うから、スケジュール調整をよろしく」
二人は神妙な顔でうなずいた。
宝玉の事は今は話さないほうがいいだろうと俺は判断した。話せば今ここでディーノとニミュエの選定をやることになる。その結果がどうであれ、あまりいい方向に進むとは思えなかった。
考えすぎかも知れないが、鎧捜索が終わるまでは操者の決定を長引かせた方がいいような気がしたのだ。
なんかね、どうもね。水の民が信用できないんだよなぁ。なんでだろ。
ファーストコンタクトがディーノだったのも大きいかも知れない。総帥ゼットやニミュエにはそんなに悪感情はないんだけど。
水の領域に来てから化け物騒ぎなんかもあったし、ナーバスになっているのかも知れなかった。
でもまぁ、危機管理としては少し過剰なくらい警戒しておいて、結局何もなかったという方がいいに決まってるから、この判断は正しいはずだ。
「審査員長はもちろん俺だが、サヤとシェリーにも審査に加わってもらうからそのつもりで準備してくれ。オーディション開催時間は、そうだなぁ。午後三時から午後六時くらいでいいだろう。受ける方も準備をしたいだろうしな」
「わかりました。では審査員の先生方には15時に会場入りしていただくとして、オーディション参加者は14時半に控え室集合、15時になり次第5~6名ずつ会場へ移動、という事で手配いたします」
ニミュエがきびきびと答えた。今度は有能な女性秘書キャラか。結構色んな引き出しを持ってるな。
俺が妙な所に感心していると、二人は妙に高いテンションで、オーディション開催の準備のためにと部屋を出て行った。
さて。
部屋にぽつんと残された俺は急に暇になってしまった。
まあ前の世界にいた時は、家に帰りゃ一人ぼっちでしたよ。慣れてるはずなんだが、なんでこう手持ち無沙汰なんだろう。
そう言えば、こっちの世界に来てから何もすることがなく一人になる事はなかった気がする。前の世界にいた時は、家に帰れば毎晩一人で何もする事がなかったのになぁ。
こっちに来てまだ一週間もたってないのに、随分昔の事だったような気がする。まぁ時間としては五日くらいだけど、話数で言うともう五十三話だから、昔のことのような感じがするのも当たり前か。
あ、そうか。前の世界では、PCでゲームやったり、エ○動画見たりして時間つぶせてたけど、今はPCもないし、スマホもサヤに貸しちゃってるから暇なのか。
納得はしたが、前の生活のしょぼくれ加減に、ちょっと涙が出そうになった。
いやいや、いいじゃないか。今は充実してるんだし。
俺はそう思い直して立ち上がった。
そう、オーディションだ。どんな風に進めるか、審査員で話し合っておかなきゃな。
ドアを開けると、まだあどけなさの残る女の子|(もちろんブラ込みでも地平線のようなバストを誇る)が俺に深々とお辞儀をした。
「あの、何か御用でしょうか」
よく考えればここは水の民総帥の城だ。勝手に出歩くなんてダメなのは当たり前だ。てゆうか、勝手に歩き回ったら迷子にもなるしね。
「ちょっとシェリーとサヤに用事があってね。部屋まで案内してもらっていいかな?」
優しい超絶イケボでそう尋ねると、女の子は顔を赤らめてうつむいた。そうか。やっぱり水の民は総じて声フェチか。
「えっと、あの、サヤ様はお部屋にいらっしゃると思いますが、シェライア様はゼット様と面会しておられます」
女の子はもじもじしながら答えた。そうか。シェリーは緑の鎧操者だし、長老直属の部下でもあるわけだから、総帥ゼットとしても話したい事はあるだろう。
とすると……。
サヤも料理の研究中だろうし、話し合いはまた後にするか。
「ありがとう。じゃあ、また後にするよ」
にこやかにお礼を言うと、女の子は真っ赤になった顔を上げ、意を決したように口を開いた。
「あの、あのっ!! 奏唱者様! わ、私のような子供でも、鎧の操者になれるでしょうか!」
真剣な表情で問いかける少女。彼女の年齢に相応しい純粋な憧れが強くあふれていた。
「私、シェライアさんを尊敬しているんです! まだあんなにお若いのに、すごくしっかりしてて、大人っぽくて……。私もシェライアさんみたいになりたいんです!」
彼女はシェリーが聞いたら複雑な気分になってしまいそうな事を勢い込んで言った。完全にシェリーが同年代くらいだと思い込んでいるようだった。うーん。シェリーは139歳だけどね。
だが、俺は彼女のそんな真剣な想いに触れて、一つ疑問が生じていた。
操者に選ばれる条件って何なんだろう。
もともと生まれつき決まっていた事なのか、それとも努力で勝ち得る事ができるものなのか。
決まっていた事なんだったら、本人が拒否した場合、英雄が鎧の力を使えないことになるし、努力で勝ち得る事が出来るのなら、操者の資格を持つ者が複数現れる事も考えられる。
そのどちらかがわかっていない以上、この無垢な少女に「頑張ればきっとなれるよ」なんて無責任な発言はできない。
「俺に言えるのは、君が操者になれないとは決まってない、って事だけだ。ごめんね」
俺は真剣にそう答えた。
「シェリーはね、最初自分が緑の鎧の操者になんかなれるわけないって思い込んでいたんだ。それでもいつも頑張っていた。頑張りすぎるくらいにね。
操者になれるかどうかなんか関係なく、頑張ることは君自身のためになるんじゃないかな。頑張りすぎるのは良くないけどね」
俺はシェリーが初めて緑の鎧に乗った時の事を思い出しながら言った。彼女は神妙な顔をして聞いていた。
「シェライアさんがそんな風に……わかりました! 私もがんばります!」
少女は両手の拳を握り締めて気合を入れた。
「明日から鎧の操者オーディションを開くから、ちゃんとエントリーするんだよ」
「オーディション……ですか! はい! 燃えてきました! ありがとうございました!」
少女はまた深々と頭を下げた。むむむ、可愛い。
この子が青の鎧の操者だったら楽しくなりそうだなぁ。いや、俺はロリコンじゃないけども。
そうだ、この子の心の色は……。
俺が彼女の瞳を覗き込もうとした時。
「カイ様ぁ……」
隣の部屋のドアが開き、ふんわりした表情のサヤが顔を出した。
「あの、私、ちょっと眠くなっちゃって……。すまほ、お返ししようと思って……」
なるほど、眠くなっちゃったからそんな空気なのね。でも、なんか少し声上ずってるし、色っぽいんだけど。
「わかった。ゆっくりお休み。明日からまた忙しくなるからね」
俺はスマホを受け取って、サヤの頭を撫でた。サヤは気持ちよさそうに吐息を漏らした。
「はぁい、カイ様、おやすみなさい……」
サヤはぽわーっとした顔で微笑むと、ドアを閉めた。
「じゃあ、俺も一休みするかな。サヤの事はしばらくそっとしておいてあげてね」
俺は少女にそう声をかけると部屋に戻った。
充電しなきゃなぁ。
俺は一つため息をついた。海底にいる間は電池の消費が激しいとなると、結構充電しんどいかもしれないなぁ。いやまぁ、気持ち的に揺さぶられるだけで肉体的な疲労とかはないんだけどさ。でもねえ。
ちょっと憂鬱なテンションでスマホの画面をチェックする。
「え……!?」
俺は自分の目を疑った。思わず二度見したが、間違いはなかった。
充電は、100%になっていた。
次回予告。
シェライアだ。
青の鎧の操者をオーディションで決める。
おにいちゃんの発案は突拍子もないものだった。
だがその裏には練り上げられた真の意図が存在した。
次回、Take It All! 第五十四話
「妄念→会議→潜入開始」お楽しみに!
せ、潜入……!? な、なんか楽しそ……コホン
いやかなり重要な任務だな……。




